3話:2話:担任の先生がなんかエロいんだけど……(続)

 どうにか保健室へとやってきた俺たちだが、鍵こそ開いているものの、保健室の先生はいないようだった。

 俺たちはいつも、少し早い時間に登校しているから、先生もまだ学校に来ていないのかもしれない。

 鍵はかけ忘れたのだろうか。


「黒ヶ原、腕、大丈夫なのか?」


 ゆかり先生の肩を支えている俺の左腕を、佐久間が心配してくる。

 包帯を巻いているくらいだから、骨が折れていると思っているのかもしれない。


「はは……このくらいなら大丈夫だよ」


 少しだけ罪悪感を覚えながらも、まさか仮病だとは言えず、適当に流した。

 というか。


「と、とにかく、早くゆかり先生をベッドに運ぼう。このままじゃ、何がとは言わないけど、やばい」

「そ、そうだな……」


 ゆかり先生の体重は、正直そこまで重くない。

 俺たちは健全な高校生。女性一人抱えるくらい、二人もいればそう問題はない。

 いや、しかし、健全だからこそ、問題があった。


「んっ……ぁぁん……」


 ここに来るまで、煽情的な喘ぎ声にも聞こえる吐息が、俺たちの耳を犯し続けていた。

 肩を抱えている俺たちの体に押し付けられた、先生の豊満なソレがむにゅりと形を変えているのがはっきりとわかる。


 香水をしているのか、首を伝う汗から漂う甘い香り。

 たまに擦れる、『むちっ』とした太ももの感触。

 止めとばかりに、微かに顔に当たる先生の甘い吐息。


 なに、このハニートラップ。

 地獄でしかないんだけど。


「よ、よし、おろすぞ」


 歯をかみしめ、時には舌に歯を突きたてながらもベッドへとたどり着くと、どうにか先生を寝かせることに成功する。

 先生は意識が朦朧としているようで、「お母さん、くるしいよぉ……」などと言いながらうなされている。

 ごくり、と佐久間が息をのむのが伝わってくる。


「お、俺、他の先生よんでくる!」

「お、おい! 俺を置いていくなよ!?」


 俺の静止も空しく、我慢の限界と言わんばかりに、全速力で保健室を出ていく佐久間。

 残されたのは、息を荒くする赤面したゆかり先生と、健全な男子高校生の俺。

 まさかこの状態のゆかり先生を一人にするわけにもいかないし、俺は佐久間の帰りを待つしかなくなった。


「………ぼ、ボタンとか、外した方がいいのか?」


 先生のおっぱいがスーツと重力に押しつぶされて、かなり窮屈そうに見える。

 息苦しそうにしているのも、多分それが原因だろう。


「これは医療行為、これは医療行為……!」


 俺は自分に言い聞かせるようにそう言いながら、スーツのボタンへとゆっくり手を近づけていく。

 あと10センチ、あと5センチ……その時、事件は起きた。


「ぁあんっ!」

「むぐっ!?」


 唐突に、先生の腕が伸びてきて、俺の顔を抱き寄せてきたのだ。

 抵抗する間もなく、ゆかり先生のππに、俺の頭は挟まれる。


 息苦しさに襲われながらも、顔面に幸せが浸透していく。

 香水とは違う、先生の甘ったるい体臭が鼻腔と肺を満たし、視界いっπに広がるマシュマロのようなππは、俺の脳をピンク色に染めていった。


「むぐー! むぐー!」


 どうにか引きはがそうとしてみるが、どこにそんな力があるのか、先生の腕はピクリとも動かない。

 や、やばい、段々と変な気分になってきた……。


 息を十分に吸えないせいか、朦朧とする意識の中で、ベッドについていた俺の手は、少しずつ先生へと伸びていく。

 だが、


「ゆかり先生、だいじょうぶ―――――」


 ガラガラ、と保健室の扉を開ける音とともに聞こえてくるその声に、一瞬で血の気が引いた。

 欲望まみれだった俺の脳内は、恐怖と不安で上書きされ、がたがたと手足が震え始めた。


「………何してるの、黒ヶ原君?」


 どうにか顔を動かして、そちらに眼を向けると、そこにいたのは―――斎川さんだった。

 ………俺の彼女、だった。


「………ほ、ほれはちはうんは……」

「ぁん」


 言い訳を試みる俺の口は、しかし先生の胸と喘ぎ声に遮られる。

 斎川さんはゴミを見る目を向けてきて、


「最低」


 俺は、死んだ。

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好きな子が彼女になりました。俺は中二病能力に目覚めました……ん? 一般決闘者 @kagenora

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