第3話:青山商業

 学年が上がり、三年生になると幼馴染の女の子と付き合うことになった。


「雨音、進路決まった?」


「ううんまだ。清花さやかは?」


「……んー。悩み中。雨音と同じとこ行こっかな」


「えー。やだ」


「彼女と同じ学校行けるんだから喜べよ」


 そう言って彼女は俺の肩に頭を預ける。恋人といっても、彼女とは周りに流されて付き合っただけで、あまり実感はなかった。


 付き合って一ヶ月たったある日。


「……雨音さぁ、うちのこと好き?」


「好きだよ」


「……それは、恋愛対象として?」


「……んー。分からん」


「だよねー」


「清花は?」


 彼女の頭に肩を預けて尋ねる。すると彼女は笑いながら「うちも分からん」と返してきた。


「雨音のことは好き。一緒に居て落ち着く。けど……」


「けど?」


「……友達の頃の方が楽だったなって」


「あー……分かる気がする」


「……雨音さ、なんでも出来ちゃうじゃん。料理も出来るし、可愛いし」


「おう」


「否定しろし」


「はははっ」


「……うちらさ」


「うん」


「友達に戻ろうか。また周りが色々うるさいと思うけど」


「そうだな」


「……ありがとね。楽しかった。これからもよろしくね」


「おう」


 こうして、俺と彼女の恋愛関係は何もなく一ヶ月で終わった。「周りから色々言われるの面倒だから卒業までは付き合ってることにしよう」という彼女の提案で、別れたことは二人だけの秘密だった。


 高校は夏休みに入っても決まらなかった。姉は女子校だったため、同じ学校は選べない。悩んでいると、夏休みの終わりに姉が「こことかどう?」とスマホを見せてきた。

 姉が見せてくれたのは青山商業高校のホームページ。そこに写っていたのは、ズボンを穿いた女子生徒。


「この間ニュースでもやってたんだけどさ、青商は来年から、制服の男女差を取っ払うんだって。ここなら雨音も堂々とスカート穿いて登校できるよ。商業科だけど、進学コースもあるし。普通科では学べないこと学びながら進学目指せるってよくない? 私立だけど」


「……けど……それはLGBTの人のための処置でしょう?」


「LGBTだと思われたらどうするんだ」


「まぁ、そういう勘違いする奴はいるだろうね。けどさ、最初は揶揄われるかもしれんけど、慣れれば大丈夫だよ。てか、 LGBTじゃない男子はスカート穿くななんてどこにも書いてねぇし、その言い方当事者にも失礼じゃね?」


 姉の言葉に両親はハッとし、何も言えなくなる。俺の夢を否定されたことを叱られて以来、両親の硬かった頭も少しずつ柔らかくなり始めているようで、以前より姉の話を素直に聞くようになった。


「雨音はどうしたい? 他に行きたい高校があるならそこ行けば良いし、最終的にはあんたが自分で決めな」


「……うん。ありがとう。姉ちゃん。もうちょっと調べてみるよ」


「おう」


 姉のアドバイスを参考にしながら調べた結果、俺は姉が勧めてくれた青山商業高校に進学することに決めた。

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