第4話 アンデッドになった男の実力を知った聖女がちょっとだけ興味を持つ話


「カラダを好きにさせてもらう……ってそういうことですか」


 ボソリと呟きながら、岩肌で出来た洞窟の中を歩いていく俺と聖女ミカ。


 あんなことは言ったが、別に酷いことは何一つしていない。

 武器である杖も持たせたまま、俺は彼女を自由にさせている。むしろ服なんかは戦闘用の装備でガッチリ護られている状態だ。


 それなのに何故かコイツは、ちょっと不満そうに口を尖らせている。



「あ? 逆にお前は何だと思ったんだ?」

「べっ、別に~!? 何も変なことなんて、微塵も思ってなんかいませ~ん!!」


 なんだよ、ならいいじゃないか。


 どうせ俺がミカの身体を使って、イヤラシイことをするとでも思ったんだろ?

 まったく、勘違いもはなはだしいぜ。



「ていうかですね。普通にダンジョンアタックをするならするって、最初からそう言ってくださいよ!! けがれなき乙女に、あんなことをさせるなんて……」


 暗がりで良く見えないが、赤面しながら杖で俺の背中をポカポカと叩き始める。

 別に痛みなんて感じないが、ウザったいことこの上ない。


 だいたい何を言っているんだ、コイツは?

 俺が屋敷でキチンと説明しようとしたら、ミカが勝手にまた服を脱ぎだしたんじゃないか。


 挙句の果てには唖然としていた俺に「服着たままがいいとか……中々のセンスですね!」などと、アホな事を言い出す始末。


 だから俺はもう、考えるのをやめた。

 騒ぐミカに無理やり服を着させ。杖も持たせ。ついでに猿ぐつわとロープで拘束して。


 それ以上は何もさせないようにした上で、街の近場にあったダンジョンまで無理やり連れてきたのだ……。


「てっきり、ダンジョンの中でヤっちゃうのかと……」

「どうしてお前の頭ん中は、そんなに真っピンクなんだ!? 本当に欲まみれだな!?」


 こんな俗物な聖女なんて、聞いたことが無いぜ。隙あらば脱いだり、俺の貞操を奪おうとしやがって。


「なっ、失敬な! これでも未経験なんですからね!? そ、れ、に。お金に目が無いジャトレさんには言われたくないですぅ~!!」

「なにぃ!?」


 この女、また好き勝手言いやがって……!!


 もう一度拘束し直して、触手モンスターの群れに投げ込んでやろうか!?

 身体だけはイイモノ持ってるから、奴らは喜んで巣穴に持ち帰ってくれるぞ。



「でも、どうしてダンジョンなんですか? そりゃたしかに私なら、簡単にダンジョンもクリアできますけど」


 ミカは腕組みしながらふふん、と得意げな顔でそう断言する。


 自信満々の様子だが、実際そうなのだろう。ここのダンジョンぐらいなら、ミカ独りでも余裕で踏破できる。


 ……だが、その後が問題だ。



「それで? ゲットしたお宝は、どうやって安全に持ち帰るんだ? 知っての通り、無事家に帰るまでが冒険だぜ?」

「うぐっ。そ、それは……だからどうするんですかって、聞いているんです!!」


 もちろん、お宝を放置して帰ればコイツは強いままだろう。

 しかし呪いのせいで、褒美の宝を手にした瞬間、コイツは簡単に雑魚になる。俺が何もしなくとも、モンスターの格好の餌食に早変わりだ。



「だから俺がついて行ってやるって言ってるんだ。実は俺の宝玉、入れることも可能だが出すこともできるんだぜ」

「えっ……? あっ、本当だ……!!」


 俺を金の亡者とさせている、呪いの宝玉。

 金を入れることで寿命や生命力を維持する能力を持っているが、逆に外へと出すこともできる。


 当然、取り出せばその分の寿命は減ってしまうが。



「これで俺たち二人でも、ダンジョンで集めた財宝を余さず回収して帰れるってわけだ。それも、ミカの呪いには影響を与えずに。……だろ?」

「すっ、すごい!! あの宝玉にこんな使い方があっただなんて……!!」


 俺の宝玉を手のひらに乗せ、ミカは感心したように目をキラキラとさせている。


 褒めるのは良いが、それはお前のじゃなくて、俺のだからな?

 いつまでも眺めてないで、早く返せって。



「じゃ、じゃあ! これを借りれば、私一人でも大丈夫なのでは!? どうせジャトレさんは戦えないんですから、ここは専門家の私に預け――ヒイッ!?」


 俺は自分の腰元に差していた剣を抜き去り、ミカに向かって刺突を繰り出す。

 それはプロの冒険者であるミカでさえ、目にも留まらぬ鋭さだった。


「な、なにをするんですかぁっ!!」

「あん? そこにモンスターが居たんだよ。ほら」

「え……?」


 ミカは首だけ動かし、俺の剣を見やる。


 壁に刺さっている剣の先。

 そこには、岩肌に擬態したコウモリ型のモンスターが串刺しになっていた。



「まったく、油断しやがって。本当にそれでプロなのかよ……で、何か言い掛けたか?」

「な、えっとぉ……そうそう! ジャトレさんが居てくれると、私もすっごく安心だなぁって話ですぅ!! いやぁ、強い男性は頼りになるなぁ~?」


 ……ふん。どうせお前のことだ。

 どさくさに紛れて、俺の宝石を奪うつもりだっただろう。お前の態度はあからさま過ぎて、考えていることが全部バレバレなんだよ。


「でもあの剣筋……本当に強いと思うんですけど。ジャトレさんていったい、何者なんです?」

「……細かいことは気にするな。ほら、さっさと攻略するぞ」

「えぇ~っ、誤魔化しましたね!? まぁ、言いたくないなら別にいいですけど……」


 そうそう。余計な事は言わないのが長生きのコツだぜ?



「ほら、さっさと進むぞ?」

「は~い。分かりましたよぅ」


 ふぅ。ようやく素直に言うことを聞くようになったか。

 俺の宝石も何も言わず、スッと返してくれた。


 というより、宝石に向けていた視線が俺へと変わったような……




「ふふふっ。ジャトレさんのこと、本気で欲しくなってきました」

「急に怖いこと言わないでくれます!?」



 コイツ、やっぱりモンスターに喰わせるか……!?


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