革命の徒

 革命が勃発したとき、そういえば私は読書の手を止めて、窓辺に降る雪を眺めていたのだったな。あの日の雪は格段に白くて柔らかくて、全ての人を眠りにつかせることのできるくらい静かにこの世界に降り注いでいた――。

 フィーリアは貴族の屋敷に押し入りながら、そんなことをぼんやりと思い出していた。

 突然の発砲音。怒号。叫び声。あの日も同じだった。もうたくさんだ。

 フィーリアはフロアを横切り、仲間と目配せしながら、革命に夢を託していたかつての日々を押しやった。

 お願いだ。逃げていてくれ。勝手な祈りだとは理解してる。でももうだめだ。これ以上はもう。

 地下への階段を発見したと仲間が呼びかけてくる。フィーリアはやむなくそちらへ駆けた。

「俺が先に入る。お前はここで見張りをしていろ」

 かろうじてそれだけ言い、彼は地下へ降りていく。手元のランタンが、漆黒の闇を無情に照らし出す。

 突き当りのドアを開け、光を掲げると、部屋の隅で誰かが身じろぎをした。おお神よ。

「君は革命の徒だね」

 思いの外高い声が返ってくる。

「違う。俺は歴史の奴隷だ。お前はなぜ逃げなかった」

「この革命の完成には、私の死が必要だと感じたからだよ。……僕は裁判長の息子だから」

 フィーリアは驚愕した。貴族側にも革命擁護派がいるとは聞いていた。しかし、己の命を差し出すほどの人間がいたとは。

「命が惜しくないのか」

「惜しくない。今の僕の命にはどれほどの価値もない。唯一の友人だった人が貴族になぶり殺されてから、僕はこの日のためだけに生きてきたんだから」

 フィーリアは該当の事件に思い至り、額を押さえた。

「あの事件は……凄惨だった。彼は市民だったはずだ」

「そう。貴族は無罪放免。裁判長は父だった」

「……俺はお前を殺せないよ」

「なら仕方がない」

 ギラリとした光が目を刺した。

「僕はここで死のう」

 刃を首に当てる青年。

 突然の発砲音。彼は思わずしゃがみこんだ。

「悪いな。俺はお前みたいな奴が死ぬのをただ黙って見ていられるほど愚か者じゃないんだ」

 あの事件が発端で革命は起こった。この青年貴族の命がけの革命は、彼の死で終息してはならない。

「親父さんが死んだのを知ってるか」

 青年は目を見開いた。

「いつ」

「今日の3時頃に。君も殺される予定だった。でもその予定は変更された、今この瞬間に」

 フィーリアは頭を垂れた。

「どうかこの争いを止めてほしい。痛みを知るあなたなら、それができるはずだ。市民は今のところ、弱者の死を悼む人間が貴族の側にいることを知らないんだ。あなたが今ここで死んで、市民の暴走に拍車をかけるか、あなたが彼らに語りかけ、これ以上の悲劇を食い止めるか。――どうか、賢い選択を」

 青年はフィーリアを見つめた。輝きはじめた瞳は、もう死を映してはいなかった。

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