第26話 縁起でもない嘘
花咲はか細い声で言って首を大きく振る。そして顔を伏せて、それからじっと桂木の目を見て心を決める。
「あれ、お母さんからのプレゼントだったの……」
「お母さん? それならお父さんのものとあまり変わらないんじゃ、」
「違うの。いないはずの、お母さんなの」
深刻な様子の花咲の言葉に、桂木はただ事ではないと察した。『いないはずの』というのが気になる。
それから花咲は何から話せばいいかもわかっていない様子で、桂木は言葉を促すように問う。
「君が大好きで尊敬しているというおばあさんは、どちら側?」
「……お父さん側。学校の皆とかには『母親は死んでもういない』ってことにしてる」
「どうしてそんな縁起でもない嘘を?」
一般の家庭によくある話、ではなさそうだ。普通なら離婚しただとか、いくらでも言いようがあるはずなのに、よりにもよって死別したと嘘をつくとは。
「うちのお母さん、女優なの。それで私、マスコミから隠れるためにお母さんの繋がりを隠していて」
「ああ……」
その一言は桂木を納得させるものだった。まずは花咲の魅力。ギャルらしい服装をしているからあれだけ目立つのかと思えば、彼女自身の美しさが目立ち、オーラというのかただならぬ雰囲気を醸し出している。母親が女優と聞けば納得だ。
そして縁起でもない嘘をつく理由。彼女が女優の娘だと誰も知らない様子であることから、きっとマスコミ対策なのだろう。マスコミから守るためにそんな嘘をついていた。
離婚したと答えれば母親がどんな人か尋ねたり母娘の繋がりに勘付く者もいるかもしれないが、死別したと答えれば誰もが気遣いそれ以上話題にはならない。
「ええと、両親が私を出来婚したからマスコミで話題になってたんだけど、お父さんが一般人でね、地味だからってそこまで話題にもならないの。でもマスコミはそれが不満で、色々とでっちあげられて。本当は若手俳優が父親だとか、有名監督が父親だとか、好き勝手に騒ぎ立てられたの」
「それは……」
「ひどい嘘だよ。お母さんが死んだって嘘より、よっぽど」
大抵のひどい事情には慣れているような桂木でも、なんと返せば良いのかわからなかった。
ただの話題のために一般人の夫や子供まで踏みにじるような真似をするなんて。しかし桂木もマスコミのよくない話を身を持って知っているためあり得ると思ってしまう。
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