第24話 じゃない方の

「桂木って、いいやつだな……」

「そんな事はないよ」


しみじみと田中は言った。

違うと思うので謙遜でもなく桂木は否定する。しかし田中はもう一度言う。


「いや、いいやつだと思う。それ転校生補正かもしれないけど」

「転校生補正?」

「転校生だから偏見なく接してくれるっていうか、桂木って俺を田中って呼ぶだろ?」

「うん。だって田中君だから」

「俺、親が離婚して、藤島から田中になったんだ。『藤島』って呼ばれるならまだいい方。うちのクラスにはもう一人田中がいるから『チビの田中』とか『イケメンじゃない方の田中』って呼ばれるんだぜ」


恨みがましい目で田中は『イケメンの田中』を見た。『イケメンの田中』は細川と女子二人と昼食をとっている。

誰も悪気はそこまでないのかもしれない。しかし自分にまともな個性がないためそんな呼び方をされるのでは、と田中は考えてしまう。だから何も知らない、まっさらな目で見てくれる転校生、桂木の存在に救われていたのだろう。

しかし田中はそれだけで満足せず考えた。個性のために探偵を名乗ろうと。


「たまにさ、めちゃくちゃ悪い事でもしてぇなって思うよ。そしたら『狂犬の田中』とか『暗黒の田中』とか呼ばれるんじゃないかって期待するんだ」

「田中君はそんなことしないと思うよ。そんなことしなくても、いつかいい呼び名で読んでもらえるし」


止める訳でもなく、素直な感想として桂木は答えた。いきなり『探偵は田中だ』とリアルやグッチー内で言い出さないだけ、田中はわきまえている。とはいえいけそうなら乗っ取ろうというずるさはあるのだが、こうして状況を見て判断するのならそこまで頭は悪くない。悪事をしてその結果について考える事はできる。


「……そういう事さらっと言えるから桂木はやっぱりいいやつなんだよな。育ちがいいっつーかさ。親の育て方が良かったんだろうな」

「……」


いつも癖のない友人を演じている桂木が、しばらく言葉が出なくなった。育ちがいいはずない。

どこからかの笑い声が響いたのにはっとして、急いで桂木は言葉を紡ぐ。


「親だけじゃないと思うな。いろんな人といろんな環境で僕が変わったんだと思うよ。もちろん田中君と接する事でもね」

「お、おう……」


急いだためか、桂木の言葉は綺麗すぎて田中は引いた。これでは妙に綺麗事を言う奴として印象に残ってしまう。しかし田中は深く考えないので気にしない。

きっと田中は、桂木の父親が殺人犯だとは考えもしないのだろう。


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