第30話 お見舞い
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しかし郷田が桂木を連れてきたのは学校から少ししか離れていない、とある一軒家だった。どこにでもあるような三階建てで、周囲は少しゴミが散乱している。
表札には野田とあった。やはり桂木にとっては知らない名前だ。
「これから会うのは野田って奴。二組の奴だ」
「二組の?」
「ああ、怪我して欠席中……けど、もしかしたらフトーコーになってもう学校に来ないかもしれない」
病気ではなく怪我で欠席した生徒の見舞い。桂木はようやく状況をつかめてきた。怪我をして、その後遺症か何かでこれから学校に通えなくなったのかもしれない。その怪我が原因で不登校になると見ている。野田と郷田は仲がいいようだ。
しかし郷田がとくに接点のない桂木を誘う意味がわからない。
郷田はインターホンを押す。何度も押す。しかし反応はない。
やがてかなりの時間が経ってから、玄関扉が小さく開いた。初夏だというのに長袖の、顔色の悪い男が顔を出した。
「……うわ、まじで来たんだ」
「おう。足の具合はどうだ?」
優しく怪我人をいたわるような言葉をかけるような郷田だが、彼の足はもう扉の内側に入っている。強盗のような動きで、有無を言わせず入り込んだ。
桂木は外でまごつく。見舞いとは玄関先で終わるものではないのか。そしてその野田は怪我人で足に包帯を巻いて引きずるようにしている。そんな彼が出てくるという事は保護者もいない。なのに中に入るというのは配慮がない行為だ。なにより野田本人も見舞いを嫌がっている様子だ。
もう帰った方がいいのでは、と桂木は思う。
「おい桂木。上がってけよ」
しかし郷田は勝手に上がりこんで家主のように招くのだった。
これは断れるものではない。この強引さ、花咲よりも強い。野田もそれに慣れているのか反論は諦めて招くことにしたようだ。
「いいよもう上がれよ。そんでこいつ、誰?」
当たり前だが野田は桂木を知らない。桂木が玄関で靴を脱いで揃えているうちに郷田が説明する。
「桂木だよ。うちのクラスに転校してきたやつ。ダチになった」
ダチになったのは数十分程前のことだ。しかし桂木も今更それについて口をはさむ気にはなれない。野田は興味なさげにふうんと言っただけだった。
玄関すぐの応接間に通されて、来客二人はしばらく立ちっぱなしとなる。
応接間には足踏み場がなかった。畳の床にベッド、それを中心にして服やゴミが散乱している。野田はそのベッドにどっかり座った。考えて見れば彼は足を怪我しているので片付けは難しい。
「この足だからな。悪いけど座る場所は自分で確保してくれ」
「ああ、このへんどけるぞ」
郷田はブルドーザーのように布をよけて畳を出す。しかし郷田がそこに座る前に野田は止めた。
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