第5話 予想以上に強かった金の亡者に恋をする聖女のお話

※ミカ視点です 


 あぁ、私の勘はやっぱり当たっていた。


「ちっ、ミカも見てないで手伝え!! 俺にだけ戦闘をさせやがって!!」


 私の目の前では、ジャトレさんが筋骨隆々なマッシヴベア筋肉熊を相手に、激しい戦闘を繰り広げている。


 あの人は最初、戦闘なんて出来ない、ただのお金が大好きな人……そんな雰囲気を出していたのに。それはまったくの勘違いだった。


 ――この人は、強い。



「クッソ! なんで雑魚ダンジョンに中級以上のモンスターが出てくんだよ!?」

「やりましたね、レアモンスターですよ! 倒せば貴重なアイテムが出るかもしれません! 頑張って倒してくださーい!」

「いや、手伝えっつーの!!」


 言葉とは裏腹に、ジャトレさんの動きにはまだまだ余裕があるように見える。


 得物は彼の趣味なのか、派手な装飾が付いた宝剣だ。

 慣れた手つきで、パワー型モンスターの力任せな攻撃を器用にいなし続けている。


 魔力ゴリ押しな私とは違って、技巧派の剣士だ。それも、凄腕の。



 本人いわく、今のジャトレさんは種族的に言うとノーマルゾンビらしい。

 つまり初心者の冒険者でも倒せるような、雑魚のアンデッドだ。


 その潜在能力ポテンシャルで格上の相手に同等以上に戦えているのは、本来なら有り得ないこと。それを彼は今、私の目の前でやってのけている。



「惜しいなぁ。本来生前のジャトレさんと一度、お手合わせしてみたかったです」


 それにたぶん、本来の彼は正面から戦うタイプじゃない。

 死角から一撃で首を取るような、暗殺者に近い戦闘スタイル。無駄な動きを極力省き、最小の労力で最大の効果を得るスピード型だ。


 ふふふ、とことんお金にならないような無駄が嫌いなんだろうなぁ。

 戦闘ではそれは必ずしも正解とは言えないんだけれど……


 実に彼らしくって……素敵だと思う。



「どうして金の亡者なんかに私が惹かれたんだろう、なんて思っていたけれど。何てことはなかったんだね。いつも通り、私好みの強い人を引き当てただけ」


 確かに最初はジャトレさんの噂を聞いて、お金を貰いに屋敷に行った。

 だけど実際に逢って、それだけじゃない何かを感じた。


 ……そう、直感的にビビっとくるものがあったんだよね。



 私の呪いには『無償の愛』なんてお優しい名前がついているけれど。


 呪いと引き換えに私が望んだのは、一方的に力を与えられることなんかじゃない。自分で困難を越えることで、誰にも負けない力を手に入れることだ。


 これまでの経験から予想すると……私の成長のかてとなる人と出逢うことも、願いのうちに入っている。



 つまり私がジャトレさんに逢いに行ったのも、偶然なんかじゃなかった。


 まるで恋人同士を引きつけ合う、運命の赤い糸のように。私もまた、ジャトレさんと出逢うべくして出逢ったのだ。



「うふふっ。もっと私に教えてください、ジャトレさん。その強さを。力の源を。その為だったら、私……」


 彼に自分の身体を好きにしていいと言ったのは、ウソなんかじゃない。

 傷付けられようが、どれだけもてあそばれようが。私の願いをかなえてくれるのなら、喜んでこの身を任せましょう。



 全ての困難は、私がレベルアップするためのかてに過ぎないんだから。

 他人からマゾ女、だなんて揶揄からかわれるけれど。そんな些細な事は気にしない。

 力を手に入れる為なら、何だってやる。それが私の生きる道。



「……でも、ジャトレさんに見向きもされなかったんだよなぁ。いくら私でも、アレは傷付いたんですからね?」


 女らしさなんて皆無だけど、自分の身体だけはちょっと自信があったのに。少しぐらい悩んでくれたって、別に罰は当たらないと思うんだけど。


 アンデッドになって本当に性欲が無くなっちゃったのかしら?



「うぅ~いつか手合わせしてみたいなぁ。戦闘も、夜の方も」


 目の前で遂に、モンスターの息の根が止められた。

 結局ジャトレさんは無傷。金の亡者の完勝だった。



 しかも勝っただけじゃない。

 今の彼は、人間では有り得ないようなことが起きていた。

 その本人はまだ気付いていない様子だけど……。



「ふふふ。本当に面白い人ですね、貴方って人は」



 今の私は、どんな顔をしているだろうか?


 彼を見ていると、身体が熱くなる。

 胸がドキドキする。



 もし、これが恋なのだとしたら……ふふふっ、それでもいいかも。



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