第27話 嘘ばかり

「私、小学校の時に私立に通ってたんだけど、マスコミの嘘を鵜呑みにされた有名監督の奥さんがやってきてね、怒鳴りこまれた事もあるの」

「小学校って、子供の君が通っているだけなのに?」

「うん。お母さんはガード固いからかな。とにかく不満をぶつけたいみたいで。意味のわからないことを怒鳴られたけど、他に何もされてない。けど学校で居心地悪くなってね」

「そう、だろうな。私立って危ない話はすぐに広がるし」


花咲には言っていないが桂木も私立の小学校と中学校に通っていた。私立学校の治安は公立より良いもので、子供が被害にあうような話はすぐに広まる。

嘘を真に受けた者が子供を狙いにやってくる。そんな危険な事が起きたので、花咲家は大きく家族の形態について考え直すことにしたのだろう。


「だから私は転校して、親は離婚して、死んだ事にして離れて暮らしてる。たまにお母さんとこっそり会うときにはめちゃくちゃ甘やかしてもらって、プレゼントももらって、それが何万もする音楽プレイヤー二個だったりするんだよね」

「ある意味困っただろうな、それ」

「郷田が言ってくれたみたいにお父さんにもらったって言えたらいいんだけどね。でも嘘をついていると、とっさに新しい嘘が言えなくなるんだね。もうすでに嘘ばかりついてるし」


花咲は強気そうな眉を下げて、困ったように笑う。彼女は素直な性格をしている。嘘をつくことに慣れておらず、罪悪感を持っていることだろう。それに嘘になれた桂木であっても突飛な事があればミスをするくらいだ。


「……ギャルのような格好は母親のこともあっての変装?」

「ああ、この格好? 確かにイメチェンして母親に似ないようにしたかったんどけどさ、前の学校厳しかったからその反動もあるね。ギャルっぽいと気が強そうに見えるから、弱いものいじめしたい人に絡まれなくてかなり楽だし」


花咲はウサギのような髪型の、耳の部分を示した。

もしや花咲のギャルとしての振る舞いは深い理由があるのでは、と思っていた桂木は脱力した。しかしこれだけ目立つ女子生徒だ。マスコミや妙な人物に絡まれないよう、強気に見える格好をした方がいい。そして本人の趣味でもあるという。


「一緒にされたくはないだろうけど、だから桂木君の気持ち、ちょっとはわかっちゃうんだ。親の事があるから嘘をいっぱいついて、周りに溶け込む事を第一にするの」

「僕は花咲さんほど素直じゃないから嘘をついたって罪悪感はないよ」

「言うと思った。でも本音を言えないのは一緒でしょ?」

「……だから匿名で書ける愚痴吐き場を用意してるわけか」


花咲が桂木に興味を持っているのは、探偵だからという事だけではないのだろう。自分と同じ、本音を言えない人間だから気にかけているようだ。

それでも桂木は愚痴を書き込む気には慣れない。


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