7月8日 午前

「ねぇイチくん!ひまわり沢山咲いてるね!」


 どこを見てもひまわりが咲いていて雲ひとつ無い空と黄色のひまわり。

 絵の世界に入ったかのような景色に息を吞む。


「すっげぇ…」

「本当にキレイだね」


 俺はスケッチブックを勢いよく開いてひまわりを描く。

 珍しく俺の手がスラスラと動いて1輪のひまわりができた。


「おお!描けてる描けてる」

「ひまわりって良いよな夏って感じがして」

「わかる。見てると気持ちが明るくなってさ、頑張って生きようって思えるんだよ」

「へぇー、そんな風に思うんだ」


 イチくんはどうなのさと興味津々な表情をしてレイは俺の顔を見る。


「特にただの夏の花だって思ってる」

「つまんないの」

「人の考え方はそれぞれ違うんだから文句言うなよ」

「はーい…あ、ちょっと待って」


 レイはスマホを取り出して無表情で画面をタップしてからポケットにしまった。


「どうした?」

「親から連絡来てただけだから気にしないで」

「親から来てたってすっごい嫌そうな顔してたけど」

「あの人たち私の事知らん顔して見てなかったくせに今更家族で過ごしたいとかって言ってきたんだよね」


 レイは苦笑いをして言った。

 そこには怒りも悲しみもない。


「それでお前は後悔しない?」

「しないと言えば嘘になるけど…良いかなって」

「どうして?」

「私家族に対して特に感情が無いんだよね。嫌いよりもその…どうでもいいって言うか」

「無関心ってやつ?」


 誰かが言ってたんだよな。

 好き嫌いより無関心が1番辛いって。


 俺になにかできることはあるのだろうか?

 他人が関わることでないのはわかっている。


「うん…もう家族に対して興味無いんだと思う」

「そっか」


 彼女の後悔を少しでも消してあげたい。

 だから俺がやることはお節介かもしれないけど。


「なぁ今から親御さんと話さないか?」

「は?何言ってるのイチくん?」

「最後なんだから話してやれよ。今まで言えなかったこと感謝も不満も何もかもぶちまけてさ」

「無理だよ…あの人たちは話しまともに聞いてくれる人たちじゃ無いんだよ?どうせ自分が思ったこと話して終わらせるに決まってる」

「やってみないとわかんないだろ。それにお前ひとりで行けなんて言ってない」


 俺は次の言葉を言うのに少しだけ戸惑いを覚えた。

 俺がこんなこと思うやつだったかと困惑したからだ。

 でも言わないと俺きっと一生後悔する。


「俺がお前と一緒に行く話を親御さんが終わらせようとするなら体を張ってでも止めてやる」

「他人の私に普通そこまでする…?」

「しないな」

「じゃあなんで」

「他人じゃないって思ってるから」


 レイは目を見開いて驚く。

 まぁ驚くのも無理はないと思ってはいるがそんなに驚くことか?


「イチくん…なにか拾い食いした?」

「そんな訳あるか」

「いてっ」


 俺はレイにコツンとゲンコツをした。

 少しだけ痛そうに頭を彼女は押さえた。


「暴力反対イチくん変態!」

「誰が変態だ!ちょっとリズム良く言うなよ!」

「えへへー褒められちゃった」

「褒めてない!」


 レイは少し照れた様子で笑った。

 褒めてないのだが、褒められたに変換できる彼女のポジティブ思考には感服する。


「イチくん」

「ん?なんだよ?行きたくないってのは受け付けないからな」

「ちぇ、まぁ良いさ…イチくん私に大丈夫って言ってよ」


 レイは怯えを帯びたいつもよりも硬い笑顔で俺を見る。

 こんなにも彼女が弱かったことを俺は理解する。


 ほんの数日だけしか話してないからレイのことは全く知らない。

 ただ印象として強くて底なしの明るさをもつ女だと思っていた。


 俺はレイの背中をバンッと叩く。

 彼女は「痛い!」と声を上げる。


「お前なら大丈夫だよ…お前は弱くねぇからさ!」


 お前はさ言葉じゃ足りないだろ?

 だから物理的にも背中押してやるよ。


「気合い出たか?」

「…もちろん!」


 レイの目には不安もあるが、それと同じくらい勇気があった。






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