第19話 最終フロアに辿り着いた三人がピンチになる話


「へぇ~? ジャトレ君は財宝の為に復活を。ミカ君は力と名声かぁ。なるほどなるほど」



 キュプロの使った宝玉の話のあと。

 俺たちもある程度、彼女に事情を正直に話すことにした。


「ごめんなさい。新人冒険者だなんて嘘をいて……」

「くひひひ。別に構わないよ。むしろ初対面で警戒するのは当り前さ。むしろ頭の回る人間の方がボクは好きだよぉ」


 頭を下げて謝るミカに対し、ニカっと笑顔を見せるキュプロ。


 懐が広いのは大変良いのだが。

 その理論で言うと、ハナから正直に喋ったキュプロはどうなんだ?



「ボクは自分でもマトモじゃないって、ちゃんと自覚してるからさぁ~」

「ははは、それは何より。で? その上で俺たちに同行を続けるってことで良いのか?」


 もう既に新ダンジョンの入り口からだいぶ進んでしまっている。

 今さらコイツがここから別行動をするとはとても思えないが。



「もちろん! むしろ話を聞いて、更に興味が湧いたよ。特に――ジャトレ君。キミのその不死性は実に興味深い……」


 キュプロはくひひひ、と嫌な笑いを浮かべながら、俺をジロジロと見てくる。


 顔なんて息がかかりそうなほど近い。

 だが微塵も色っぽい雰囲気からはかけ離れている。


 うーん、なんだろう。

 ヘビが餌をどう喰ってやろうか迷っている光景に近い。


 当然、餌の方が俺なわけだが……。



「どんな攻撃を喰らっても金さえあれば生き返る。これはすごい能力だよ。……実に良いサンプル実験対象だ」


 おいおい、誰がサンプルだって??


「ねぇ、ジャトレくぅん。キミ、ボクのモノ実験台にならないかい?」


「お前はいきなり何を「駄目ですっ!! ジャトレさんは私のモノですよぉ!!」……いや、誰が誰のモノだって?」


 ミカが突然、キュプロに食って掛かった。


 だがその言葉は聞き捨てならないぞ?

 いったいいつ、俺がお前のモノになったっていうんだ?



「ジャトレさんは私が最初に見つけたんです! そう簡単に他の誰かのオモチャにはさせませんよ!」


「お前っ!? 陰で俺のことをそんな風に見てたのか?」


「強くてお金も持ってる男性なんて、他にそうそう居ませんもん! 絶対に譲るものですか!」



 ひ、ひでぇ!!

 クッソ最低だなお前!?


 せっかくこっちは、少しだけミカのことを認め始めてきたっていうのに!!


「ならボクと共有シェアならどうだい?」

「それならオッケーです! 存分にお使いください!!」

「お前ら、俺をネタに盛り上がるのもいい加減にしろよ……?」


 さすがに言い過ぎた、と笑う馬鹿二人。

 冗談だと分かっていても、ムカつくものはムカつくんだよ。



 ロクなモンが詰まっていない頭をペシッと叩き、俺はさっさと歩き出す。


 コイツらにいつまでも構っていられるか。

 まだまだ先は長い。

 とっととダンジョンを攻略して、金と装備をゲットしないとな。



「待ってくださいよ金づるさん~!!」

「置いて行かないでくれよ、実験台くぅん」


「お前ら二人とも、ゾンビに食われて死んじまえ!!」




 ◇


 キュプロと出逢ってから、約1日が経った。


 この中に太陽は無い。

 しかし冒険者はみな、ダンジョンで産出した懐中時計を持っている。だから時間をほぼ正確に把握することができるのだ。


 結局、キュプロはそのまま俺たちに同行することになった。

 人数が多ければ休憩中の警戒も楽だし、こちらにもメリットもあるのだが……。



「まったく。お前が任せろって言うから調理をやらせたのに、酷い目に遭ったぜ」

「アレを料理というのなら、私が普段やっているのは何なんでしょう……」

「ひひひっ!! そんなことないだろぉ~美味しかったじゃないかぁ」


「「辛すぎて料理の味がしなかったんだよ(です)!!」」



 ダンジョンに入った時から変わらない石造りの通路。

 時々現れるモンスターを蹴散らしながら、俺たちは昨晩食べたナニカについて話していた。


「香辛料を全部入れるなんて、非常識過ぎるだろ! 料理をしない俺だって、それぐらいのことは分かるぞ!?」


「味って言うのは脳で感じるものなんだよぉ? ってことは強い刺激ならそれだけ美味しいってことじゃないかぁ~」


「お前の脳味噌は腐ってんじゃねぇのか!?」


「アンデッドのキミに言われたくはないよねぇ~」


 コイツ……!!

 こっちはまだ舌がおかしなことになっているんだぞ?


 アンデッドの俺でも異常を感じてるんだから、ミカなんてもっと悲惨だ。

 可哀想に、昨夜からずっと自分に回復魔法を掛けていた。


 金輪際、この女には食材に手を触れさせてはならない。

 宝玉の呪いのせいで味覚まで壊れちまったような奴に、料理は無理だ。



「ジャトレさん、もう最深部に着きましたよ。もうあの事は忘れましょう」

「あぁ。まさかメシで死に掛けるとは思わなかったからつい、な……」


 このマッドサイエンティストに構うとロクなことにならない。


 この女は人が悶えているのをただ笑うだけじゃなかった。

 飯を食うのから排泄に至るまで、俺の行動を逐一メモってやがるのだ。



 呪いについて話した時、不死性について興味があるって言っていたからな。

 コイツは自分の脳を神薬エリクサーで再生させたがっている。死んでも再生する俺から、何かのヒントを掴もうとしているに違いない。


 もしかしたらあの料理も何かの実験だったのでは、と今ではそう疑ってしまう。



「さて、新ダンジョン初踏破の報酬は何が出るやら」


 ともかく、今はダンジョンに集中だ。


 最後のフロアはそれまでとは様相が変わり、駆け回れるぐらいの広さのある墓地になっている。

 墓標の合間を進んでいき、奥にある祭壇へ向かう。



「あからさまに今からアンデッドが出ますよって雰囲気だよな」

「きひっ。だと良いんだけどねぇ」

「ちょっと、キュプロさん? また私の魔法に頼ろうとしてません?」


 ミカには悪いが、俺もちょっと期待していたりする。


 なにしろミカの浄化魔法は、このダンジョンとの噛み合わせが最高すぎる。

 道中で出てきたリーダーゾンビや、その上の種族であるゾンビナイトも浄化魔法で一撃だった。


 だからダンジョンのボスもアンデッドであれば、きっと魔法で楽に倒せるはず。



「さて、それじゃあいくぞ?」

「はい!」

「ジャトレ君、やってくれたまえ~」


 二人に見守られつつ、俺は祭壇にそっと触れた。

 最後の試練に挑戦者が現れたことを確認したのか、中心の神像がぼんやりと輝き始める。


 さぁ、どんなボスが現れることやら……。



「じ、じじ地面が揺れるぅ~ねぇ~」

「なにか来ますよっ!!」

「これは……下かっ!?」


 ――よっし、狙い通りっ!!


 地響きと共に、墓標の下からわらわらと様々な種類のゾンビが顔を出した。

 同時に中央の石碑が崩れ、巨大なゾンビが姿を現し始める。


 あのデカブツがボスに間違いない……!!



「やった、やりましたよ! 当たりです!!」


「おぉ~? これはロイヤルゾンビかい? 随分とでっかいねぇ~。……ん? どうしたんだいジャトレ君?」



 ミカとキュプロと一緒に俺も喜ぼうと思った矢先。


 俺は自分の身体に起きたハプニングに困惑していた。



「身体が……動かねぇ!?」





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