第39話 決着

「つれないな、もう少し付き合ってくれてもいいじゃないか。私はお前の叔父でもあるんだぞ」

 リティーナの気持ちを知った上でからかっている。こいつはどこまで人の心を弄べば気が済むのか。

「あたしたちも加勢するよ」

「邪魔をするな。お前たちは、こいつらとでも遊んでいろ」

 物陰から、悪魔を象った彫像のような怪物がのそりと姿を現した。ガーゴイルの群れだ。隠していたのだろう。

「魔王は姫様にお任せしましょう」

「そうだな。俺たちは露払いと行こう」

「鬼熊殺しの錆にしてやる!」

 やっぱり微妙に悪役っぽいこと言って、ルルディさんたちはガーゴイルとの戦闘に入る。


「お前とて、ただ目の色が緑色というだけで、数えきれないほどの屈辱と差別を受けてきただろう。人間が憎いはずだ」

 鍔迫り合いをしながら魔王が言う。真っ向から、目を逸らさず、リティーナは応じる。

「そうね。確かに憎く思った時もあった。わたしを取り巻く人々を、わたし自身すら憎んだ。憎んで、嫌っていた」

「だったら」

「でも、わたしはもう人を憎まない。わたしもまた、人なのだから。自分を憎むのは、もうやめた。この身体に流れる血を、あるがままに受け入れる。わたしはウェリス人でもあり、深緑の民でもある」

 強い意志の力と共に、リティーナは魔王を押し返した。

「きれいごとを!」

 魔王が振るう聖剣と、リティーナが振るうぼくがぶつかり合う。魔力の火花が飛び散る。

 最初の時は、痛みで心がバラバラになりそうだった。でも、今は違う。ぼくは一人で戦っているわけじゃないから。

 リティーナが叫ぶ。

「きれいごとだっていう自覚はある。それでも、必要なの! 憎しみばっかりじゃ、何も解決しない。わたしたちは互いに理解し、歩み寄らなければならない!」

「最初に拒絶したのは向こうだぞ! 我々を差別し、追い払った!」

「みんながみんな、深緑の民を拒絶しているわけじゃない。中には暖かな理解を示してくれる人だっている。こんなところに閉じこもっているあなたには、それがわからないんだ!」

 そうか。旅に出て、いろんな人と触れ合ったからこそか。

 冒険者として離宮を出ることを選んだから、リティーナは世界を知ることができた。

 傷つくこともあったけど、それ以上にリティーナは強くなった。

 リティーナのお父さんとお母さんが、王女であるリティーナの旅を許した理由がわかった気がする。

 どうでもいいと突き放していたわけじゃない。困難な環境に否応なく置かれた娘の成長を望んでいたのだ。

「そんなのは、ごく一部だろう」

「その一部を、少しずつでもいい、増やしていくことが大切なんだ」

「理想で世界が変わるものか!」

「きっかけくらいは作ってみせる!」

 激しい撃ち合いの隙間を縫って、両者は言葉を交わす。一撃ごとに、リティーナの意志の力がぼくに流れ込んでくるのを感じる。そう、きみは一人じゃない。そして、ぼくも一人じゃない。一緒に、戦おう。

 やがて、ぼくの刀身は淡く黄金色に輝きだした。

「あれは――。そういえば、文献で読んだことがあります。かつて英雄アグネーシャが振るっていた剣は、黄金色に光り輝いていたと」

 最後のガーゴイルを魔法で吹き飛ばしたケントニスさんが呟く。あっちの戦闘は一段落したみたいだ。

「その剣って、どうなったんだ?」アシオーさんが尋ねた。

「それが曖昧なのですよ。アグネーシャがどこかに隠したとも、天に帰ったとも言われています」

「天に帰った? なら、もしかしてリティーナの剣って……」

 

 リティーナと魔王の斬り合いは、より一層激しさを増していく。

「私は認めない。私を拒絶した人間を、国を、世界を! 牙を突き立て、引き裂いてやる! それが私の魔王としての存在理由だ!」

「そうやって憎しみをばらまき続ける魔王を、わたしは討つ!」

 二人の戦いは、まるで剣舞のようだった。卓越した技量によるすさまじい斬撃の嵐。嵐の中心で、二人は一歩も譲らず、折れず、互いの主張と存在をかけて剣を振るい続ける。

 剣の腕だけで言うならば、二人の力は拮抗していたのかもしれない。それでも、勝利の天秤が徐々にリティーナの方に傾いてきていることに、その場にいる全員がきっと気づいていた。

 斬り交わすうちに、魔王は防戦一方になっていく。

 ここに来て、リティーナの剣技の冴えは尋常ではないものになっていた。

 ついに、リティーナの斬撃が魔王の腕をかすめた。

 ぼくの刃は影月鉱で作られた小手をやすやすと切り裂き、肉を断った。たちまち赤い血が流れ出した。己の不利を悟ったのか、魔王は後ろに飛び退いて間合いを離す。

「なぜだ。なぜ勇者の身体を持ち、聖剣を振るう私が……」

 明暗をわけたのは意志の力の差か、あるいは、それぞれが振るう武器の違いか。

「覚悟ッ!」

 切っ先を魔王に向け、リティーナは突撃した。黄金色の光が軌跡となって尾を引く。

「待ってくれリティーナ」

「……っ!」

 切っ先が魔王の胸に突き刺さる直前だった。魔王から発せられた声に、リティーナは踏みとどまる。

「俺だ、カリュプスだ」

 完全に、カリュプスさんの声だった。

「無駄だ。この期に及んでわたしを惑わそうなど……」

「違う。お前が追い詰めてくれたおかげで、魔王の支配が弱まったんだ。その隙をついて、俺が身体を取り戻した」

 切っ先が、かすかに揺れた。

「なあリティーナ、俺の旅立ちの日に言ったことを覚えているかい」

「……やめろ」

「あれは本心だったんだよ。今からだって遅くはない。剣を引いてくれないか。そして、二人でどこか遠くに逃げよう。誰も俺たちのことを知らない遠くに。きっとそこは、勇者も深緑の民も関係のない場所なんだ」

「やめろと言っている! 兄上の顔で、声で、そんなことを言うな!」

 リティーナだってわかっているのだと思う。目の前の存在は魔王であってカリュプスさんではない。それでも、同じ顔で同じ声を聞いてしまったら心揺るがずにはいられない。それでも、もしかしたらと期待してしまうことを、誰が責められるだろうか。

 魔王に突きつけられたぼくの切っ先が、行先を見失ったかのようにぶれる。

 すかさず、魔王が左腕を振った。飛び散った血がリティーナの目にかかる。とっさにリティーナはぼくから片手を離し、手の甲で目をぬぐう。ほんのわずかな一瞬の隙。でも、カリュプスさんの身体を使う魔王にとっては、十分な時間だった。

 雷光のような突きだった。聖剣が、リティーナの腹部を貫いていた。

「……え?」

「やはり、甘いな」

 唇の端を持ち上げた魔王が聖剣を引き抜くと、リティーナの口とお腹から血があふれ出た。

「く……あ」

 ぼくを取り落し、お腹を押さえたリティーナは膝を着いた。リティーナの手を離れた途端、ぼくの刀身から輝きが失われる。

「おっと、まだだ」

 床に倒れこむ直前、魔王はリティーナの頭を掴んで無理矢理立たせた。

「リティーナ!」

「動くなよ。喉を掻っ切るのは一瞬だぞ」

 駆け寄ろうとするルルディさんたちを魔王が制する。聖剣をリティーナの首筋に当てて、冷笑を浮かべながら。

 はらわたが煮えくり返りそうな怒りの中でぼくは思う。ぼくがもし自分の意志で動けるのなら、こいつの喉笛を掻っ切ってやるのに。心臓を貫くのもいい。どんな手段を用いても殺してやりたいと願う。

 だけど床に落ちたぼくはぴくりとも動くことができず、ただ見ていることしかできない。リティーナの足元に血だまりが広がっていく。

 くそ、なんでぼくは剣なんだ。自分が剣であることを、この時ほど恨めしく思ったことはない。こっちに来て自分が剣になったことを納得していたつもりだったのに、肝心な時にどうしようもないなんて。


「最愛の者に裏切られる気分はどうだ? 少しは私の気持ちがわかったのではないか」

「……哀れだ」

「なに?」

「……あなたは、哀れだと……言った」

 リティーナがぼくの方へ手を伸ばす。お願い、来て。そんな声を聞いた気がした。リティーナ、ぼくだってできればそうしたい。でも、どうしたって無理なんだ。動けないんだよ。

「誰も彼も……信じられなくて……孤独で……憎しみでしか……世界を感じられない……。あなたの……深緑色の目に……世界は、さぞや、色を失って……見えたでしょうね」

 途切れ途切れの声、もはやリティーナの限界が近いのは、誰の目にも明らかだった。

「小娘が知った風な口を利く。だが私は寛容だからな。お前に生きのびる機会をやろう。命乞いをしてみせろ。私の治癒魔法なら、まだ間に合うぞ」

「…………」

 リティーナは答えない。もう、口を開く力すら残っていないのだろうか。もう、だめなのか。

 ぼくが諦めかけたその時だった。

『ちょっと、しっかりしなさいよ! あんたのことを信じてくれている女の子を見捨てるっていうの? ふざけんじゃないわよ! 根性見せなさい! リティーナは諦めてないわよ!』

 頭上から声が響いた。オニクマさんの声だけど、ルルディさんが手にしている鬼熊殺しから聞こえたものではない。

『え……オニクマさん? どうして?』

『今はそんなことどうでもいいでしょ! ほんのちょっとの距離よ。今のあんたならできる。あるべき場所、勇者の手の中に戻るの! 強く、強く念じて』

 強く、念じる。

 そうだ。ぼくはリティーナの力になるって誓ったんだ。リティーナは諦めていないのに、ぼくが諦めてどうする。諦めがいいのはあっちの世界だけでたくさんだろう。それに、こっちは剣と魔法の世界なんだ。ぼくだって、望みさえすればささやかな奇跡の一つくらい起こせるはずだ。

 なんていっても、ぼくは勇者の剣なのだから!

 刀身が再び輝きだす。


「なんだ?」

 魔王の気がこちらに逸れた。この一瞬があればいい。リティーナなら、十分に活かしてくれるはずだ。

 あるべき場所に帰る。イメージするのは簡単だった。できて当然という気がした。

 ぼくは、吸い込まれるようにリティーナの手の中へと舞い戻った。

「ありがとう、信じてたよ」

 柄を握る強い力を感じる。リティーナは、まだ終わってなんかいない。リティーナの傷が、見る間に癒えていく。

「な……」

 剣閃が走った。黄金色の光が尾を引き、リティーナの頭を掴んでいた魔王の腕が宙に舞った。解放されたリティーナは、一切躊躇わず切っ先を魔王の胸に突き入れた。

「……がっ」

 魔王がうめく。

 リティーナはぼくを引き抜き、上段に構える。

「まさか、こんな……」

 袈裟懸けに振り下ろされた刃は、鋼の鎧ごと魔王の身体を切り裂いた。

「……なぜだ。なぜ、私は……勝てない」

「わたしがあなたを討てたのは、兄上の、みんなの力があったから。わたしを助けてくれた誰かが一人でも欠けていたら、わたしはここにいなかった」

 カリュプスさんが司魔将を討って開いた道を通り、リティーナはここまでたどり着いた。

 彼女は一人じゃなかった。多くの人たちの助けがあった。ルルディさん、ケントニスさん、アシオーさん。他にもたくさんの、旅の手助けをしてくれた人たちがいた。

 皆の希望が、力が結集した存在を勇者と呼ぶのならば、今のリティーナは正しく勇者だった。

「……は、そうか……」

 納得したように息を吐くと、魔王は仰向けに倒れた。

 瞬間、魔王が最期に思い出した光景なのだろうか。女性と男性の姿がぼくの意識の中に流れ込んできた。どちらも深緑色の目で、女性はどことなくリティーナに似ていた。こちらに背中を向けて去っていく二人を、寂しそうに見つめる後ろ姿があった。

 

 ――姉さん、父さん、どうしてぼくを置いていくの。

 

 そうか。この光景は、魔王の――。

『あなたは、どうして魔王になったの』

 ぼくの呼びかけに、光景の中で立ち尽くしていた魔王は振り向いた。深緑色の目をした壮年の男性だった。

『お前は……ああ、私を斬った剣か。――私は好き好んで魔王になったわけではない。カリュプスやリティーナが勇者に選ばれたように、私も魔王に選ばれたのだよ。私には魔物と心を通わせる力と魔法の才があって、それを活かす魔導具も用意されていた。他に道はなかったのさ』

『違う。神様は可能性を提示するだけだ。どんな生き方をするか決めるのは、最後は自分自身でしょう。カリュプスさんやリティーナだって、勇者として生きることを自分で決めたんだ』

『剣風情が、わかったようなことを言う』

『だって、ぼくも決めたから。こっちの世界で勇者の剣になることを』

 女神様に半分脅されていたようなものだけど、最後に決めたのはあくまでぼく自身だ。拒否することだってできたけど、しなかった。剣の生き方をしてみようって思ったんだ。

 最初は勇者の戦いを特等席で見物できるとか気楽なことを考えていたけど、いつの間にかぼくはリティーナと一緒に戦っていた。

『なに?』

『ぼくは元人間なんだ。最初は剣なんてって思ったけど、今は剣でよかったと思ってる。リティーナの力になれるから』

『……そうか。だが、私は後悔などしていない。もう一度生き方を選べと言われても、魔王を選ぶだろう』

『嘘だね』

『なんだと』

『あなたはさっき、魔王に選ばれたって言ったよ。それってつまり、自分には他の選択があったと思っていたってことでしょう』

 でなければ、『選ばれた』なんて受け身の言葉を使うはずがない。

『私は……。私は、そうだな、認めてほしかったのかもしれない。世界に私を認めさせるために、魔王という一番わかりやすい生き様に飛びついたのだろう』

 男性は寂しそうに笑った。

『一時でも私の存在を世界に知らしめたのだ。私にとっては、正しい選択だったと思うよ』

『それがあなたの正義だった?』

 この人が起こした戦争のせいで、多くの人と魔物が死んだ。それは決して肯定できないし、許されざる行為だ。でも、ぼくは、彼の気持ちがわからなくもない。彼と同じ立場に立たされたとして、同じ行動を取らない保証なんてどこにもない。彼はきっとぼくたちにとっての可能性なのだ。誰しもが、魔王になり得るという。

『そういうことだ』

『でも、あなたはこれから先、別な道を選ぶことができるかもしれない』

『さて、先があればの話だな』

『きっとあるよ。女神様によろしく』

 魔王の意識が薄れていくのを感じる。壮年の男性の姿だったのが若返っていき、やがてぼくと同い年くらいの少年になった。

『クソ生意気な剣よ。最後に聞こう。お前は、自分の名を知っているか?』

『知らない。決まってないんだ』

『いいや、最初から決まっていたよ。鋼を断つ剣。それがお前に与えられた名だ』

 天啓のような閃きがあった、この時、ぼくはようやく自分の名を知った。

 鋼を断つ剣、すなわち――。


「――エクスカリバー」

 

 リティーナが、初めてぼくの名を呼んだ。ぼくの意識が現実に立ち戻る。

 エクスカリバー、あまりにも有名な伝説の剣。ぼくが? 本当に?

 さっきは気づかなかったけど、リティーナの背中にある鞘が黄金色に輝いていた。リティーナの傷が癒えた理由がわかった。エクスカリバーの鞘は持ち主を癒す。伝説の通りだ。そこでようやく実感が追いついてきた。

「アグネーシャが使っていたという伝説の剣。姫様、やはり、あなたは」

「本当の勇者だね。あたしは知ってたよ」

「姫さんも、あの剣も、本物だったんだな」

 ぼくを鞘に収めたリティーナはかがみこむと魔王の顔に腕を伸ばし、手を頬に添える。憎しみに歪んでいた魔王の顔は、笑みの形に緩んでいた。

「――ありがとうリティーナ。人として死なせてくれて」

 魔王の魂は、ぼくに斬られたことによって消滅した。今度こそ正真正銘、カリュプスさんに間違いなかった。

「兄上はうそつきです。帰ってくるって言ったのに」

 泣きそうな顔でリティーナは言った。

「……そうだな。すまない。だが、剣の稽古の……約束だけは……果たせたんじゃないか。ほら……惑いの森でさ」

「あれで稽古のつもりだったのですか」

「こっちは、思うように……動かない身体で、必死だった……んだぞ」

 カリュプスさんの声は、段々と弱々しくなっていく。リティーナはすがるようにケントニスさんに視線を送った。カリュプスさんの傍らにかがみこんだケントニスさんは、傷を見てきつく目を閉じる。

「……申し訳ありません」

 立ち上がったケントニスさんの肩を、アシオーさんがゆすった。

「どうにかならないのか?」

「……いいんだ、アシオー」かすれた声でカリュプスさんが言う。

「よくないだろう! 一人で納得してるんじゃねえよ! お前は、これからのウェリスに必要な人間なんだよ!」

「いいや……もう……俺の、役目は……終わったよ」

「兄上……」

「……リティーナ、俺がいなくても……お前は……大丈夫だ。仲間が……いるん、だからな。それに……」

 カリュプスさんは、リティーナの背にあるぼくに目を向けた。

「何よりも頼もしい、相棒がいる」

 はっきりとそう言って、カリュプスさんは目を閉じた。

「兄上……? 兄上!」

 カリュプスさんは、もう二度と目を開けなかった。

「いやです、置いていかないで……」

 カリュプスさんの手に縋り付き、幼子のようにリティーナは首を横に振る。

「リティーナ……」

 ルルディさんがそっと手をリティーナの肩に置く。

「ルルディ、わたしは、兄上を……」

「悲しいのはわかるよ。でも、あんたは正しいことをした。お兄さんを解放してあげたの。カリュプスさんだってそれを望んでいた。だから、自分を責めないで」

「……そうだね」

 カリュプスさんの手を離すと、リティーナはルルディさんの手に自分の手を重ねた。

 その時だった。城が大きく揺れ始めた。

「なんだ、地震か?」

「いえ、この魔素の乱れは違います。魔王を失ったことにより、再び城が沈もうとしているのでしょう」

「解説どうも。もたもたしてたら生き埋めだな」

「ええ、早く脱出しましょう」

「――いえ、まだ」

 立ち上がり、魔王の威光に向き直ったリティーナは、ぼくを抜き放った。瞳には再び力強い輝きが戻っている。

「エクスカリバー、もう一度力を貸して」

 そうだね。これは、壊さなきゃいけないものだ。こんなものがあったから、たくさんの人と魔物が不幸になった。

 リティーナと、ぼくの意志に反応するように刀身が黄金色に輝きだす。

 リティーナはぼくを上段に構えた。

『ぼくたちなら、壊せるよ』

「うん、行くよ!」

 リティーナは、渾身の力を込めてぼくを魔王の威光に振り下ろした。黄金色の刃は、緑色の球体をいともたやすく切断する。

 縦に両断された球体は、床に落ちてバラバラに砕け散った。これでいい。多くの命を奪ってきた忌まわしい魔導具は、もう誰かに使われることはないだろう。

 リティーナはぼくの刀身を見つめ、それから静かに鞘に戻した。

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