ユエ&ジョット
※港町に行く前の二人だと思ってください
走らせていたペンを置いて、ジョットが伸びをする。
「ちょっと休憩!何か飲みたいな」
「あ、私行きますよ」
肩をぐるんぐるん回しながら立ち上がったジョットは「いいからいいから。僕のおごり」とドアに手をかけて、微動だにしないそれに首を傾げた。
「……あれ?」
「どうしました?」
ちょっと体を傾けてドアの方を窺うユエも、張り紙に気付いたようだった。
『キスをしないと出られません』。
「ジョットさん、そういう手は使わない方がいいですよ?」
「え?!僕じゃないよ!?僕の字じゃないでしょ!」
疑わしそうに半眼でやってきたユエはその紙を見て小さく呟いた。
「……ゴシック体?」
「ご……?」
眉をひそめたユエがドアをガチャガチャやっても、もちろん開かない。
「……っもう!」
苛立ちを含んだ声にジョットはびくりとしたけれど、それは彼に向けられたものではなかったようだ。
「えぇっと……そうだ。カエル君にもらった、お守りは?」
「なるほど!ジョットさんするどい!」
ユエは腕輪をドアにぶつけたけれど、白く輝く光は、すっと流れたかと思うと、困惑したように腕輪の周りをぐるぐると回るだけだった。
「あれ……だめ、みたい」
叩いて発動を止めて、二人は顔を見合わせた。
先にジョットが視線を逸らす。
「じゃあ……仕方ない、よね?外に出るためだし?」
ユエの肩に手を置いて、ジョットはコホンと咳払いなどする。
「……ソウデスネ」
お墨付きをもらったと、顔を近づけたジョットだったけれど、ユエの痛いくらいの視線にもう一歩が躊躇われる。
「……あの。ユエちゃん?目を閉じるとか……その」
「ニヤつくのやめてくれませんか」
「え!?」
そうだろうかとジョットは顔に手をやる。はあ、とため息をついたユエがジョットの後ろを指差した。
「なんか、飲み物くれるみたいなんで、いったん落ち着きましょう」
くれる? とジョットが振り返れば、確かに棚の上にカップが二つ湯気を上げていた。不思議に思いつつ、近寄る。少し高そうなお茶の香りがした。
ジョットが両手にカップを持ってユエの前まで戻ると、ユエは「ありがとう」と手を出しかけて、ふと天井を見上げた。今度は何だろうと彼もその視線を追う。
何もないじゃない?
疑問ばかりで視線を戻そうとして、ジョットは唇に何かが触れるのを感じた。思わず一歩足を引く。
辺りに、鍵の開く音が響いた。
「よぉーし。開いた!開いた!迷惑だなぁ。もう」
あまりにも平然としたユエに、ジョットは呆然と固まる。
「こんなことでカエルに自慢しないでくださいね!」
腰に手を当て、人差し指を立てて左右に振るユエに、ジョットは深くため息をついてから、カップをひとつ差し出したのだった。
「出来るわけないじゃない……」
終
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