第21話 いいパーティ

「では、レグアズデに行くということで、反対はありませんね?」

 黙って成り行きを見守っていたケントニスさんが口を開いた。まるでこうなるのを見越していたみたいだ。わかっていたのかもしれない。

「異議なし」

「しゃあねえだろう」

 二人は揃ってうなずく。


「どうやら、話はまとまったみてえだな」

 ケントニスさん同様、黙ってやり取りを見ていたオリクトさんが言う。

「すみませんねオリクト、騒がしくして」

「構わねえさ、昔のお前たちを見ているみたいだ。それより、今晩はどうするんだ。宿が決まってないなら、ウチに泊まっていけよ。メリサの作る飯はうまいぞ」

「ありがたい申し出ですが、ご迷惑ではありませんか」

 飯という言葉に反応したわけではないんだろうけど、ケントニスさんより先にリティーナが口を開く。

「迷惑なもんか。勇者一行に、それくらいは協力させてくれよ。好きなだけ食っていってくれ」

「では、お言葉に甘えて」

 すごく素敵なリティーナの笑顔だった。ルルディさんも顔を輝かせている。メリサさん、夕飯の材料いっぱい買ってきてくれるといいけど。


「ちょっと待って、オリクトさん。あたしの鬼熊殺しも見てくれる? 何か特別な力とか封じられてないかな」

 言うなり、ルルディさんは鬼熊殺しを引っつかんでオリクトさんの眼前に突き出した。

「お、おう。重そうな斧なのに、よく持てるな。どれどれ」

 オリクトさんは手をかざし、呪文を唱える。

「んー。悪くはないが、いたって普通の戦斧だな」

 あれ、オニクマさんの気配、感じられなかったのか。夜じゃないせいかな。

「そ、そんな」

 ルルディさんは、見ているこっちが気の毒になるくらい肩を落として消沈した。

「いやルルディ、その斧、古道具屋の片隅で埃をかぶってたものでしょ。特別な力があったら驚きよ」とリティーナが言う。

 え、鬼熊殺しっていう大層な名前がついているくらいだから、何か由緒があるものだと思ってた。

「そうだけどさ。そういうのって、掘り出し物だったりすること、ワンチャンあるじゃない」

 気持ちはわかるけど、幻想世界のエルフがワンチャンとか言わないでほしい。いや、これも翻訳か。

「お前、それで鬼熊殺しとか自分で名前付けたのか」

 アシオーさんが呆れたように言った。

「悪い?」

「悪くはない。だが、十年後の自分が果たして許してくれるかな?」

 ノートにびっしり自分が考えたキャラクターのパラメーターとかスキルとか書き込んだりするのと似ているかもしれない。

「十年かそこらで価値観なんてそうそう変わらないわよ」

「……そういやお前さん、エルフだったな」

 わざとらしく耳を見つめてアシオーさんが笑う。

「あ、今バカにしたでしょ?」

「してねえって。ちょっと気の毒に思っただけだ」

 そんなやり取りを見ていたオリクトさんが笑って言う。

「ケントニス、昔のお前たちみたいだと言ったのは訂正するぜ。ティエラたちより賑やかで、楽しそうだ。いいパーティだな」

「そうですね。同意します」

 答えるケントニスさんもまた、笑顔だった。

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