2話:担任の先生がなんかエロいんだけど……

 心なしか、周りからの視線が痛い……。

 左手に包帯の上から包帯を巻き、右目にガーゼの眼帯をした俺は、いつものように登校していた。

 周りから見れば、明らかに尋常ではない様子……流石に、瞳の色を隠すために眼帯をしているとは思われないだろうが、それでも事故にでもあったかのように見えるだろう。


「おいーっす」


 そんな俺の肩を叩いて、横に並ぶ男子がいた。


「なんだ、悠太か」

「なんだかんだと言われたら! 答えてあげるが世のなさけ! 佐久間雄太とは俺のことぉ!」

「相変わらず意味わからねぇ……」

「こまけぇことは、そこにおいて来た……」

「どこの海賊王だよ?」


 俺と悠太は顔を突き合わせて、同時に「ぷっ」と吹き出した。


「元気そうだな」

「お前もな」

「俺は昨日も登校してたぞ? つーか、熱とか出なかったし」

「マジかよ、羨ましすぎる……」


 悠太は俺と同じタイミングで、ワクチンを打っていた。

 同じく1回目だから、そこまで副作用が出なかったのかもしれない……俺が過剰すぎたのだ。


「羨ましいといえばお前だろ……(斎川さん、お前のこと心配そうにしてたぞ? 授業中も、ちらちらお前の席見てたし)」


 ぼそりと耳元で呟いてくる悠太。

 ……心配してくれてたのか。

 それだけで、ニヤニヤとしてしまう。

 単純すぎるな、俺。


「ところで、その眼と腕、どうしたんだよ?」

「ああ、これは……そう、ベッドから落ちた拍子に、ぶつけたんだよ」

「お前、ドジだなぁ」

「ははは……俺もそう思う」


 まさか、起きたら目の色が変わっていたとは言えない。

 それに、この包帯、なぜか剝がせないのだ。

 まるで元から俺の腕の一部だったかのように、包帯が腕に引っ付いて、取れない。

 水で濡らしてみてもなぜか水を弾くし、周りから見たら不自然極まりない。

 とりあえず、上から包帯を巻いてみたけれど……包帯といい、眼帯といい、十六夜の中二病グッズが妙なところで役に立った。


「お、あれ、ゆかりん先生じゃん」

「ん、本当だ。珍しいな、徒歩で登校するなんて」


 悠太が指さす先、そこにはパンツスーツに身を包む担任の、織田ゆかり先生がいた。

 ゆかり先生は可愛い系の容姿をしている先生で、特に男子から人気が高い―――多分そのはちきれんばかりの双丘も原因だろうけど。

 いつもは車で登校しているはずだけれど、今日はなぜか、徒歩で登校している……それに、よく見ると顔が赤いような気がする。


「ゆかりん先生、おはようございまーす」

「おはようございます」


 ヒールを履いているせいか、先生の歩くスピードは遅かった。

 俺たちはゆかりん先生に追いついて挨拶をする。


「さ、佐久間君、それに、黒ヶ原君、お、おはよう……」

「先生、顔赤いっすよ? そういえば、昨日、早退してたみたいだし、まだ体調、よくないんじゃ?」


 悠太が聞いた。


「だ、大丈夫……んっ。そ、それより、黒ヶ原君、だ、大丈夫? ね、熱がでてたって、妹さんから聞いたけど」

「俺は大丈夫ですけど……」

「そ、それならよかった……ぁんっ……はぁ、はぁ……」


 息も絶え絶えに、俺のことを心配してくれるゆかり先生。

 それに、なんというか……


「(先生、なんか、その……アレじゃね?)」


 悠太がぼそぼそ声で言った。

 言われて、俺は何気なくゆかり先生を観察する。

 なぜか内股気味に太ももを摺り寄せて、もじもじとしており、見方を変えれば尿意を我慢しているかのようにさえ見える。

 つまり、何が言いたいかというと……エロかった。


「はぁん……」

「先生っ!?」


 だが、そうこうしているうちに、ゆかり先生はその場で倒れこんだ。

 呼吸は荒く、本当に苦しそうに見える。


「悠太、先生を運ぶぞ! 学校の保健室なら近い!」

「お、おう!」


 もはやエロいとか、そんなこと言ってられない。

 俺たちはゆかり先生の肩を抱えると、大慌てで保健室へと向かうのだった。

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