第20話 急報

「調査に向かった冒険者が戻ってこない?」


 休暇もそこそこに、ギルドへ依頼を受けに行った俺とアカネは、シーナさんに引きずられギルド内の一室へと押し込まれた。

 普通に呼んでくれればいいのだが、シーナさんは緊急の用件でかなり慌てた様子だった。

 気持ちを切り替え話を聞くと、俺たちが連れてきた神官が目撃した魔物集結の調査を依頼した冒険者たちが、未だ戻らないということだった。

 依頼したのは森の調査に慣れている冒険者パーティーで、三・四日もあれば何かを見つけて戻ってくるだろうと思っていた。

 しかし、七日以上経過しても戻ってくる気配はなく、ギルド所有の連絡手段を渡しているが、それも途絶えたままだという。


「冒険者は基本自己責任。依頼に出て戻ってこないなんてことはよくある話よ。シーナもそれは分かっているでしょう?」

「もちろんです。しかし、今回は森の異変調査。決して深入りせず、報告のために一定期間で戻るようギルドマスターからも命じられているはずなのですが……。ギルドからの調査依頼で、彼らが規定日数を超えて戻らなかったことはありません。何かトラブルがあったのではないかと」

「だとしてもよ。そのパーティーの冒険者たちは、自分の意志でギルドの依頼を受けたのでしょう。未だ帰ってきません、なんて言われても私たちにはどうすることもできないわ」

「……今回の件、お二人にも無関係とは言えません」


 静かな声音で告げた。

 冒険者は、基本パーティーを組んでいなければ依頼の共有はしない。

 複数パーティーで難易度の高い依頼を受けることは時折あるが、それ以外は依頼を受けた冒険者の責任。他の冒険者が関与することが禁じられているのは暗黙の了解である。

 それを理解しているはずのシーナさんの言葉。含みのある言い方が気になる。


「……どういうことよ?」

「お二人がお連れした神官さんたちの話が正しかったと仮定して話します。魔物が一か所に集結している。それも群れや種類関係なく、数多く。そうであるなら、これは自然と集まったわけではありません。、魔物を集めていると考えるのが妥当です」

「なるほど。誰かが魔物を集めているのなら……目的があるはず。可能性として高いのは――集めた魔物に街を襲わせる、ということか?」

「ジンさんの言う通りです。その犯人さんの目的は分かりませんが、街を狙っているのであれば、地理的に襲われるのは聖王国かこの街、ということになります」

「……人為的な〝大行進〟を引き起こすつもりなの?」


 ――魔物大行進。


 大規模な群れとなった魔物が様々な理由により、大移動すること。

 理由として挙げられるのは、より強力な魔物に襲われ逃げる、または膨れ上がった群れを維持するために縄張りを増やそうと、人の住む村や街を襲い来ることがある。

 だが、それは数百、数千の群れの話。

 複数の魔物が集結した大行進など聞いたことが無い。


「それは確かに、私たちも無関係とは言えないわ。そもそも、街崩壊の危機じゃない。その情報はまだ流してないの?」

「確たる証拠もなしに、住民を困惑させるわけにはいきません。そのための調査依頼だったですが……彼らが戻らないことには、住民を避難させることも、冒険者に緊急依頼を出すこともできず……」

「ちっ……面倒ね。で? わざわざ私たちを呼んだのだから、何かあるのよね?」

「はい。お二人には調査に向かった冒険者の捜索を……――」


「――シーナさん! 『夜梟ナイトオウル』の皆さんが戻りました!! ですがっ……」


 大慌てな様子のギルド職員の男性が部屋に入ってきた。

 調査依頼をしたパーティーが戻ってきたのだろう。だが、報告に来た男性の顔色はかなり酷い。

 彼に感化され、シーナさんも慌てて立ち上がる。


「すぐに行きます! アカネさんたちも一緒に!」





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