第27話 魔刀の力

「――〈縛血牢〉」


 アカネの手首からとめどなく溢れだす血液が地面を伝う。

 血液は、アカネの魔力によって自由自在に動き姿形を変化させる。


「縛れ」


 その合図を受け、流れた血液は二体のキメラの足元から檻を形成、四肢を拘束し血格子の檻の中へ閉じ込めた。

 動きを制限されたキメラは、拘束を解こうと血の檻の中で藻掻く。

 しかし、体を動かそうとするたびに血液の拘束はキメラをさらに縛り上げる。


「何をしている!? そんなもの、すぐにっ……」

「無駄よ。〈縛血牢〉は私よりも魔力の低い者には破ることはできない。まあ、〝魔女〟の私より魔力が多い人なんて、そういないわ」

「小娘がっ……!」

「あら。私たちの〝職業〟は分かっても能力までは把握できないのね。警戒するほどじゃないみたい。ご自慢の研究成果さんもあんな姿だし」


 これでもかとアカネが煽る。

 さっきまでやられていた分のお返しでもしているようだ。


「ジンの言葉で冷静になれたわ。おかげでわかったこともある。あんたの言葉には魔力が乗せられていた。大方〝話術士〟といったところかしら? 魔力を乗せた言葉による思考誘導……情けないことに、まんまとあんたの術中に嵌っていたわけね、私は」

「それがわかったから何だと言うのかね? 私のキメラはまだ健在。縛り付けただけで満足していると痛い目を――」

「ええ、そうね。そのキメラの素体にされた人たち……あんたの言葉に惑わされて、利用されて……早く楽にしてあげるわ」


 素体となった顔も知らない人を悼む言葉。

 強烈な殺意を秘めてはいるが、根は他人を想う心を持った優しい女性なのだ。


 コンコン。

 アカネは魔杖で地面を叩いた。


「――〈血槍〉」


 禍々しく赤黒い槍が、檻の中のキメラを貫いた。

 串刺しにされたキメラは、悲鳴を上げ最後にフッと笑みを残すと、目から光が失われた。

 息絶えたのを確認し、アカネは檻を解除した。


「くそっ! 役立たず共が!!」

「何が崇高な研究よ。大したことないじゃない。あんたの無駄な研究に巻き込まれた人たちがかわいそうだわ」

「うるさいうるさいうるさい!! まだだ! まだキメラは残って――」


 アカネは無事……と言えるか分からないが、とにかくあっちは終わった。

 なら、俺も早いところ終わらせるとしよう。

 刀を鞘に納め、マジックバッグへ。五振りの魔刀の中から、紫色の鞘に納められた刀を取り出した。


 五振りの魔刀。

 それぞれ特徴によって鞘の色が分けられている。

 その特徴を作り出すために、特殊な素材が使われていた。

 先生曰く、この魔刀全て、と。

 俺の技量では未だ全ての魔刀を制御しきれず、二振りしか自由に扱うことはできない。

 その中で、この紫が比較的一番温厚な性格をしていて扱いやすい。


「ふん! いくら武器を変えようが、〝無職〟ごときに私のキメラを打ち倒すことはできんさ! 無様に地に倒れ伏す姿を晒すがいい!」


 たとえ〝無職〟でも、この魔刀があれば俺は〝最強〟を目指せる。

 なんてったって、先生の最高傑作だからな。


 集中し、深く呼吸をする。

 血流が活性化し、体が熱を帯びていく。

 五感が研ぎ澄まされ、思考が明瞭になっていくのを感じる。


 ――気血闘法、抜刀。


 強化された聴覚が、アカネの小さな呟きを拾った。


「一つ教えてあげる」


 ――居合・一の太刀。


 楽しそうに頬緩め、自慢げに威張るアカネの姿が目に浮かぶ。


「彼、私より強いわよ」


 ――雷光・紫!!



 澄み渡る青空、光差す太陽の下――――稲妻が走った。

 轟音を響かせ、紫の稲妻を纏い、キメラの後方に降り立った。


 キンッ、と音を鳴らし刀を鞘に納めると同時に、一瞬にして斬り裂かれたキメラの頭部と四肢が胴体から離れ地面へと落下。

 途端に炎上し、三体のキメラは崩れ落ちた。




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