第6話:唯一の味方だった
「あれー? 雨音ちゃんじゃん。女子に紛れてたから気付かんかったわー」
駅を降りて学校に向かっていると、すれ違い様に他クラスの男子生徒が揶揄うように声をかけて来た。クラスメイトの男子だ。彼はやたらと俺に突っかかってくるが、菊ちゃん達に紛れていても見つけて来るなんて。
「紛れてる中で俺を見つけてくれるって、よっぽど俺のこと好きなんだなお前」
呆れるを通り越して笑ってしまうと、彼は顔を真っ赤にして「はぁ!? 俺はお前と違ってホモじゃねぇし!」と叫ぶ。俺も違うって何度言えば分かるのだろう。
「ははは。好きじゃなかったらこんな頻繁に絡んでこんだろ」
「勝手に決めつけんじゃねぇ!」
「その言葉、そっくりそのまま返すよ。俺も男が恋愛対象とは一言も言ってない。勝手に決めつけんじゃねぇよ。というわけですまんが、俺のことは諦めてくれ。男は恋愛対象外なんだ」
しっしと追い払うと、彼はは舌打ちをし、悔しそうな顔をして走り去っていった。全く。好きならもうちょっとまともなアプローチしてくれれば良いのに。まぁ、素直に好きと言われても応えられないし、例え彼が見た目がタイプの女の子だったとしても願い下げだが。
「森くんはさ、スカートが好きで穿いてるんだよね」
「うん」
「好きになったきっかけとかあんの?」
「些細なことだよ。小さい頃から姉のお下がりの服着せられて遊ばれてたんだ。その流れでスカートを好んで穿くようになった。けど小学校に上がる頃にはいじめられるといけないからってスカートを穿くことを許してもらえなくなって、ずっとスカートとは疎遠になってたんだけど、姉が青山商業を紹介してくれたんだ。『ここなら堂々とスカート穿いて学校行けるよ』って」
「良いお姉さんじゃん」
「ブラコンだけどな。『うちの弟、世界一可愛い!』って感じ。まぁ…おかげで俺は周りの目とか気にしないで自分は自分だって堂々と出来るんだけど。姉ちゃんは俺の唯一の理解者だったんだ」
「だった?」
今は違うの?と日向さんが不安そうに尋ねる。違う。別に姉が理解者でなくなったわけでは無い。
「そうじゃなくて、あんたらに出逢えたから唯一じゃなくなっただけ」
「うわっ、何そのドラマみたいな台詞」
いいこと言ったのに。月島さんにドン引きされてしまった。
「引いてんじゃねぇよ。感動しろよ」
平和な空気が流れる。彼のように馬鹿にしてくる人は少なくないけれど、彼女達のように普通に接してくれる人の方が増えてきた。まだ入学して数週間だけれど、この学校に来てよかったと心から思った。
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