第18話 偽物を明かしてはいけない

「花咲さん。これ、利用してる人の何割が自演を見抜けると思う?」

「んー、違和感がわかる子は多いと思うよ。でもよほどSNS慣れしてる人じゃないと気付けないと思う。なんだかんだで皆中学生だし、見抜くには経験値が足りないよ。そもそも流し読みの子も多いからね」


経験値の多い方である花咲はそう思う。これをはっきり自演と見抜ける者は少ない。しかし違和感を覚える者は多い。ならばまた桂木は案を考える。


「じゃあ僕がさっきの暴力的な人間のふりをして『お前自演して女子のふりして書き込むな。寒いんだよ』って書き込むのはどうだ?」

「それは……いい案かもしれないけど、できればやめてほしいな」

「どうして?」


それが一番手っ取り早く偽物が去る方法だと桂木は思う。なのに花咲は暗い顔をしていた。そして視線を伏せて少しだけ言いづらそうに、反対意見を述べた。


「自演だって証明するのは証拠がいっぱいあるから簡単だよ。でもそれ、悪い事を晒しあげてるみたいで。探偵が注目されている今、それだけ晒してしまうと皆は偽物を攻撃する……攻撃しすぎてしまうと思う」


花咲はネットでのいじめを許さないという考えから、晒し上げも許せないのだろう。確かにこれだけ自演の証拠が揃っていれば、誰が見ても自演だとわかってしまう。そしてそれがとんでもないような悪事に思えて皆が偽探偵に攻撃を始める恐れがある。偽探偵は名乗り出なくなるかもしれないが、他の者も積極的に探偵を探し出すかもしれない。そして田中だとバレてしまうし、その疑いは桂木にかけられることもあるはずだ。


「そうか、もしクラス皆に『探偵』を探す流れができたら、僕だって危うい。花咲さんの財布の件で僕が長文を書き込んでいたところ、他の人にも見られていたかもしれない」

「そう、そうだよ。他の人から見たら『探偵』も『偽探偵』も同じだし。桂木君まで疑われちゃう」


探偵と偽探偵の違いなんて、わかっているのは当人達だけだ。多くの人は気付いていない。ならちょっとでも証言があれば桂木すら疑われてしまう。

やはり秘密裏に偽探偵をどうこうするしかない。ならばどうすればいいか。桂木は手当たり次第に案を考える。


「『探偵兎』とか『探偵熊』とか、こっちがいくつか自演するのは?」

「探偵を増やすの? どうして?」

「探偵が注目されすぎたのがいけないんだ。僕の推理書き込みももうとっくに消去されているのだし、偽物が一気に増えれば皆飽きる。探偵猫だって目立たなくなれば飽きるんじゃない?」

「それいい!……でもダメだ、自演するにはID、機種がいるよ。ちゃんと使い分けないとこっちまで自演がバレて、偽探偵が鬼の首とるよ」

「……そうだった。僕はスマホこれ一台しかない」

「私も管理者としてもう『ハナ』って名前でしょっちゅう使っちゃってるから協力できないよ」

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