第19話 本物の探偵を賭ける
探偵を増やすというのはいい案だと思う。そうして探偵を過剰摂取させて皆を飽きさせればいい。しかしそれを演じるための環境が足りず、演じきれない。とくに同じような事をしている偽探偵にはすぐバレてしまうだろう。
それに探偵が複数増えればより目立とうと探偵猫が名乗りだすリスクもある。
「……逆に本当の探偵が語りだすのはどうだろう?」
桂木はぴんと閃いた。探偵を増やすのは悪くない。ならば本当の探偵をもう一度出現させる。それなら機種は一つでいい。それで偽探偵の動きを止められる。
「偽探偵は謎に飢えてるらしい。だから花咲さんが謎を出して、僕が解く。できれば偽探偵より早く。そうすれば僕が目立って偽探偵は目立たないし、負けてしまったんだから偽探偵はもう名乗ろうとも思わない。偽物の探偵なんだから」
普通で単純な答え。それは実力で本物を示すこと。実力があるほうが残り、ないほうが去る。しかし花咲は状況の理解に時間がかかっていた。
「ん、んん? それってふつーに実力勝負ってこと?」
「そう。随分と回り道したけれど答えはシンプルだった」
「実力勝負って、桂木君が勝たないと意味ないよね?」
「そうなるね」
「しかもその謎、私が考えるの?」
「ああ、なるべく偽探偵を煽ってやる気にさせてほしい。それで偽探偵が解けなくて僕が解けるような難しい謎を頼む」
「難題だ……」
花咲は震えつぶやく。難題を作れというのは難題だ。謎解きだってろくにできないのにその謎を作れるはずがない。カレーを食べたこともないのにカレーを作れというような難題だ。
「その謎、どうしても私が作らなきゃいけないの? 例えば桂木君が考えて、それを私に教えて私が考えた事にするって方法もあるんじゃないかな。そしたら桂木君は絶対に答えられるわけだし」
「それは自演で、それを寒いって言ったのは君だろ」
「あぁ、言ったね、そんなこと……」
今更ながら花咲は自分の言葉を悔やんだ。
「それに僕は、その難問が偽探偵に解けるのなら本物だと思うんだ。本物だからきっと名乗り出たっていじめられない。そんな風には考えられない?」
「う……」
「花咲さんはネットじゃなくて人間がダメだと思っているんだろうけど、人間だってちょっとはマシなものだよ。もう少し信じてあげたら?」
「桂木君の癖にあたたかみのあることを言う……」
花咲から見た桂木は冷血とまでは言わないが、心は隠していると思う。そんな彼があたたかみのある説得をするからこそ、花咲には響いた。
そんなわけで彼女は慣れない頭で難問を考える事になったのだった。
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