第3話 不死になる方法とその代償を知った聖女が金儲けに利用される話

「ど、どうして浄化されてないんですか……?」


 ありったけの魔力を込めたんだろう。ゼェゼェと息を吐きながら、俺のことを恨みがましい目で見つめる聖女ミカ。

 だが残念だったな。あの程度の浄化魔法じゃ俺は消えん。俺を舐めて貰っちゃ困るぜ。



「本当にジャトレさんはアンデッドなんですか! 私のこと、騙していたんですかっ!?」

「はぁ? 何をアホなこと言ってるんだ。俺はれっきとした金の亡者だ。単にお前の魔法が中途半端なだけだろ」

「そ、そんなぁ……」


 力こそ正義!なミカにとって、俺の言葉は痛恨の一撃だったようだ。

 ガーンと音がしそうなほどに悲壮な表情を浮かべ、ガクッと床に項垂うなだれた。


 いやいや、人のことを殺せずにガッカリすんなって。やっぱコイツ、聖女に向いてないんじゃないか……?



 いやまぁ、正直に言うと、魔法使いとしては確かに優秀だった。

 ムカつくコイツの手前、中途半端だなんて強がったが。実際にダンジョンに沸くアンデッドだったら、一瞬で片づけられるレベルの威力だった。


 じゃあどうして俺は無事だったのかって?

 それはちょっとしたズルチートをしたからだ。



「はぁ……お前のせいで余計な金を使っちまったじゃねーか。どう責任取ってくれるんだ」

「え? お金?」

「あぁ。そもそも俺が、アンデッドとして復活できた理由。それがお前に分かるか?」


 キョトン、としたのち、フルフルと首を振るミカ。

 まぁ、そうだよな。


「俺もお前と同じなんだよ。どうやら手に入れた宝物の中に、呪いの宝玉が混じっていたみたいなんだ」

「えっ、それじゃあ……」

「あぁ、俺も使ったんだよ。盗賊に殺されかけたとき、こう願ったんだ」



 ――死にたくない。大事なモノを奪われたまま、死んでたまるか。



「そんで、気付いたらこうなってた。きっとあの宝玉が、俺をアンデッドに変えたんだろうな。思っていた姿とは違うが……ある意味では、願いを叶えてくれたってワケだ」

「あの願いの宝玉が……」

「だがな……お前も知っての通り、あの宝玉は願いを叶えるだけじゃなかった」


 そういって俺は部屋にある金庫を開けると、くだんの宝玉を取り出す。


 ルビーみたいに燃えるような赤色の宝石。

 石の真ん中では、まるで生き物のように金色の光がグルグルと回っている。見た目は綺麗だが、少し不気味だ。


 今までこれを、誰かに見せたことはなかった。だが今回は敢えて、ミカに見せてみようと思う。



「これがその宝玉……!!」

「そうだ。お前のその杖の宝玉……恐らく、それと同じ系統だ」

「じゃあ、ジャトレさんの代償って……」

「俺の場合、コイツに金を捧げ続けないと死ぬ。たぶん、これが俺の代償であり、呪いなんだ」


 金庫の中にあった金貨を一枚取ると、宝玉に触れさせてみた。


「消えた……」

「だいたい一日に一枚の金貨を消費することで、俺は生かされている。つまり年間で360枚もの金貨が必要なんだ」

「さ、さんびゃっ!?」

「俺の呪いも、相当ヤバいだろう? 分かってくれるか、俺の苦しみが……」


 金貨一枚と言えば、だいたい普通の男の稼ぎ一ヶ月分だ。それが毎日、金庫の中から消えていくのだ。


 金の為に生きながらえた俺が、金を消費しながら生きている。


 まったく、酷い皮肉だぜ。

 もし神が居るならば、なんて酷い仕打ちをしやがるとぶん殴ってやりたいよ。



「そして命の危険があった場合、金を消費することで死を回避できる。……さっきの浄化魔法から生還したのも、そのお陰だな」

「……そうだったんですか。って、えええぇえぇえ!?」


 これでミカも、自分がやっちまったことを理解しただろう。

 余程驚いたのか、宝玉と金庫の間を何度も視線を往復させている。



「お金!! 使っちゃったんですか!? どっ、どれくらい!?」

「んー、そうだなぁ……」


 即死レベルだとたぶん、金貨百枚ぐらいか?


 具体的な数は分からんので、金庫の中でポッカリと空いたスペースを指差した。


「なっ、なななな!! 何てことをしてくれたんですかぁ!! それだけあれば、教皇様にたくさん貢げたのに!!」

「遂に貢ぐって言っちゃったよ……いや、そもそも消えたのはお前のせいだからな?」


 まったく、問答無用で大魔法をぶっぱなしやがって。俺はちゃんと止めろ、って言ったのに……。


「そんなの、強がりだと思うじゃないですか!! ジャトレさんの馬鹿ぁああ!!」


 えぇえええ、そんな理不尽な……。



 俺への悪口をばら撒きながら、ジタバタと床で転がる聖女。


 あーあー、ローブが汚れちまうぞ? スカートの中身なんてガッツリ見えているし。無駄に派手な下着なんて身に着けやがって。


 だいたい、これは俺の財宝なんだからな? こっちは金を失うわ、文句を言われるわで散々なんだが?




「もう気は済んだか?」


 あれからもミカは暴れ続けた。

 美少女が大人げも無く駄々をねまくるサマは、中々に滑稽こっけいだったぜ。


 一々構うのも面倒になったので、しばらく放置したら、ようやく疲れて止まった。

 まったく、人の家で騒々しくしやがって。



「うぅ~、ジャトレさんの事情は分かりましたよぅ。お金を奪え……もとい、頂くのは諦めました」

「おい、今奪うって言おうとしたよな?」

「はぁ~、どうしよう。今月分の奉納金を支払う予定が……」


 こいつ……!!

 チラ、と金庫の中にある俺の財宝を見て、ため息を吐きやがったぞ!?


 事情は分かったとか言いつつも、まだ諦めきれていないのがバレバレなんだよ。



 クソッ。このままコイツに狙われ続けるのは、かなり厄介だな……よし。


「んがぁあ~、分かったよ。お前も金が必要なんだろ? だったら俺に協力しろ。教会にアンデッドの存在を黙っておいてくれたら、お前の金稼ぎを手伝ってやる」

「えっ、本当ですか!? ジャトレさん、何かいい案があるんですか!?」


 仕方がない。コイツも教会の人間なら、簡単には引き下がらないだろうし。

 だったら上手く利用してやって、俺の金策に手伝わせた方が良策だろう。


 なにより、コイツの魔法は便利だ。俺がやる金稼ぎにもバッチリ噛み合う。


「あぁ。お前を使って、一儲けをさせてもらおう」

「え……はっ? 私を使って、一儲けを……ですか?」


 こっちの意図を掴めず、キョトンとするミカ。


 クックック。安心したまえ。

 俺から金を奪おうとするなら敵だが、共に稼ぐなら味方だ。利益をもたらしてくれる限り、俺は喜んで協力してやろうじゃないか。



「それにお前は最初に言ったよな? そのカラダを好きにしていいって」

「――も、もしかしてッ!?」



 ふっふっふ。吐いた言葉は飲み込ませないぜ?

 宣言通り、こいつのカラダは俺の好きにさせてもらおう……!!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る