第32話 花火コンビ

「その花咲と、火野翔子って子が仲良くてさ、しかも二人ともかわいい。だからうちの学校のアイドルで、花火コンビって呼ばれてた」

「は、はぁ……花火コンビ……」

「花火コンビ二人は一年二年と一緒のクラスで、まぁうちの学校は仲のいいやつ同士めったにクラスは離れないようになってるんだけどさ。そうなると花火コンビのいないクラスの男子達は言うわけよ、『うちのクラスは花火コンビのいないハズレクラスだ』って」


花咲の話から少しは繋がってきた。花咲には友達が多いため桂木は気にしたことがないが、確かに火野らしい女子はいたような気がする。

別格レベルの美少女二人。当然同じクラスになりたい男子生徒は多いだろう。その思い叶わず残念な気持ちになって、自分のクラスがハズレだと言い出すものかもしれない。


「皆そう言ってて、もうお約束みたいになってたから、ニ年のとき、オレも言ったんだ。『うちのクラスの女子はハズレでブスしかいない』って」

「そんな事で?」

「いつもなら『そんな事で』で終わったんだろうな。でも言ったタイミングが悪かった。保護者参観日の授業中だったんだよ。しかも日曜にやる父親も来るやつ。父親からしてみれば、いきなり娘の容姿がクラスの男子にディスられて大激怒だ」


きっとそれは日常で、誰もが『そんな事で』と思っていたのだろう。しかし保護者参観日は非日常で、普段いない保護者がやってくる。知らない保護者から見れば『お約束』なんて関係ない。野田はただの悪口を大きな声で言っただけとなる。


「三組なら平もいるだろ? あの委員長ってかんじの」

「うん。いるね」

「激怒したのはその平の父親だ。平父はまあ怒鳴らず理性的に詰めてくるからさ、先生も他の保護者も止められないんだわ。『今君はうちの娘の容姿を悪く言いましたねなぜそんな事を言うのですか君は何様のつもりですかアイドルのプロデューサーならともかく君はただのクラスが一緒なだけの生徒で容姿について中傷する権利はありません』ってな」


よほど野田の印象に残ったのだろう。長いセリフをつらつらという。確かに保護者が怒鳴ったり胸ぐらでも掴めば教師や他の保護者も止める。しかし冷静に言われれば誰も止められない。野田は静かにその注意を聞くことになった。


「そんな平父に他の保護者達も拍手して大絶賛だよ。前々から女子も『ハズレクラス』については文句言ってて、一部保護者も知ってたんだ。それでその後正式に保護者達で集団になって学校にクレームを入れた」

「でも、皆で、男子は『ハズレクラス』だっていつも言ってたんでしょ? どうして野田君だけが……」

「皆が手のひら返したんだよ。『オレは言ってないしそんな事思っていない』って。まぁ、クレームは男子の親からもあって、親から『まさかお前が関わっているとは思わないからクレーム入れるけど、お前は中傷していないよな?』って聞かれたら手のひら返すしかねーわ」


親に問われて自分の罪を認める事はしない。とくに悪口という、証拠に残らない事なのだから。


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