第33話 改稿前
野田に味方がいない理由はそれだけ聞けばわかった。女子からは単純に嫌われ、男子も彼に関わり同類とみなされたくはない。
しかしそれだけで本当に孤立するだろうか。野田が謝り三年になってクラスが変われば、せめて関係のない男子だけは忘れてしまうような事だと桂木は思う。
「一度クラスで女子に謝ったりもした。でも親達はそれを知らない。『あの時暴言はいた男子が謝った』なんて子供は親に話したりしないもんだから。それもあって、うちの親は保護者達の中でハブられてる」
「それは……辛いね」
「ああ、オレのせいなんだもんな」
この家が荒れている理由や野田本人に覇気がない理由はよく分かった。彼は過去の問題発言について反省している、というよりは事の大きさがやっとわかった。自分のせいで親まで悪く言われている。親の起こした事件のせいで悪く言われている桂木には、その気持ちは別の意味でよく分かる。
しかしまだ彼の怪我や登校拒否をしている理由はわからない。まさか暴言で怒った女子に足を折られたという話ではないだろう。
「それで、問題が解決せずに事が大きくなったのは三年になっての事だ。花火コンビの花咲と火野が、別々のクラスになったんだ」
「それは偶然でしょ?」
「うちの学校、仲いい奴らはめったな事がなきゃクラス離れないって言ったろ。そんでクラス替えは名簿を配って各自自分のクラスに行くタイプだった。けどある日、変更前の名簿が廊下の掲示板に貼り付けられてたんだよ」
「変更前?」
「俺達に配られたのが変更後。今のクラスのやつ。貼られてたのが変更前で、そっちは花咲と火野が一緒のクラスだった。花咲火野達のいるグループだけが変更されてたんだよ」
この学校では孤立を防ぐため、めったな事では親友同士でクラスは離れない。しかし今回は野田の発言のせいで『めったな事』が起きてしまったのだろう。
『花火コンビがいないのはハズレクラス』という言葉が原因だったのなら、花火コンビを解散させればいい。また保護者からクレームがあったのか、作り終えたはずのクラス名簿を少しだけ変更したのだろう。
幸い花咲にも火野にも他に友人はいるので、その辺りを入れ替えるだけですむし孤立することはない。黙っていればなんの問題もないはずの変更だ。しかしその証拠を張り出されてしまった。
「貼り付けた奴も事を煽りたかったんだろうな。『三年二組の野田のせいで花火コンビ決裂!』って、新聞の見出しみたいに書いてあったわ。本来花火コンビがいたのは一組だったから、一組の奴らも怒ってたらしい」
「……一体誰がそんなことをしたの。学校関係で、改稿前の原稿なんてそう簡単に手に入るものじゃないよね。わざわざ偽造した可能性だってあるし」
「変なとこ気にするんだな、お前」
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