7月8日 午後
レイがどんどん集合場所に近づいて行くたびに口数が減っているのが分かり俺は口では余裕そうだったけど怖いんだなと思った。
「大丈夫か?」
「だ、だいじょばないです…」
「やっぱり行くのやめるか?」
「やめない!」
意思は強い様子で安心したよ。
「イチくんが背中押してくれたのに今更やめたらかっこ悪いじゃん!」
「そうだな」
「でもちょっと待ってぇ…」
「……」
これ今日話できるのか?
「着いたぞ」
俺たちは指定されたファミレスに着いた。
レイの顔は青白く若干呼吸も浅い。
「ほ、本当に大丈夫か?」
「大丈夫緊張してるだけだから」
「俺近くにいるから見てるから大丈夫だからな」
俺がそういうとレイは力なく笑って「ありがとう」と返した。
俺はレイたちが見える席に座ってスマホをいじるフリをして様子を見る。
「レイすまないな」
「あ、うん大丈夫…」
レイの父親らしき男が言う。
レイは顔色を伺うようにして話している。
どうしたらそんなにぎこちない会話が家族でできるんだと思ってしまうほどに。
「レイ私たちね貴方と最後の時間を一緒に過ごしたいの…だからもしお友達と過ごすつもりなら断ってくれない?」
「…!」
レイは目を見開いて顔を上げる。
断ってくれない?レイの気持ちを尊重しない言葉。
表面上は暖かいかもしれないけど、奥底が冷たいような言葉。
「どうして…」
「言ったじゃない最後の時間を一緒に過ごしたいって」
親としては娘との最後の時間一緒に過ごすのは当たり前のことなのだろう。
でもレイにとってこの人たちは…。
「家族として当たり前の事だろう娘と一緒に最後を過ごすのは」
俺のスマホを持つ手に力が入る。
…ダメだここでキレたら俺から言った約束の意味が無くなる。
「…何が当たり前なの」
レイは目を伏せて何かを抑えつけるようにして呟く。
彼女の両親は怪訝な顔をした。
「レイ今なんて言ったの」
母親が咎めるようにして言う。
「私は…それを当たり前だなんて思えない」
「なんてことを言うんだ!」
怒鳴る父親にレイはビクリと体を強ばらせる。
ああ…そういう事か。
こいつがどうしてこんなにも家族に対してマイナスな感情を持っているのか少し引っかかっていたんだ。
無関心と本人は言っていたが、怖かったんだ。
「そんな聞き分けのない娘に育てた覚えはないぞ!」
父親が手を上げる。
俺は咄嗟に立ち上がって止めようとしたが、レイは自分で父親の手を掴んで自分に来る前に止めた。
「だから話したくなかった会いたくも無かった。貴方たちに都合の良いことばかり押し付けて私の意思は全部無視。何が家族だそんなの奴隷と変わらないじゃないか」
レイは怒りを込めた瞳で両親を見る。
その姿に俺も彼女の親も動揺した。
「もっと何か違うアプローチの仕方をしたら変わってたかもね。それに気づくのがもう少しで死ぬ時なんて…皮肉な話だよ全く」
レイは自分自身を嘲笑うかのようにそう呟いた。
これが彼女の後悔なのだろう。
その顔は悲しそうで泣きそうになっている。
その時にやはり親を嫌いになる無関心になる子供はいないのだろうと思う。
結構奥底には親に対する無条件の愛があるのだ。
「1人でいた時に私が寂しいって言ってたら我慢しなかったら、今みたいに貴方たちへの感情が無関心にならずに済んだのかもね」
レイは泣くのを我慢しているのか時折深呼吸をしている。
そしてしばらくしてから何かを思いついたのか1度俺にいたずらっ子のような目線を送ってから彼女は自身の家族へ視線を戻す。
「あ、良いよ私は気分屋だから最後にあんたらの願いを聞いてあげる…ただし午前中だけ午後は」
そう言って俺の席まで歩いてきてにっこりと笑って言う。
嫌な予感がして俺は顔を引きつらせた。
「私、イチくんと最後一緒にいたいから」
「おいおい言い方がさぁ…」
言い方が悪いからこれだと彼氏だと勘違いされても文句が言えない。
「だ、誰だ!君は酷なことをしていると思わないのか?!家族の最後の団らんを邪魔して」
顔を真っ赤にして俺への怒りの感情をぶつける。
この人も大変だな顔を真っ赤にしたり目を丸くしたりと感情が大忙しだ。
「レイが良いなら良いんじゃないんですか」
結局最後に何がしたいか決めるのはレイ自身だ。
俺や彼女の両親が決めていいものでは無い。
最後にレイが笑って死ねる選択肢がいいのだから。
「私たちと過ごした方がレイだって幸せなのよ!」
「レイの顔見てくださいよ。貴方たちと話してる時の顔どうですか?笑ってますか?」
「……」
ヒステリックに声を出していた母親の声がそこでピタリと止まった。
どうやらレイが笑っているところを見た記憶がないらしい。
「俺はこいつが怯えたように見えました。家族なのに先生に怒られ前の子供のように思えました」
俺の言葉にレイの父親と母親は何も言わない。
反論をすることは無い。
「イチくん良いよありがとう助かったよ」
レイは弱々しく笑って俺を止めた。
「この人たちはそういう人たちだから良いの」
「…それで良いのかよ」
「うん」
「分かった」
こうして2日目が終わってしまった。
最後に見た彼女の横顔はため息がでそうなくらい綺麗で悲しかった。
レイは笑顔で俺に手を振って家族と一緒に帰って行った。
彼女の両親と少しだけ離れて歩いている彼女の背中を見ると、もう本当に戻れないのだろうと思った。
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