第23話 二人一緒なら

シーナさんの宣言から一日と少し。

騎士団の誘導により街の住民たちの避難は完了。街の出入り口全てを封鎖し、安全な場所へ避難した住民と護衛の騎士は城壁内に立て籠る。


幸いなことに、街から逃げ出す冒険者は一人も出ず、戦う覚悟を決めた者は全員森に面した北門の前に集結した。

集まった冒険者たちの前に立つのは、いつもの制服を脱ぎ魔法士姿となったシーナさん。

受付嬢としていつも冒険者の支援をしてくれているが、実は魔法系の〝職業〟を与えられている。実際に、一時期冒険者として活動していたこともあったそうだが、戦闘が苦手だったシーナさんは、ギルドマスターの誘いもあり受付嬢になったという。

彼女と似たような境遇の人は多く、冒険者たちの中にギルド職員として見たことのある顔ぶれも混ざっていた。

皆一様に武器を手にし、怯えているようだが瞳には覚悟が宿っている。

誰もが、自分たちの街を守るためにここにいるんだ。


「キッドさんの報告なら、〝大行進〟はもうすぐそこまで迫っているはずです。気を引き締めてください。足手纏いかもしれませんが、皆さんを戦場に送り出す以上、全てをお任せすることはできません。私も共に戦います! ここにいる全員で、街を守りましょう! 指揮は彼らに。全員で生きて、街で凱旋しましょう!」


杖を掲げるシーナさんに合わせ、冒険者たちも各々の武器を掲げ雄叫びを上げた。

戦場の恐怖で怯えるシーナさんに鼓舞され、彼女の期待に応えようと心を奮い立たせる。

指揮を任されたBランクの冒険者が、他の冒険者たちに指示を出した。


「Cランク以上は最前線で森から出てくる魔物を押し留める。Dランク以下は後方待機。各自前線が討ち洩らした魔物を倒してくれ。魔法系は城門前で支援を頼む。俺たちが力を合わせれば、〝魔物大行進〟を止めるなんざ屁でもねぇ。――街を守るぞ!!」


「「「おおおおおおおおお――――――!!!」」」


冒険者たちの叫びが、地を揺らす。

士気は十分。これなら、城門前は問題ないだろう。

そう思った俺は、冒険者たちの輪の中からこっそりと抜け出した。

俺が抜け出したのに合わせ、目立つ紅の魔法士がついてきた。


「……なぜ、ついてくる?」

「パーティーなのだから当然じゃない。ジンこそ、一人でどこに行くつもり? あそこにいなきゃ、〝無職〟だなんだと馬鹿にされてるのに加えて、臆病者の謗りは免れないわよ?」

「あっちは俺一人いなくなっても問題はないよ。冒険者は自由。俺たちは統率のとれた兵士じゃない」

「? そうね」

「なら、遊撃隊っていう体で後ろから攻めるのもアリじゃないか?」

「なるほど。黒幕を叩けば〝魔物大行進〟も早く収まるかも……そういうことなら、私も一緒に行くわよ」

「いや、いらないけど」

「なんでよ!?」


正直一人の方が動きやすい、といってもアカネは納得しないだろう。

そもそも俺が止めたからといって、言うことを聞くような女ではない。


「私とジンはパーティーなの。一緒にいなきゃなの。だから私も行く。はい、決定。異論反論は認めませーん!」


……ほら。

パーティーメンバーだって言うなら、俺の言うこともたまには聞いてほしい。


「……これから向かうところは危険だぞ」

「そんなこと百も承知よ。冒険者の行く道に安全な場所なんてあると思って?」

「確かに、それは一理あるね」

「でしょ。それでも……私とジンが一緒なら危険なんてないわ。私たち二人揃えば最強なの。世界の常識よ?」

「そんな常識は知らない。……足引っ張るなよ、天才魔女さん?」

「ふふっ。そっちこそ、被弾しないように注意しなさい。〝無職〟の剣士さん?」


アカネと視線が交錯。互いに笑みを浮かべ拳を突き合わせる。

そのまま二人で森の奥へと歩みを進めていった。


地響きが大きくなっていく。


〝魔物大行進〟はもう目の前だ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る