7月9日 午前 善は急げ後悔する前に

 午前中はレイは家族と過ごすらしいから午前中は暇になる…というわけではなく絵を描く。

 あいつが消えるまでに完成に近づけないといけない。


「と言ってもこれじゃあ…」


 下書きすら終わっていない鉛筆で途中まで描かれた絵を見ながら俺は頭を抱えた。


 俺ってこんなに描けなかったっけ?と自問している。


 そんな時に俺のスマホがピコンとメッセージを受信した。

 誰だと思って見るとレイからだった。


『午後に海前行ったところ』


 簡潔な文章が送られてくる。

 俺はそれに了承のスタンプを送った。


『お前今何してるの?』


 俺はそう送った。

 すると数分後にメッセージが返ってきた。


『親とリビングにいる。話すこともないのに一緒にいるってつらいかも』


 レイはどんな顔をして家族といるのだろうか?

 笑っているとは思えない。


「どうしたら良いんだろうな…」


 絵を描くことが俺のやることのはずなのに、そのことよりもレイに少しでも家族に対してマイナスな感情を持たずに笑って欲しいと考えてしまう。


 これは俺のエゴなのかもしれない押しつけなのかもしれないと思うが考える。


「言葉で直接じゃなくても…手紙…そうだ!手紙!」


 俺はクローゼットから引っ張り出しカバンに絵を描くのに必要な道具と財布を持って家を飛び出した。

 親には何事かと驚かれたが、今の俺にはそんなことを気にする余裕はない。


「ありがとうございましたー」


 俺はレターセットをくしゃくしゃにしないようにカバンに丁寧に入れた。

 そしてレイ筆記用具を持ってきて欲しいとにメッセージを送った。


 スマホをいじっていたのか既読はすぐ付いた。

『なんで?』というメッセージが来た。

 俺はそれになんでもいいからと返す。


 きっとこれを見ている彼女は今送られてきた分かったを不思議そうな顔をして送っていると思う。


 彼女が来るまで後結構時間があるが家に戻って頭を抱えるだけだ。

 俺は駅の方向に足を向けた。


「暑い…」


 夏は嫌いだ。

 暑くて汗かくしと俺にとっては地獄でしかない。


 でも…レイはもうこの道を来年歩くことは二度とないんだろうな。

 今の俺みたいにこの季節を嫌う事も無いんだな。


 俺は電車の時間を確認して走り出した。
















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