第17話 ただひたすらにえっちしたい
同じ車両には俺とミキ以外に誰もいない。
その場でミキを押し倒した。
「ちょ、ちょっとサチくん!?」
孤独だと思っていたループは孤独じゃなかった。
ミキが傍にいてくれる。理解してくれる。
そのことが嬉しくて感極まって抱きしめた。
「ここだとあんまり時間ないから、ね?」
この電車は信号トラブルで停止中だ。
でもしばらくすれば再び動き始める。
電車が動いてやくり町を出てしまえば、俺たちは見えない壁に潰されてしまう。
ちゃんとした場所でしようと言う彼女の唇を無理やり塞いだ。
そして電車でそのままおっぱじめた。
2人とも前回の影響で興奮しきっていたお陰で、なんとか時間ギリギリに終えることができた。
俺たちは快楽の頂点に達しながら見えない壁に潰された。
「酷いよサチくん」
「スリルはあったろ?」
電車に戻ったミキがぷんすかと怒っている。
「確かにスリルはあったけど。私は落ち着いた場所でする方が好きかなぁ」
「たまにはこういうのもいいんじゃないか?」
「んー」
俺の問いには答えず、ミキが立ち上がる。
そして電車を降りてホームの上で振り返りながら、
「ノーコメントで」
照れたように言うその姿に見惚れてしまい放心状態になった。
しばらくしてミキに置いて行かれそうになっていることに気がつき、慌てて電車を降りるのだった。
◆
「前回は私のことを優先してもらったから、今回はちゃんと話すつもりだよ」
どこかでゆっくり話そうと言いながらミキは俺を駅前のカフェに連れていく。
席について、さて何から話そうかと思っていると、ミキが複数のスイーツを一気に頼んだ。
「めちゃくちゃ頼むなぁ」
「だって体重のこと何も気にしなくていから。食べなきゃ損だよ」
「確かに」
俺はコーヒーを頼んだ。
「折角元に戻るのに、それだけでいいの?」
「今は食べることよりミキの話が気になっている」
「そうだよねぇ。んー、何をどう話せばいいのかなぁ」
ミキにも話す意欲はあるみたいだが、中々うまく言葉にできないらしい。
こんな摩訶不思議な状況にあれば仕方のないことだと思う。
「逆に何か聞きたいことはある?」
「ズルいぞ」
「どんな質問でも絶対に嘘をつかずに答えるって約束するから」
何を聞くべきだろうか。
色々と聞きたいことがありすぎてごちゃごちゃになってしまう。
でも一番最初に確認すべきことは決まっている。
「ミキもやくり町に閉じ込められて、今日をループしているんだよな?」
「うん」
やはりか。
そうに違いないと思ってはいたけれど、彼女が認めることでその事実を確信できた。
「俺が目覚めたとき、傍にいられるのはどうしてだ?」
「私が戻る時点はサチくんよりちょっと早いんだ。だから戸成駅から電車に乗れば、サチくんが目をさますところに立ち会える」
ミキもやくり町に閉じ込められている。
でも戸成駅もやくり町の範囲内だ。だから俺が乗っている電車に先回りして乗り込めば、17時10分に俺の隣にいることができるという訳だ。
「だから俺が駅から出た後を尾行するのも簡単だったってことか」
「最近のサチくんは明らかに変だったからね」
少し違うぐらいならともかく、俺はループごとに全く違う行動をしていた。
俺が彼女の立場でも同じように尾行すると思う。
「ぶっちゃけ、ミキのことがガチで怖かった」
「ごめんね」
彼女も悪いと思っているらしい。
「ミキに刺されたのが一番衝撃的だったな」
「あはは」
「でもあれは……俺のためだったんだろ?」
ミキが頷いた。
「私たちは死んだらループする。でも……死に損なったら24時になるまでループできない」
電車に撥ねられたときも、図書館の階段を転げ落ちたときも、もしもミキが殺してくれなかったら、ギリギリ死ねない程度の苦痛を味わい続けていたはずだ。
ミキは俺を苦しみから救うために殺してくれたのだ。
あのとき、俺が死んだかどうかを確認しにきた頭のない女に対して殺してくれと願った。でもその願いを女が聞き届けることはなかった。だが、そのかわりにミキがその役目を引き受けてくれたのだ。
俺はミキに殺されて、その理由が分からずに怯えていた。
サイコパスかもしれないと恐怖していた。
でも彼女がループしていると判明した以上、俺を殺した理由は明らかだ。
俺のためにやってくれていたことなのに怯えてしまって申し訳ないと思う。
最悪の敵だと思っていたミキは、俺にとって最高の味方だった。
「嫌だっただろ? ごめんな」
「うーん……大好きな人を殺せるなんて、絶対にできない経験だから」
ほう、と光悦とした顔で言う。
サイコパス……じゃないんだよな?
笑顔で「これこそまさに愛だよ」と力説する姿が恐ろしい。
ミキは俺の質問に嘘をつかないと約束した。
だから嫌だったとは言えないようだ。
今の話をこれ以上深堀りするのは危険だと思ったので話を変える。
「ミキは何回ぐらいループをしているんだ?」
「数え切れないぐらいたくさんかなぁ」
どれだけ孤独だっただろう。
きっと辛かったはずだ。
回数は少ないとはいえ同じ状況に陥っている俺だからこそ、きっと彼女に寄り添うことができる。
「これからは俺が一緒だ」
「うん!」
店員がスイーツを運んできた。
テーブルいっぱいに所せましと並べられる。
我慢できないと言わんばかりにスイーツを口にする。
「んー、おいしい!」
楽しそうな彼女には悪いが、俺にはまだまだ聞きたいことがある。
「このループを抜け出すための手がかりを知らないか?」
「えっ?」
ミキが固まった。
パンケーキを口にする直前でスプーンは止まっている。
「ミキだって、このループを抜け出すために色々調べただろ?」
「と、当然だよ!」
頭から汗がダラダラと流れている。
見るからに動揺していた。
「何が分かったんだ?」
「色々だよ、色々!」
パンケーキを食べながら主張する。
「まだサチくんに教えるには早いと思うんだ。サチくん自身で知った方がいい。絶対そうだよ」
「嘘をつかないんじゃなかったのか?」
「ギリギリのギリギリで嘘にはなってないはず、うん!」
グッとわざとらしく握り拳を胸の前で作っている。
ろくにループのことを調べてねーなこいつ。
ループの先輩は案外頼りにならないらしい。
「数えきれないほどループしている間、何してたんだ?」
「大体食べるか寝るかかな?」
案外図太い精神の持ち主のようだ。
ずっとループを繰り返していたら、俺の場合は目の前の快楽どころではなくなってループを抜け出す方法を探すだろう。
「後はその……ずっとサチくんとえっちしてた」
俯きながらモジモジと言う。
可愛い。
「俺以外の男とはしなかったのか?」
「そんな気持ち悪いことしないよ」
たとえ誰と寝たところで次のループではなかったことになる。
俺だったら他の人と寝ていたかもしれない。
館山さんや、この町にいる若い女性を無理やり抱くとかそんな最低なこともしていただろう。
「ずっと俺としてて飽きなかったのか?」
「飽きる? どうして?」
「だって俺はループの度に記憶を失くしていたんだろ? またゼロからやり直しじゃないか」
どれだけ愛し合っても、それが全てなかったことになってしまう。
悲しいことだと思う。
「忘れられちゃうのは残念だったけどサチくんとえっちできるだけで幸せだったから」
「ミキ……」
「それにコツを掴んでどうすればサチくんが気持ちよくなるか分かってからは、もっと気持ちよくなってもらうためにはどうすればいいかって色々研究してたし。だからゼロからじゃないよ」
「その熱意をループの研究に費やしてほしかったな」
「えへへ」
彼女の努力の結晶を俺はこの身体で味わっている。
だから無下にはできない。
でももう少しループのことを調べてほしかったなとはどうしても思ってしまう。
「サチくんも食べる?」
ミキがスイーツをスプーンですくって差し出してくる。
いわゆる「あーん」だ。
美味しそうに食べる彼女の姿を見ていると、こっちもお腹が空いてきたので口にした。
「なんか恥ずかしいな」
「あれだけ外で色々やったのに?」
「いやあれは夢中だったっつーか」
カフェであーんをすることと野外でセックスすることは全く意味が違う。だから一概に比較することはできない。
生クリームを味わいながら、ミキに伝える。
「俺はこのループを抜け出したい」
「……うん」
「だからまずはループの原因を調査する必要がある。ミキも手伝ってくれないか?」
「うーん、ループのことを調べるのに協力するのは良いけど……条件を出してもいいかな?」
「どんな条件なんだ?」
「絶対とは言えないだろうけど、どうせループするなら、なるべくえっちで終わるようにしてほしい」
真剣な顔で彼女は言う。
「私にとっては今が最高なの。今まで記憶がなくなってたサチくんが、理由は分からないけど記憶を忘れないようになった。身体はすぐに気持ちよくなっても、心はそうはいかない。ループしたらサチくんが言ったみたいにゼロからやり直し。それが今はサチくんの心も積み重ねられる。次にするえっちは、前にしたものよりもきっともっと気持ちいい。えっちする度により一層気持ちよくなる」
彼女の言うことに間違いはない。
心が通った今、きっと次のセックスはもっと気持ちがいいはずだ。
「わざわざ頑張ってループの原因を探すより、ループが始まったらすぐにラブホテルに行ってえっちしたい。ただひたすらにサチくんとえっちがしたい。それが私の本心」
ミキに身体を求められていることを嬉しく思う。
彼女が求める通りにセックスのことだけを考えていたい。
でもそれはできない。
「サチくんの気持ちも分かるから、妥協案としての条件だよ」
彼女は俺に歩み寄ってくれている。
俺も彼女に歩み寄る必要があると思ったから頷いた。
「分かった。俺はループの度に出来るだけセックスすると約束する」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます