第19話 調査
「鬼隠森」で極力物音を立てず静かに行軍する冒険者パーティー。
彼らは、冒険者ギルドからの依頼で街から北西方面の探索を行っていた。
壁役である重戦士、メインアタッカーの剣士、索敵や遊撃役のレンジャー、中距離担当の弓士、後方支援の魔法士、パーティーの基本を押さえたような構成の五人だった。
どのメンバーもCランクだが、彼らは戦闘よりも探索や調査を得意としている。
これまでの功績がギルドに評価され、こうした街周囲の異変の調査を冒険者ギルドから直接依頼されることが多い。
今回、彼らは聖王国から亡命してきた女性神官二人の話から、魔物が集結しているという真偽を確かめに来た。
「ハナ、何かおかしなことはあるか?」
剣士でパーティーリーダーのキッドが、地面や木の変化に注視しているレンジャーのハナに声を掛けた。
「いいえ。周囲に足跡もないし、戦闘が起こった様子もないわ。いつもと変わりはないわね」
「そうか。神官たちの見間違え、だったらいいんだがな……」
「ここまで来たっていうのに、無駄骨だったのかもしれないな」
「不謹慎よ、ジャン。何もないのならいいじゃない。安全が確認できたと安心できるし」
溜息を吐いた重戦士のジャンを窘める魔法士のネイ。
長時間森の中にいるが、魔物と遭遇することなく進み、ジャンからは緊張感が失われていた。
彼らは三日ほど森の中を探索しているが、一切魔物と遭遇していない。
「……ありえない。かなり深くまで入り込んだというのに、私たちは今まで魔物の姿すら見ていない。こんなこと、今までなかったはずよ」
異常に気付いた弓士のミリーが呟く。
その言葉に同意するように、キッドは首を縦に振った。
「確かにそうだ。俺たちは魔物と遭遇することなくここまで来た。多少魔物の少ない道を辿ってきたとは言え、一体も見当たらないというのはおかしい話だ」
「そうね。この辺りならイビルレッドボアとブラックドッグが大規模な群れを作っているはず。一匹もいないだなんて……」
「他の魔物に食われたとかじゃないのか?」
「それなら、周囲に食い荒らした跡が残っているわ。それも見当たらないということは……」
「……神官たちの話に、信憑性が増してきたな」
キッドの言葉に、全員が気を引き締める。
もし魔物が一か所に集まっているとすれば、その集団に襲われでもしたら彼らは逃げることもままならないだろう。
キッドがハンドサインでメンバーに警戒を促す。
「先に進もう。離れた所にポケットスペースがあったはずだ。この辺りで魔物が集まるならそこしかない」
ジャンを先頭に、辺りを警戒しながら彼らは進む。
しかし、彼らは誤った認識をしていた。
彼らは、魔物が自然と一か所に集まったと思い込んでいる。
魔物は習性上、同じ群れ以外で集まることはほぼない。
つまり、もし魔物が集まっているのなら、それは……誰かが意図的に集めたことになる。
人為的な思惑に、彼らは気づくだろうか……。
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