第24話 ただのセックスドールだ
手錠で繋がれたらどこにも行けくなると思っていた。
でもミキは基本的に俺の動きに合わせてくれるらしく、割と自由に動き回ることができる。
意外なことに里村さんがいるやくり駅にも、その近くまで行くことはできた。
「近づくことも許してくれないと思っていた」
「私たちが行ける範囲は狭いから、なるべく制限はしたくないんだ。やくり駅の構内とか、由香里さんに近づかければ大丈夫だよ」
物は試しと駅の構内へと進もうとするとミキが立ち止る。
「ここから先はダメだよ」
動く気はなさそうだ。でもまだ可能性はある。
俺はミキの身体を抱きかかえて、彼女を持ち上げてそのま無理やり中へと進む。
「ちょっとサチくん!?」
強引な行動に逆らうために、カバンから包丁を取り出そうとしている。
抱っこされた状態で、なおかつ手錠で片手が塞がっていてうまく取り出せていない。
嫌がる彼女には申し訳ないがこれはチャンスだ。
そのまま先に進もうとして――
「ぐッ!?」
ミキがくぐもったうめき声を発した。
左手で口をおさえている。手の隙間からは血がぼたぼた零れていた。
「まさか!?」
口をおさえる手を無理やり引きはがす。
ミキの口から血が勢いよく零れた。
彼女は舌を噛み切ったらしい。
いくらループできるとはいえ、恐るべき執念だ。
「いぁい」
ちゃんとした声になっていないが「痛い」と言っているらしい。
助けてほしいと彼女の目が主張していた。
どうすればいい。すぐに死ねる状況には見えない。
このままでは彼女が苦しみ続けることになる。
逡巡していると、ミキがカバンを俺に押しつけてくる。
それが何を意味するのか。すぐに分かった。
――包丁で殺してくれ。
彼女はそう言っているのだ。
カバンから包丁を取り出す。
改めて包丁を手に取るとどうしてもしり込みしてしまう。
たとえ元に戻るとはいえ愛する女性をこの手で殺すのだ。
ためらわないはずがない。
「ぅ、あ……」
痛みに苦しむミキの姿を見て覚悟を決める。
ミキだって俺を救うために殺してくれた。
だから俺も彼女を救うために殺すのだ。
苦しませないために、思いっきり彼女の胸に包丁を突き刺した。
すぐにミキは死んで、由香里さんの霊が現れる。
その霊がミキの死を確認して頭を握りつぶすと次のループへ移った。
「――ハッ!?」
目を覚ませば隣にはミキがいる。
手錠されていることも忘れて、俺は彼女を抱きしめた。
「ごめんなミキ」
抱きしめながら謝罪する。
目からは自然と涙がこぼれていた。
「私もごめんね、酷いことをサチくんにさせて」
あんなことは二度としたくない。
「でも私は同じ状況になれば同じことをするよ」
舌を噛み切ったときの痛みを思い出しているのか青ざめた顔で宣言する。
悲痛な決意を固める彼女の姿を見て、俺の心は折れてしまった。
俺にはもうミキを殺せない。だから彼女が舌を噛み切るような展開にはできない。
もう里村さんには会えない。
俺はもう、ループから抜け出すことはできない。
◆
俺はせめてもの抵抗として、セックスを拒否しようとした。
でもどれだけ無反応でいようと思っても身体は勝手に反応する。
半ば逆レイプのような状態であっても身体は快楽を感じてしまう。
「サチくんの身体は正直だよ」
「ただの生理反応だ。俺はこのループを抜け出したい。ミキがループを抜け出さずにひたすらセックスすることを望むのなら、俺はそれを否定する」
ミキがセックスをしたいのなら好きにすればいい。
でも俺はそれに応じない。
生理的な反応はしてしまうけれど、それ以外は何もしない。
そう固く心に誓った。
「ふふ、強がって後悔しても知らないからね」
自信たっぷりにミキは笑う。
その後のループで、俺は彼女の自信の理由を思い知らせることとなる。
◆
「ミキ、頼む!」
俺は彼女に懇願していた。
「後悔しても知らないって言ったでしょ?」
「もう限界だ……」
俺たちはセックスをしまくってきた。
互いに身体の弱い場所を知り尽くしている。
故に彼女はどうすれば俺が気持ちよくなるかも分かっている。そして、俺を焦らすためにはどこで止めればいいかも分かっている。
「たまには焦らしプレイもいいでしょ?」
ミキが楽しそうに笑う。
恐ろしい笑みだと思った。
「このまま次のループに行く? そしたら次のループでも同じように焦らしてあげる。その更に次も、もっと次でもずっとずっと焦らすんだ」
「止めてくれ……」
想像するだけでも恐ろしい。
痛みを耐えることとはまた違った苦しみがある。
きっと俺には耐えられない。
「サチくんが私とのえっちに応えてくれるまで続けるから」
ミキとのセックスは俺にとってなくてはならないものになっている。
それほどまでに彼女とのセックスは気持ちいい。
そんな俺だからこそ、焦らされることは最悪の拷問だった。
「これだけたくさん我慢したら、きっとすっごく気持ちなれるよ」
ミキが耳元で囁く。
もうダメだと思った。
その瞬間、俺の身体は勝手に動いていた。
こうして俺は――いや、俺たちは、ひたすらセックスを繰り返して快楽を貪るだけのセックスドールになり下がった。
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