人間界に憧れる魔王 その6

 「だとしても、人間との交配など今までに聞いたことがありません。人は人。魔族は魔族なのです」

 「そりゃそうだけど……」 

 

 「ま、魔王様! 大変です!」

 

 「どうした爺?」

 まだ警護の途中だというのに慌ててこの執務室に駆け込んできた執事兼兵士長ネイビル=ディループ――通称爺は、肩で息をしながらドアを開けたままの格好で立っている。

 「捨て子が! 城の前に居りました」

 「えっ!」

 「本当ですか? そしてその子は今どこに?」

 さすがと言うべきか、パインは眉を少しあげる程度の驚きしか顔に出さず、すぐさま状況説明を求めた。

 「下の医務室にて、メイドたちが寝かしつけております」

 「俺たちも行くぞ!」

 すかさず魔王は下の医務室に向かおうと爺の開けている扉へと走った。

 

 「そうですね。あと魔王様一つよろしいですか?」

 

 パインは魔王の秘蔵コレクションを隅にあるゴミ箱にぶち込みながら呼び止めた。

 「なんだよ? 早く行くぞ」

 パインの横を過ぎ、追い越したところで声が掛かったため、奥の扉へ体を向けたまま、顔だけを向けてきた魔王にパインは言い放った。

 

 「この話、まだ終わってませんから」

 

 「ひっ……」

 

 「さ、お早く」

 思わず身体を硬直させる魔王をよそにパインは、下の医務室へと向かった。

 「魔王様もお早く!」

 「ああ」

 爺に促されると硬直の解けた魔王も下へと続く階段へ走った。

 また跡取りについてパインにどやされる恐怖に身を震わせながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る