第11話 ヴァンパイアを討伐し、呪いの宝玉をゲットするための作戦会議をする話


「それで? これからどうするんだ?」

「どうする?……とは?」


 ミカが作ってくれた朝食を綺麗にたいらげた後。

 食後のハーブティーを飲みながら、俺たちは屋敷の食堂でまったりと会話をしていた。


 ちなみに清らかな気分になると浄化されそうになるので、俺は念のため果実水にしている。

 あー、そう考えると酒も駄目かもしれないな。儀式で清めに使われることもあるし。



「あのクソ鎖女吸血女王だよ。どうやって攻略する?」


 確かに一度は負けたが、それで諦めるような俺では無い。

 元剣聖だかなんだか知らんが、何かしらの攻略法はあるはずなんだ。


「私も中々ですが、ジャトレさんも相当に狂ってますよね」

「ふん、なにを今更。そうじゃなきゃ、金の亡者なんかになってねぇよ」


 吸血女王の居る岩窟ダンジョンはこの街のすぐそばにある。

 冒険者になりたての初心者が練習がてらに行くような場所だ。


 もし先に誰かに気付かれ、吸血女王が討伐でもされたら……。


 それは駄目だ。

 あの宝玉は俺が貰う。他のどうでもいい奴らに奪われてたまるもんか。



「ふふふ。それもそうでしたね。んー、でもそれは無理だと思いますよ?」

「あぁん? なんでだよ!?」

「昨日のことをちゃんと思い出してくださいよ。呪いにかかる前ならいざ知らず、今の私たちでは簡単に返り討ちですよ? 鎖でミンチにされて一巻の終わりです」


 ……むぅ。

 別にまた無策で突っ込む、とかそういう短絡的なことは別に言ってないじゃないか。


 だいたいこうやって素直に相談しているんだから、元国選のプロなら何か良い攻略法を考えてくれよ。



「したがってですね。まずはそれなりに準備を整える必要があります」

「……準備?」


 お、なんだよ。

 良いアイデアがあるのか?


 のほほんとした顔から一転、キリッとした表情になったミカ。

 人差し指をピシっと上に向け、続きを意気揚々と語り始めた。



「まずはジャトレさんを、更に上のランクに進化させましょう。それに加えて、装備の強化。これも必須事項です」

「んんっ? 進化はまぁ、分かる。だが装備の強化だって?」


 昨日リーダーゾンビに進化したとはいえ、俺の種族はまだ下から二番目だ。

 つまりは、初心者でも狩れるような雑魚モンスター。パワーもスピードも全然足りていない。


 逆に言えば、伸びしろがあるってことだけどな。進化して強くなれるんなら、俺としても大歓迎だ。



「強化と装備に関しては別の話だぞ。俺は今の武器が気に入っているんだ」


 見た目は派手な宝剣だが、見た目だけじゃない。実用性も高い、ちゃんとしたものだ。


 宝剣、月光の旋律。

 様々な強化能力が付与された、いわゆる付与宝剣エンチャントソードだ。アレを偶然手に入れられたのは俺の人生の中でも本当に幸運だった。数多あまたの財宝を目にしてきた俺でも思わず手が震えたぜ。



「たしかに、あの宝剣は素晴らしいです」

「んだろぉ? ならアレでいいじゃねぇか」

「しかし、アンデッドの貴方でも使えるような特殊な装備が必要です。……ジャトレさん、誤魔化さないでください。あの宝剣。本当は使うだけで、かなりのダメージを喰らっていましたよね?」


 ……ちっ、バレていたか。

 普段はポンコツのくせに、余計なところで良く見ていやがる。


 たしかに、ミカの言う通りだ。

 もちろん、宝剣自体には問題はない。


 だがアンデッドの身体である今の俺にとって、宝剣の持つ“聖なる気”は大きな弱点だ。


 それでも俺は、アイツ以外の武器を使うつもりはなかったんだよ。



「じぃぃいい……」


 アホなのは自分でも分かってる。

 だからそんな呆れた目で俺を見るなって。



「……はぁ、仕方のない人ですね。それが原因で、ダンジョンでも最低限しか使わなかったんでしょう?」

「お前なぁ、分かってたんなら手伝えよ。人のことをジロジロと観察しやがって……」


 結局あの日は、最後まで戦闘の“せ”の字もしなかったじゃねぇか。


「むぅ……いいじゃないですか。それだけ、私はジャトレさんのことが気になっているんです。……ちなみに、お金はどうでした? あれだけダメージを貰っていたら、相当減らされちゃったんじゃないです?」


 ……うぐっ。

 せっかく忘れようとしていたのに、嫌なことをほじくり返しやがって。



「昨日のでかなり減っちまってるよ。……このままじゃ俺は近いうちに死ぬかもな」


 俺がかき集めていた財宝も、宝玉に吸われて残り少ない。


 金貨で概算すると……だいたい100枚ぐらいだな。つまり何もしないでいても、100日後に宝玉の呪いで俺は死ぬ。


「私も教皇様への奉納金がありますので、お金が必要なんですよねぇ」


 俺は宝玉に金を吸われ、ミカは解呪のために大金を払っている。


 お互いに宝玉の呪いのせいで金欠だ。

 一刻も早く金策をする必要がある。



「仕方がないですね……あまり乗り気にはなれませんが、ここは酒場へ行ってみましょう。お金が稼げて、ジャトレさんの装備もゲットできるダンジョン。その情報が必要です」


 ……やっぱりか。

 結局はダンジョンが一番稼げるんだよなぁ。


 だが、どうして酒場に行くんだ?

 街の冒険者が集まってるからか?



「えぇ、新人の冒険者から一流までが集う、いわゆるゴロツキの掃き溜めです♪」


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