第20話 えっちしよ?
前回のループではセックスをしないまま終わってしまった。
約束違反だと怒っているミキを宥めながら、俺たちは図書館に向かう。
「今回はぜったいえっちするからね!」
ミキがフンスと鼻息を荒くして意気込んでいる。
その気合の強さにちょっと引いてしまうが、花子さんのことで落ち込んでいるミキの姿はすっかり消えたようなので、それでよしとしよう。
「前回の図書館では満足に調べられなかったから、今回は思う存分調べたい」
「あー、あのときはごめんね」
「まじで死ぬほど驚いた」
というか実際死んだ。
「サチくんも多分ループするようになったんだろうなと思ってたけど、あのときはまだ確信が持てなくて、だから何を調べてるか分かればはっきりするかなって」
「不幸な事故だと思っておくよ」
「ごめんね」
ミキは悪くない。むしろ悪いのは俺だ。
あの時点で彼女と向き合えていれば、あんなことにはならなかったはずだ。
「それで何を調べればいいの?」
「具体的にこれってものがある訳じゃないが、とりあえず郷土資料関係を調べようと思う。何でもいいから何か気になることが見つかれば教えてくれ」
「りょーかい」
早速俺たちは郷土資料の棚を調べ始めた。
古い資料ばかりで読むのが大変そうだ。
中には旧字で書かれているのもあり、パッと見ただけでも読む気をなくしてしまう。
「ちゃっちゃと調べてえっちしよう!」
ミキは妙にやる気だった。
彼女にとっては早く終われば終わるほどいいのだろう。
負けてはいられない。
覚悟を決めて古い資料を手に取った。
「あんまり役立ちそうな情報はないなぁ」
「そうだねぇ……あ、これ見てよ」
「何か良い情報があったのか!?」
「かかし祭りって小学校の生徒たちが近所の農家の人たちのためにクラスごとにかかしを作ったことが切っ掛けなんだって」
ガクっと肩の力が抜ける。
あんまり関係なさそうだ。
「あれ怖いから止めてほしいんだよなぁ」
「私は結構好きだけど。可愛いし」
「まじかよ」
ミキのセンスを理解できない。
そういえば昔からブサカワ系を好き好んでいた気もする。
様々な資料を読み込んでいると、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
救急車だ。
「確か市役所の人が倒れるんだよな」
息抜きもかねて窓に近づいてから外の様子を覗く。
彼女も疲れがたまっていたのか調査を中断して傍にやってきた。
「伊藤さんが過労で倒れたやつだね」
「その人のこと知ってるのか?」
「地域の集まりにもよく参加してくれるし良い人なんだけど、苦労を背負い込むタイプって感じ?」
「それで過労が溜まったってことか」
「上司の課長さんがパワハラ気質なんだって」
溜め込む部下とパワハラ上司。
ある意味相性抜群だ。
その結果が今日不幸にも爆発してしまった。
「今回のことは課長さんには良いお灸にはなるんだろうけど……」
ミキが眉をひそめる。
「24時になっても伊藤さんの意識が戻ってなかったんだよね」
「思ったよりも重症だな」
大事をとって救急車で運ばれた程度だと思っていた。
数時間経っても意識不明となると重体だ。
さすがに死にはしないだろうが何らかの後遺症が残ってしまう可能性もある。
「それはそれとして、はい休憩終了!」
「疲れたからもう少し休憩させてくれよ」
堅苦しい文字で書かれた資料を読み続けるのは大変だ。
ミキが上半身を前に倒して、横から俺の顔を見上げながら笑う。
「早くしないと襲っちゃうよ?」
悪くないと思ってしまった自分がいる。
すぐに返事ができずに見つめ合ってしまう。
「調査の再開だ」
「えぇー、今良い感じの雰囲気だったのにー」
ミキがぶーぶーと抗議している。
でも俺に応じる気がないと分かったのか、彼女も大人しく机に戻った。
しばらく調べていると坂上神社に関する記述を発見した。
「縁結びの神社だったってのは本当らしいな」
「何かあったの?」
見せて見せてとミキが同じ椅子に座ってくる。
身体が密着して興奮してしまう。
「狭いぞ」
「だって見えないし」
椅子の半分を分捕りながら、彼女は机の上の資料を読む。
「へぇ~、この町が薬の町として栄えるよりもっと前に、重い病になった女性と恋人の男性が、あの神社の裏の崖から飛び降りて心中を図ったんだって」
「でも神様が2人を哀れに思って奇跡を起こしたらしいぞ」
「町の人たちはみんな2人が死んだと思ってたけど、ある日2人は神社の前で寝てて、しかも女性の病も治ってたって書いてあるね」
「俺たちのおかしなループとは違って、真っ当に神様してるじゃないか」
神様は俺たちの何をどう哀れに思って、どうなれば満足するというのか。
◆
「今回はそろそろいいんじゃない?」
座って資料を読む俺に、後ろからミキが抱き着いてきた。
「まだ調べる資料はたくさん残ってるからダメだ」
「残りの量から考えて今回じゃ絶対に終わらないから、いったん切り上げてもいいと思う」
彼女の言うことも一理ある。
無理して頑張っても意味はない。
ループして心身ともにリフレッシュした状態でやり直した方が捗るかもしれない。
返事に困っていると、ミキが耳元で囁く。
「ねぇサチくん」
彼女の吐息が耳をくすぐった。
嫌悪感なのか快楽なのかはっきりしないぞわぞわした感覚が身体全体に走る。
「えっちしよ?」
小さくかすれるような、それでいて熱のこもった声。
ビクッと身体が震えた。
彼女は俺の身体をよく理解している。どうすればスイッチが入るかを分かっている。下手をすれば俺自身よりも詳しいかもしれない。
俺が拒否しないことを分かったのか、首筋や耳にキスしてくる。
「外でやるのを嫌がっていたのに図書館はいいのか?」
「閉館して誰もいないからセーフ」
問題ないらしい。
だとすれば俺ももう遠慮する必要はない。
キスで返事をした。
「丁度いい場所があるから1階に行こうよ」
1階に降りた彼女が示した丁度いい場所とはキッズスペースのことだった。
基本的に館内の床はフローリングで固い。土足で歩く分にはいいがセックスには向いていない。
でもキッズスペースにはフロアマットがしかれており、寝そべっても身体は痛くならない。
まさに丁度いい場所だ。
「不謹慎じゃないか?」
子どもが遊ぶ場所でセックスをしてもいいのだろうか。
「サチくんが言う?」
「……確かに」
今までやってきたことを考えれば、キッズスペースでセックスをするぐらい大したことではない気がする。
そうと決まれば後はやるだけだ。
俺とミキは童心に返ったようにワクワクしながらキッズスペースに乗り込んだ。
◆
図書館での調査を少なくとも十周以上は繰り返したけれど、ループの原因を突き止めるのに役立ちそうなものは何もなかった。
単純にいい情報がないということもあるのだが、それ以上に回を重ねるごとに調査の効率が落ちて行った。
もちろん精神的に疲れが溜まっていたとか、先の見えない調査に飽きてきたとか、そういうやる気の問題はあっただろう。
でも効率が極端に下がっているのは別の理由がある。
俺たちは調査をすべく図書館に侵入した。
ミキは迷うことなくキッズスペースへと向かい、そして服を脱ぎ始める。
「なぁ」
「どうしたの?」
彼女と同じように俺も服を脱ぐ。
生まれたときの姿になった俺たちは抱き合った。
「俺たちはループの原因を調査するんじゃなかったか?」
それが主目的だったはずだ。
なのになぜか俺たちは図書館に入るや否やセックスをおっぱじめようとしている。
「次のループで調べればいいんじゃない?」
「前回も、前々回も、その前もずっと同じことを言ってると思うが」
「んー……そうだっけ?」
あからさまにとぼけている。
図書館に入るといつもいつもミキが当然のようにセックスを始めようとする。
そうなってしまえば俺もついその空気に流されてしまう。
最初の方はちゃんと調べものをしてからセックスしていたのだが、徐々にセックス前の時間は減っていき、ここ何周かはセックスしかしていない。
「今回でいったん図書館での調査は終わりにしよう」
俺たちの頭が図書館はセックスをする場所だと覚えてしまった。俺もミキも図書館に足を踏み入れるとセックスで頭がいっぱいになる。
例えば大学生のカップルがラブホテルに来て、セックスもせずにテスト勉強をできるだろうか。できるはずがない。
それは頭にラブホテルはセックスをする場所だと刻まれているからだ。
さかった男女はラブホテルに入ればセックスをせずにはいられない。
さかりにさかった俺たちが我慢できるはずがない。
「まだ資料はたくさんあるし、止めない方がいいと思うな」
身体のあちこちにキスをしながらミキは言う。
今の状況は彼女にとって理想的なものなのだろう。
彼女が望んでいた『ただひたすらにセックスをする』状況だ。
このままじゃダメだと頭では理解している。
でも身体と本能が理性をどこかに蹴飛ばしてしまう。ミキが服を脱ぎ始めれば、俺も条件反射のごとくその気になってしまうのだ。
だからいったん図書館は諦めて方針転換すべきだ。
「折角良い感じなのに勿体ないよ」
口をとがらせて不満ですと主張している。
その不満な唇にキスをしながら尋ねた。
「ここしばらくずっと図書館でセックスしてるけど、そろそろ違う趣向のセックスもしてみたくないか?」
「んー……まぁ、少しは」
俺の提案も悪くないと思ってくれたのか、キュッと結ばれた唇から力が抜ける。
蕩け合うようなキスをした。
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