第31話 何も事情を知らない友達
「待てよ。郷田のことだから桂木には何も話してねーだろ。オレから話しとくから、郷田は飲み物でも買ってこい」
「は?」
「お前抜きで話しとく。どうせお前、オレの事擁護すんだろ」
野田が疲れ切った様子で命じる。思っていたようには物事を動かせず、郷田は納得できない。しかし相手は怪我人。怪我人が言うなら従うしかない。
桂木は状況が理解できない。なにか野田に事情があって、郷田はそれを隠したいのだということはわかった。
「……わかったよ。飲み物はコーラでいいな?」
「ああ、鍵は開けっ放しでいいから」
渋々といった様子で郷田は部屋を出て、物のない畳には桂木が座ることになった。野田は顔色が悪い寝ぼけたような顔のまま、まず詫びる。
「悪かったな。郷田の奴、お前を無理矢理に連れてきたんだろ?」
「うん、まぁ」
「あいつ、見た目ほど悪いやつじゃないんだ。今回もオレに何も事情も知らない友達を作らせようとしてるだけだから」
野田に友達を引き合わせようとしていた、と聞かされれば郷田の強引な行動にも納得がいった。
しかしそれにしては妙だ。確かに野田は覇気がない顔をしているが、決して友達がいないようには見えない。郷田と仲がいいようだし、無理矢理連れてこられたであろう桂木を気遣っている。これなら放っておいても友達はできるはずだ。
重要なのは『事情を知らない友達』ということなのだろう。
「オレ、学校でやらかして、誰も味方がいないんだ。だから桂木が連れてこられたのは、転校生で何も知らないからだよ。桂木だって、知れば離れていく」
「……何をしたの?」
「クラスの女子全員を『ブス』って言ったんだ」
桂木は意味がわからなくなった。つまりは悪口。確かにそれはいい行いではないかもしれないが、味方を失う程のものではない。
これで敵を作るのなら『殺人犯の息子』はどうなってしまうのだろうと桂木は思う。
「お前三組だっけ。なら花咲華は知ってるだろ?」
「うん、あの目立つ子だね」
桂木は知らないふりをする。まさかここでも名前を聞くとは思わなかった。彼女が原因とまでは思えないが、やはり目立つものはどうしても厄介ごとに関わってしまう。
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