第24話 モンスターの性行為に想いを馳せる金の亡者の話
どうやら俺が居るガルデン国というのは、モンスターの飼育が盛んらしい。
人類にとって、モンスターとは明確な敵だ。生まれた環境や種族を問わず、奴らは人間を襲って食うからだ。
だから俺たち人間は奴らを見ただけで嫌悪し、排除しようとする。
これは国や宗教を問わず、人類に共通した認識……つまり常識だった。
ところがどっこい。
とある頭のおかしな奴が、『逆に奴らを食えないか?』と考えだしたのだ。
まぁいつの時代でも、こういう馬鹿な奴は必ず出てくる。
大抵そういうのはモンスターに食われて勝手に消えていくので、ほとんど問題にはならないが。
しかしコイツの場合、そうはならなかった。モンスターに戦いを挑んだのではなく、家畜とするための方法を考えたのだ。
そう。コイツはただの馬鹿じゃなく、頭の良い馬鹿だった。
しかしモンスターは人の言うことなど、絶対に聞きやしない。耳はあっても、言葉を理解する脳が無いのだから当然である。
ソイツは悩んだ末、ある方法を思い付いた。
動物と交配させることで、新しい種族を生み出してはどうか?――と。
そしてそのアイデアは見事に成功した。
半モンスター、半動物化させることで、凶暴さは大幅に軽減。さらに人に飼われることで、安定した生活を送れると学習させたのである。
こうして人類は、良き隣人となる新たな生命体を得ることになった。
この発見は、ここ百年で一番の大革命となった。あの害しかないモンスターに利用価値を生み出したのだから、それも当然だ。
当時のガルデン国王はその発案者を保護し、モンスター牧場を国策として支援した。
最初は貴族や民の反発もあっただろうが、国の利益になると信じ、説得した。
結果的にこの国策は、莫大な富を生み出した。国王の目は確かだったと言えるだろう。
彼は今でも偉大な賢王として讃えられている。
賢王の時代の後も、モンスターを用いた研究は順調に進んでいた。
飼育する技術も飛躍的に発展し、様々な分野で利用され始めた。
当初は半モンスターと揶揄されていたが、今では半獣と名前が改められ、広く民に親しまれるようになった。
とまぁ、半獣の歴史とはこんな感じらしい。
俺もこれに関してはキュプロに聞いた話なので、具体的な品種改良の技術に関してはチンプンカンプンだ。
この世には使えるモンスターと、害にしかならないモンスターの2種類が居る。
俺にはそれしか分からないが、普通に生活する分にはこれで十分だろう。
あぁ、ちなみに先日食べた牛鳥も、この半獣だったりする。
鳥モンスターと牛を交配させることで、最高級の食用肉として生まれ変わらせたのだ。
……そう考えるとすげぇ技術だな。散々堪能した今じゃ、発案者のことを馬鹿だなんて言えないわ。
もちろん、居るのは食用の半獣だけじゃない。日常生活にもこの改良技術は使われている。
移動に使う馬とモンスターを組み合わせた快速馬車はその代表例だ。
通称、馬ヘビ。
名前からも分かる通り、これは馬とヘビのモンスターを組み合わせたものだ。
姿形がまるで異なる馬とヘビを、いったいどう交配させたのか?という疑問は浮かんでくるが……その辺はまぁいい。
モンスターの性行為なんて想像したくもないしな。
ともかく需要なのは、走る速度だ。
馬の馬力とヘビの筋力が合わさることで、とんでもない速さと持久力を獲得した移動用特化の半獣。
なんと食事さえ摂れれば、休むことなく走り続けることが可能らしい。
……聞いただけでも化け物じみてるよな。
もちろん御者の休憩は必要だが、隣の国までたった2日で移動できるようになったというのだから驚きだ。
移動手段として優秀というのは日常生活において非常に便利である。しかしこれは戦争にも利用できるのだ。
今のところ国同士の戦争は起きていないが、もし開戦でもしたら他国を圧倒できるだろう。
「……にしても、馬ヘビはマジで速かったな」
何でこんな話をしていたかっていうと。
実際にこの馬ヘビという乗り物を初めて使ってみたのだ。
最初は俺もニョロ長い見た目に抵抗感があったのだが……。
「いやぁ。あの速さと快適さは癖になるな。馬ヘビ、屋敷で飼えないかな……」
レクションの街から出ている馬ヘビ馬車に乗って、約半日。
俺は今、山を2つほど越えた先にある、リーザルの街へとやってきていた。
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