✤ 26 ✤ 好きになったのは


 あまりのショックに、私はペタンとその場に座り込んだ。


 アランくんが、悪魔だったなんて。

 じゃぁ、私は、悪魔を恋をしていたってこと?


 現実を、上手く受け止められなかった。


 今までのアランくんは、なんだったの?

 優しくしてくれたのは、全部、ウソだったの?


「話す気はないの?」


 すると、打ちひしがれる私に耳に、またアランくんの声が響いた。


「できるなら、手荒なことはしたくないんだけどな」

 

「手荒なって、何する気だよ」


「言う気がないから、無理やり言わせるしかないよ。僕は、絶対に魔界に連れ戻されるわけにはいかないからね。危険な芽はつんでおかなきゃいけない。この魔導書の中には、たくさんの魔術式が記載されてるんだ。君に、催眠をかけて言うことを聞かせることもできるし、恋ヶ崎さんの記憶を覗き見ることも出来るよ」


「な!?」


 そこには、アランくんと日下部くんの殺伐とした声が響いていた。

 それに、アランくんが言ってることは、本当に悪魔みたいだった。


 記憶を覗き見る?

 なにそれ、絶対ムリッ!


 アランくんに、私の記憶を覗かれたりしたら、好きってバレちゃうし、そんなことされたら、恥ずかしさ飛び越えて爆発しちゃうよ!?


「嫌なら話してよ。誰から聞いたの、僕のこと」


「言うわけないだろ!」


 でも、そんなアランくんの言葉に、日下部くんは、必死に抵抗してる。

 ミアちゃんを消されるかもしれないのに、言えるわけないよね。


「そっか……じゃぁ、仕方ないね」


 すると、アランくんは悲しそうな顔をして、また魔導書に手をかざした。


 私たちをかこんでいた魔法陣の色が、緑から赤に変わる。なにか別の魔法をかけようとしてるのがわかって、私と日下部くんは、同時に息をのんだ。


 だけど、その時


「アラン!」

「アランくん!」


 聞き覚えのある声が聞こえたて、目をやれば、そこには、彩芽ちゃんと威世くんがいた。


「アラン、お前、何やってんだ! こんなところで魔法使うなんて!」


「大丈夫だよ、颯斗。結界を張ってるから、誰かに見られてる心配はないし」


「そういう問題じゃない! ていうか、コレどういう状況だよ!?」


 威世くんがアランくんを止めると、魔法陣はあっさり消えて、座り込む私の元に、彩芽ちゃんが、血相を変えて走ってきた。


「アリサちゃん! 大丈夫!?」


「彩芽ちゃん。なんで、ここに」


「威世くんから、アリサちゃんが、アランくんを呼び出して、告白しようとしてるって聞いて」


「え!? 告白!?」


 確かにこの状況は、告白の呼び出しだけど、威世くん、変な誤解しないでよー!


「ち、違うよ! 告白じゃなくて……っ」


「うん。でも、どうして、こんなことになったの? アリサちゃんは、アランくんが悪魔だって知ってたの?」


「……あ」


 彩芽ちゃんが、不安そうな顔で、私を見つめてる。


 そっか、彩芽ちゃんは、アランくんが悪魔だって知ってたんだ。


 それでも、アランくんと仲良くしているの?


 そう思った瞬間、これまでの、楽しかった時間を思い出した。


 アランくんは、いつも優しかった。

 それに、私をよく助けてくれた。


 お裁縫をしてる時のアランくんは、本当に楽しそうだったし、あの姿が、全部、嘘だとは思えない。


 そうだ。

 私は、アランくんが好き。


 でも、それは、人間だとか、悪魔だとか関係なく、アランくんの人柄に惹かれて、好きになったんだ。


「アランくん。私たち、アランくんの敵じゃないよ!」


 その瞬間、思わず声を張り上げていた。


「私たち、ただ知りたいだけなの!」


「恋ヶ崎さん!」


「ごめんね、日下部くん! でも、やっぱり私、アランくんを信じたい」


 日下部くんが心配する気持ちは、よく分かる。

 でも、大丈夫。あんなに優しいアランくんが、ミアちゃんに酷いことするはずないもの!


「アランくん、聞いて。私たちは、アランくんを魔界に連れ戻そうとしてるわけじゃないの! アランくんのことは、ミアちゃんに聞いたの!」


「ミアちゃん?」


「うん。ミアちゃんとリュートくんは、20年後の未来から、タイムワープしてきた子達なの。それで昨日、ミアちゃんが、こっちに飛ばしたのは、アランくんだって言い出した! だから、何か知ってるなら教えて欲しいの。アランくんは、どうしてあの子たちを、未来から過去にタイムワープさせたの!?」


 切実に訴えれば、彩芽ちゃんも威世くんも驚いていた。でも、アランくんが何か知ってるなら、あの子達を、未来に帰すことだって出来るかもしれない。


 だから──


「僕、そんなことけど」


「え!?」

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