マリベル&ビヒト

「えー!? ナニコレ!」


 ドアの前でマリベルが叫んでいる。ビヒトが近づいていくと、ドアには『キスするまで出られません』と、張り紙が。

 マリベルが押したり引いたりしてみても、描かれたドアのようにびくともしない。


「変われ」


 軽くマリベルを押しやったビヒトが、あれこれしても変わらない。

 短剣でも傷もつかなければ、魔法陣も効かなかった。お手上げ状態で肩をすくめる。


「駄目そうだな。どうする?」

「どどど……どう?!」


 張り紙を視線で指して「試してみるか?」とビヒトは言う。マリベルはぐっと口を引き結んで赤面した。

 しばしの沈黙。


「そ……そそそそうね!ため……試して」


 必死に平静を取り繕う様子に、思わずビヒトが吹き出す。


「なに?!なによぅ!」

「いや。俺は出たいから協力してほしいが、すぐにとは言わん。覚悟が決まったら、言ってくれ」

「だ、大丈夫ですぅ!こ、こんなの、キスの数に、は、入らないんだからっ」

「わかったから、落ち着け?」


 頭をぽんぽんと撫でられて、ますますマリベルは赤くなった。


「バカにしてる?!」

「してない」

「してる!!」


 ポカポカとビヒトにこぶしをぶつけて、マリベルはすっかり拗ねて机に突っ伏してしまった。

 ビヒトはしばらく放っておいて、ほとぼりが冷めた頃に声をかける。


「マリベル?」


 返事がない。

 そっと覗き込めば、眠ってしまったようだった。子供のようだなと静かに笑って、ビヒトはそっと口づける。

 ドアが開くのを確認してから、マリベルを起こした。


「開いたぞ。起きろ」

「……ほぇ?……え?」


 開いたドアとビヒトを見比べて、マリベルは首を傾げる。


「え?夢?」

「そうかもな」


 ビヒトはにやりと笑った。


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