7月7日

「ねむいんだけど」

「イチくん夜更かししたの?良くないよー?」

「今何時だと思ってんだ」

「5時だよ?時計読めなくなったの?」

「知ってるよバカ!」


 朝早くに電話で起こされて駅に昨日のカフェの前に来いと言われて来た。


「で、今からどこ行くんだよ」

「秘密!」

「はいはい分かったから着いてくから行くぞ」

「冷たいねぇ・・・」


 相変わらずレイは俺がどれだけ冷たくしても笑っている。


「イチくん今日来ないと思ってたんだよね」

「は?」

「急に朝早くに呼んで来る人なんていないでしょ」


 分かってて呼び出してるのか。

 でもこいつの寿命が今日を含めて3日しかないのだから1秒でも大事にしたいはず。


「お前がそれだけ時間大事にしたいんだろ」

「う、うん。そうなんだけど・・・」


 俺の言葉に驚いているのか目を見開いてレイは戸惑った様子を見せる。


「ならとっとと行くぞ。時間は有限なんだから・・・後から後悔したって取り戻せないんだからさ」

「・・・うん!そうだよね!善は急げ進路は真っ直ぐ!」


 いつもの調子に戻って安心した。

 まだ会って1日目だけでレイのことはさっぱり分からないが何となくこいつは笑ってないと違和感があると思った。


 俺たちは歩いてバス停まで向かった。

 カフェから30分は俺にとっては遠く感じた。


「・・・もう二度と歩きたくない」

「この距離で疲れてたら明日大変なんじゃない?」

「明日も歩くのか・・・?」

「もちろん。嫌なら変えようか?」

「気にしなくていい」


 もう時間の無いやつに気を遣わせて恥ずかしくないのかと自分を鼓舞してスケッチブックの入った鞄を担ぎ直す。


「や、やっと着いた・・・」


 30分歩いて駅に着いて電車に乗ってようやく目的の場所に着いた。


「海最高ー!」


 両手を大きく広げてレイは叫ぶ。

 俺はそれをコンクリートの階段に座って見ている。


「イチくん座ってないで遊ぶよ!」

「お、おい!俺疲れて・・・分かったよ!遊べばいいんだろ遊べば!」


 俺は鞄を投げるかのように置いてレイの手を取る。


 綺麗なガラス石や貝殻を集めたり水遊びをしたり(レイの攻撃に負けて俺だけびしょ濡れ)と遊んでいた。


「絵が描けてねぇ!」


 お昼を回った頃に俺は叫ぶ。


「描きたい時に描くのが1番良いでしょ?ほらかき氷美味しいから食べてみなって」


 レイは赤いシロップのついた食いかけのかき氷を渡す。


「お前が食えよ」

「何ー?もしかして関節キスとか思ったの?」


 ニヤニヤと俺に向かってからかうようにして言うせいで意識せざるを得ない。


「ち、違ぇよ馬鹿!」

「本当に?」

「ホントだって!」

「まぁいいや。はい!あーん」


 レイは俺の目の前にかき氷を乗せたスプーンを差し出す。

 食べろってことか?

 恥ずかしいからスプーンごと渡してくれないだろうか?


「スプーンごとくれよ」

「やだ」

「何でだよ?!」

「イチくんのそういう反応が見たくて」

「お前さぁ・・・・」


 怒る気力すらない。

 俺は諦めてかき氷を食べる。


「え!」


 俺が食べると驚いてるようなどこか恥ずかしそうな顔をする彼女。


「・・・なんだよ俺が食べるのダメだったか?見せてただけか?」

「ち、違うけどさまさか食べるなんて思わなくって」

「へぇーお前もそういう反応するんだ」


 またこいつの新しい一面を知った。


 少しして俺は真っ白なスケッチブックに鉛筆を持ってにらめっこしている。

 トントンとスケッチブックに黒い小さな点ができるだけで何も描けない。


「真っ白だねぇ」

「そうだな。全く何も浮かばないわ」

「えいっ!」

「むぎゅ?!」


 レイは突然俺の頬を両手で挟んだ。

 俺の視界には笑っているような怒っているよなそんな顔をしている彼女がいる。


「そうネガティブにならないの!いつか描けるから。だってイチくんの絵は最高なんだから」


 彼女はいつも真っ直ぐ俺を見て言葉をくれる。

 好きも嫌いも全部隠さないでくれる。


「・・・帰るか」

「そっかまた明日だね」

「絶対描くから待っててくれ」

「うん待ってる別に私がいなくなってからでもいいのに」

「お前が生きてるうちに完成させないとダメだろ」

「墓前で見せてくれてもいいんだよ?」

「冗談でもやめてくれよ、俺はお前が生きてるうちに絶対に完成させるんだからさ」


 そっかと言って優しくレイは微笑む。


 彼女がいなくなるまであと2日俺はそれまでに描かないといけない。

 ・・・絶対に。

 自然とスケッチブックを持っている方の手に力がこもった。

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