第17話 詰問
街の入り口付近にある騎士団詰所。その地下収容所に、捕縛されたカインセルが牢に入れられていた。
牢を閉じる鉄格子を挟み、ギルドマスターであるエドウィン、騎士団からは数名の団員と責任者の部隊長が、犯罪容疑のあるカインセルを詰めていた。
「さて、カインセル君。君も知っている通り、隷属の力を持つ魔道具――及びそれに類する物全て、違法な代物として禁止されている。それは、この国だけの話ではない。我が国含め、国家間条約を結んでいる友好国全てにおいて、だ。そんなものを、君はどこで手に入れたのかな?」
エドウィンの優しい声音。だが、魔力による威圧を乗せた声に、カインセルは震えるばかり。
元とはいえ、Sランク冒険者の威圧を正面から受けては、彼に抵抗する術はない。
震える体を抑え、声にならない声を発す。
「わ、わわ、私、は……」
「はっきりと言葉にしてくれ。君が正確な情報を提供してくれると言うのなら、君の罪を軽くしてもらえるよう、王に奏上しても良いと思っている。なぁ、バトラー?」
エドウィンは、静かに腕を組んでいた部隊長に声をかける。
〝一番槍〟の異名で恐れられる騎士団の英傑、バトラー。
平民の傭兵団出身と、騎士団の中では異色の経歴を持つ男。普段は眼鏡をかけ、落ち着いた雰囲気を纏っているが、こと戦闘になり眼鏡を外すと戦闘狂の一面が垣間見える。
初めてバトラーを目にする人は皆、彼の普段とのギャップに度肝を抜かれる。
バトラーはクイッと眼鏡を直し、淡々と言葉を紡いだ。
「隷属の装身具を使用していたというだけで、処罰は免れないだろうな。情報提供という功績を加味しても、牢の中で一生を終えることなるのは間違いない。それでも、命があるだけマシだと思ってほしいな」
「こらこら。もっと気の利いた説得はできないのかい?」
「事実を言ったまでだ。誤魔化したところで何にもならないだろう。おい、エド。犯罪者の尋問よりも、こいつを軽く打ち負かした〝無職〟の少年の方が気になる。会わせろ」
「そんな悪い顔して……まだダメだよ。君とご対面するにはもう少し強くなってからじゃないと面白くない」
「それまで俺が待てると思うか?」
「まあ、待ってもらうしかないよね〜」
バトラーの殺気を笑って受け流すギルドマスター。
剣呑な雰囲気が漂う中、カインセルが震える声で呟いた。
「……な、何年か、前に……く、黒いローブを、ま、纏った、ち、小さな子供に、渡された……し、試作品、だから……こ、効果を確かめて、欲しい、と……」
「黒いローブを纏った小さな子供、ねぇ……」
「どこかで聞いた話だな」
すると、控えていた騎士の一人がバトラーに耳打ちした。
「エド。最近街に黒いローブを着た子供の集団がいると噂になっているみたいだぞ」
「そう言えば、市場で噂を耳にしたよ。子供だけで旅をするのは珍しくないが、少し怪しげな雰囲気だったと」
「子供といっても成人前であれば子供として扱われる。ある程度の年齢がわからなければ探しようがないぞ」
「ふむ。確かに君の言う通りだ。では、カインセル君。その子供と会った正確な日付を覚えているかい?」
エドウィンに声を掛けられると、ビクッと体を震わせる。
そしてオドオドしつつも、ゆっくりと返答していく。
「三、四年前ということ、しか……そ、それ以外の、正確な情報はまったく……ただ、せ、洗礼を受けたばかり……という感じが、しました……」
「つまり、現在は十四歳くらいの子供ということになりますね。とりあえず、それで街の中を探してみましょう」
「俺の部下にも探させよう。それで見つかればいいんだがな」
「……そう言えば……」
ふと思い出したように、カインセルが言葉を発した。
「何か思い出したのかな?」
「そ、組織名のようなものを、口にしていた気が……」
「組織として活動していると? その名は?」
「確か――『フェラデァ・フィーリャ』とか……」
「フェラデァ・フィーリャ」。
その言葉は古代女神語において、「反旗する女神の子」を意味する。
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