第20話 難問



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計画はこうだ。

決行するのは計画を立ててから三日経ち朝に『探偵猫』が書き込みをした日。これは桂木のIDをリセットし、偽探偵のIDを確定するためだ。


その日に花咲は用意した難問を黒板に書く。グッチーのことなのでグッチー内でやればいいのだが、グッチーは画像添付不可で英数字の文字列は書き込めない。花咲の考えそうな『難問』は書き込めないのだった。

もちろん、その時には教室に桂木がいて偽探偵もいなければならない。そして花咲は偽探偵を煽り、絶対参加させる。偽探偵に負けたと思わせなければ意味がないからだ。

そして桂木はその謎を解く。誰よりも早く、確実に。


移動教室や行事の続いたその日の昼休み、花咲は黒板前で声を張り上げた。


「皆ちょっといい? 景品あるからさ、ゲームに参加してみない?」


生徒達はやはり彼女の声に反応した。休憩時間中、目立つ彼女が景品やゲームという興味を引くような事を言えば、皆が注目するに決まっている。


「こないだ公開したグッチーなんだけど、どうもこのクラス以外の人も出入りしてるみたいなの。だからうちのクラスでどのくらいの人が書き込んでるかチェックしたいから、ゲームがてら書き込める人は書き込んでほしいんだわ」


この辺りは花咲の思いつきではあるが、これからゲームをするついでにグッチー利用者がどの程度いるかを確認する。真の探偵が嫌でも目立つように、そして目立ちたい偽探偵が絶対に反応するように、グッチーにクラス中の目を集めさせるのが本当の目的だ。


「これから問題を出すから、その答えをグッチーに書き込んでほしいの。景品はなんと、音楽プレイヤー!」


花咲は一瞬だけ勿体つけてから小さな箱を見せつける。教室中が息を飲んだ。

花咲が見せたのは高額な品だったからだ。小さな箱は音楽プレイヤー。中学生が趣味でやるちょっとしたゲームに出す景品じゃない。

桂木ですらぽかんと口を開けている。偽探偵やクラス中の興味を引くよう煽れ、とは言ったが、まさかこんな高額な品を用意しているとは思わなかったのだ。確かにこれならクラス中の興味はひけるかもしれないが。


「花咲、それマジで景品にしていいの? それ高いと思うんだけど」


心配と興味が入り混じった質問をしたのは花咲とよく話す細川だった。彼は音楽をやっているそうで、ただで音楽プレイヤーがもらえるとなればどんなゲームであっても挑戦したいのだろう。


「えっと、貰い物だからわからない。でも私が持ってる奴より容量少ないし。あ、もちろん新品だよ」

「その機種が三万円。それの上位機種って高くて二十万、安くて八万だろ。普通の中学生にはもったいねーくらいだぞ」


花咲ははっと何かに気づいたような顔をして青くなった。彼女は音楽プレイヤーの値段を知らなかった。その無知を指摘され、それを恐れていたのだろう。途端に今まで勢いを失くす。クラスメイトもその違和感にじわじわと気付き出す。


「なぁ、それ親父さんの仕事の関係でもらったんだろ」


口を挟んだのは郷田だ。それに花咲はいつもの調子を取り戻す。

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