第19話 強化の条件
「それで、詳細はわからなかったのですか?」
今度はケントニスさんが尋ねた。
「どうにか、大雑把な所だけはつかめたよ。どうやらこの剣の特質は、持ち主の精神と深く関わっているみたいだ」
リティーナの精神と? どういうことだろう。
「よくわからんが、魔法鍛冶で鍛えなおして今よりよく斬れるようにするっていうのは、できないのか?」
そう言ったアシオーさんを、オリクトさんはぎろりとにらんだ。
「とんでもねえ。迂闊に叩いたら何が起こるかわからねえぜ。下手に式をいじったらこめられた魔力が暴走して辺り一帯がぶっ飛ぶなんてこともありうる。それだけ強力な魔法がかかってるんだ」
おいおい、物騒すぎるだろぼく。まるで爆弾じゃないか。
「わたしは、この剣で聖剣グラムと魔王に勝たなくてはいけないのですが……」
「どっちも大物だな。だが、その剣ならなんとかなるかもしれんぞ」
「ですが、強化は不可能なのでしょう?」
「俺にはな。言ったろ。精神と関わってるって。その剣を強くしたきゃ話は簡単だ。持ち主である嬢ちゃんの精神を鍛えりゃいい。そうすりゃ剣も変質するはずだ。嬢ちゃんにふさわしい剣にな」
リティーナにふさわしい剣か。一体どんな剣だろう。
「滝に打たれたり、瞑想したりすればいいの?」
ルルディさんが無邪気に尋ねる。滝行とか、こっちにもあるんだ。
「そういうのも手だがな、あるだろ王族には。もっと手っ取り早いのが」
「手っ取り早い……? まさか!」
ケントニスさんが驚いたように目を見開く。オリクトさんがうなずく。
「そう、霊峰レグアズデだ」
「レグアズデに何かあるの?」
ルルディさんが訊く。ぼくも知りたいのでちょうどよかった。霊峰っていうくらいだから、普通の山じゃないんだろう。
「あの山にグリフォンがいるというのは知っていますか?」
ケントニスさんが先生みたいな口調で言う。この人、なんだかんだ説明好きなんだよね。
「うん、ウェリスの守護聖獣だよね」
鷲獅子――上半身と翼は鷲、下半身はライオンという伝説の幻獣だ。ウェリスにとっての守り神みたいなものなのかな。女神様とはまた別に。
「昔、王位継承権を持つ者は、レグアズデに登ってグリフォンに対面するという儀式を行っていたのです。グリフォンが認めた者のみが真の王になれると言われていました」
「もし、グリフォンが認めてくれなかったら?」
「引き裂かれて食われたと伝わっていますね。国史にも残っていますよ。もっとも、どこまでがグリフォンの仕業かはわかりませんが。暗君になりそうな者を事前に排除するという仕組みもあったのだと思います」
「つまり、暗殺?」
「はっきり言えば、そうですね。レグアズデは魔物も巣食う危険な山です。登山中、何があってもおかしくはありません。表向き、グリフォンや魔物のせいにしておけば角も立たない。無能な王族を取り除くという意味では、悪くない儀式だったと思いますよ」
王女の前だというのに、ケントニスさんの物言いには遠慮がない。権力におもねらない学者ってこんな感じなのかも。
「過去形っていうことは、その儀式、今はやってないの?」
「貴重な王族の血をむやみに危険にさらすべきではないと、だいぶ前に廃止されました。今では、戴冠の儀の時にグリフォンの羽を使うところに名残が残っているだけですね」
「それでも、父上は登った」
リティーナが口を開いた。
「――そうですね。そして、新たなグリフォンの羽を持ち帰った。イエティス王の偉業の一つです。ウェリスが一致団結してベレーギアに立ち向かうきっかけにもなった。イエティス王は、まさしく王の器だったわけです。彼の戴冠に反対する者など、誰もいませんでした」
リティーナのお父さんって、傑物なんだ。さすがは二人の勇者の父だ。
「でも、リティーナは王様になりたいわけじゃないんでしょ。だったらどうしてレグアズデに登る必要があるの?」
「グリフォンは、会いに来た人間に試練を出すと言われているの。そして、その試練を乗り越えた人間は大きく成長する、らしいよ」とリティーナが答える。
「そういうこった。どういう試練かは知らんが、あの頼りなさそうなイエティス『殿下』が、別人みたいな顔つきになってたからな。こいつになら、剣を打ってもいいと思えるような顔だった。その後のあいつの活躍は、まあ有名だわな」
オリクトさんがそう言って笑う。
「深緑の民の協力を得て、ベレーギアの侵略を退けた。まさしく英雄ですよ。陛下の元々の資質はもちろんですが、グリフォンの試練を突破したという後ろ盾も大きかったと思いますね」
「なるほど。だったら、リティーナがグリフォンの試練を突破すれば、剣も強くなるって算段ね」
「うまくいけば、そうなるね。ただ――」
そこでリティーナは顔を曇らせた。
「姫さんがレグアズデに登って、しかもグリフォンの試練を突破したとなったら、新たな火種になること間違いなしだな」
「順当に行けば、次の王は第二王子のアルジェン様ですからね」
リティーナに王の資質ありとなったら、揉めるのは目に見えている。場合によっては血みどろの政争が繰り広げられるかもしれないというのは、これまでの断片的な情報からでも容易に想像できた。
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