第25話 賞品授与




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わざわざ桂木がやってきた図書室には、花咲はなかなか来なかった。

帰り道、彼女はよそのクラスの女子と話していた。しかしすでに彼女は図書室の鍵をあけておいてくれたらしい。


そして何気なく選んだ本を手に取り読む。冒頭部分を読み終えた頃に花咲はやってきた。


「ごめん、皆探偵の事気になってたみたいでさ、まいてくるのに時間がかかっちゃった」

「そう。まいてきてくれたならそれでいいけど」


やはり皆、探偵の事を気にしていたのだろう。賞品を受け渡すために花咲は探偵と会う、とすれば色々と聞いてくるとか、花咲を監視して探偵の正体をつかもうとするかもしれない。先に図書室に入っていて良かったと桂木は思う。


「というわけでこれ、賞品のプレイヤーね」

「ああ、それいらない」

「え?」


花咲は笑顔でプレイヤーの箱を渡そうとするが、桂木は視線を本に向けたままだった。一応これは中学生や高校生なら誰でも欲しがるもののはずなのだが、桂木はまるで関心がない。


「皆を参加させて注目させて焦らせ問題にひっかけるための賞品だったわけだろ。僕を正解させるための」

「う、うん。桂木君ならひっかからないだろうから」

「そもそも僕が探偵であると証明していないし」

「あのつらつらした文面は間違いなく桂木君だよ」

「僕はパソコンを持っていないし」

「パソコンなくても大丈夫なやつだよ」

「……そんな高額なものを持ち歩けない」


一番最後の言葉がきっと一番の断る理由だろう。しかし花咲は音楽プレイヤーが高額な事を知らなかったし、それを指摘されたくないようだった。だから言いづらそうに桂木はその理由を述べる。そして花咲はまた辛そうな顔をしたので、桂木は続ける。


「僕は今、祖父母に育てられていて、多分祖父母にとっては家電は小さなものでも高級品で、これが見つかったら色々と聞かれてしまう。こんな高価なものをどうしたんだ、盗んだのか、って」

「あ、そっか……」

「だから今好きなおでんの具について書いている、他の人にプレゼントするといいよ。探偵は名乗り出なかったということにして」


やはりクラス内で探偵への関心はある。もし花咲が探偵と会って賞品を手渡したとなるとこれから探るものもいるだろう。ここは名乗り出なかったことにした方がいい。


「そうするね。……ごめんね、私、金銭感覚おかしいよね」

「おかしいかどうかはわからない。実際数千円のプレイヤーだってあるだろうし、今回は細川君みたいな詳しい人がいただけだから。お父さんの仕事の貰い物の値段なんてわからなくても仕方ないよ」

「……違うの」

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