第16話 羞恥心
もし誰かを特定したいのなら、最長三日分しかわからないようになっている。
「画像や動画は添付できないし、長い英数字の羅列は書き込めなくなってるよ。死とか殺とか酷い言葉も書けない。それは悪いこと考える人対策ね。DM的な機能とか、個人とやりとりする機能もなし」
「愚痴吐き場だもんな。承認制とかないの? それで偽探偵をブロックしたりとか」
「愚痴吐き場だもん。ルームに入るのはルームIDが必要だけど、それがわかれば誰でも書き込めるよ」
「SNSみたいなもんだけど、あくまで使用者を限定した愚痴吐き場か」
ここでルームを閉めろ、と桂木は言いたいが、それを聞く花咲ではないだろう。ネットを危険視しても人間が変わらなければ意味がないというのが彼女の考えだ。
それに実際田中はリアルで自らが探偵だと言い出した。田中がリアルで変わらなければ意味がない。
他に説明のし忘れが花祭は実際のグッチー画面を眺める。そして嫌悪感から悲鳴をあげた。
「うわ、偽探偵が書き込んでる。しかもハンドルネームまでつけだした。【探偵猫】だってさ」
言われて桂木も画面を見る。フレームの色は緑。
『【探偵猫】
今日もうんざりするような平凡な日常だった。どこかに解きがいのある謎はないものか』
短い文章だというのに、桂木はこれだけで鳥肌が立った。自分がしたことでもないのに恥ずかしくて仕方ない。こんな痛い書き込みが自分の見ていないうちにいくつかあったのか、そしてそれを自分の書き込みだと思う者もいるのか、と桂木は今更真剣に考えるようになる。
「これは……やばいね」
「やばいよ。だから言ったじゃん、やばいって」
「花咲さんのやばいはまったく状況をつかめないんだよ。こいつなんで匿名なのにハンドルネームなんて名乗りだしたの?」
「いちいち文章に『この間の探偵だけど』ってつけてたけど面倒になって、でも自己主張はしたいんじゃない?」
「なんで猫?」
「さあ。出会い目的で女の子にかわいーとか思われたいのかな。そもそも猫とか動物の名前を名乗る奴って最初はいい顔しつつも攻撃的でやばい奴が多いんだよね」
「もしかしてこの偽探偵、モテたくて探偵を名乗りだしたとか?」
「多分そう。女子の中で本物の探偵はヒーローだし。気持ち悪い先生をどっかにやってくれた人なんだから、いいよねって話を結構してる」
そういえば田中には花咲に好意があって、彼女に見られていてまんざらでもないように桂木には見えた。やはりモテたくてわざわざ探偵を名乗りだしたのか。そしてそれならいつか本当にグッチー内で本名を名乗りだしてもおかしくはない。きっとネット上でモテるだけでは満足できなくなるだろう。
「……僕に考えがある。今から書き込んでもいい?」
「あ、うん。いいよいいよ。やっちゃって!」
「よし」
桂木は少しだけ文面を考え、グッチーに素早く書き込んだ。その顔は無。花咲には何も考えがよめない。
現れた色は赤。
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