第九話 報告
「イビルレッドボアの牙が六十、ですね。……いつも言ってますけど、二人とも狩り過ぎです。少しは自重してください」
いつも通り、依頼を終えシーナさんへ達成の報告をするため、ギルドへと訪れていた。
空が完全に真っ暗になる頃には、依頼で街の外へ出ていた冒険者たちは皆ギルドへと戻ってくる。
併設の酒場で酒を酌み交わし、遅くまで騒ぎ出すのが彼らの日常だ。
そして、毎日依頼討伐数を大幅に超過し、シーナさんのお小言をもらうのも、俺とアカネの日常だった。
「仕方ないじゃない。ジンが見つけてくるんだから」
「おいおい、俺のせいにするなよ。もっと狩るわよ、って言ってたのはアカネだろ」
「いいえ、私はそんなこと言いません」
「てめぇ、このやろう……」
「はいはい! 仲が良いのは分かりましたから、ギルド内で喧嘩はご法度ですよ。分かってますよね」
「「…………」」
何故か、シーナさんの微笑には俺もアカネも勝てない。
大人しくシーナさんの言葉に従い、報酬を簡単に分割する。
「それで、その……先ほどから気になっていたのですけど、後ろのお二人は……? 聖王国の神官様、ですよね? ボロボロですけど、どうかしたんですか?」
「ちょっといろいろあって。軽く話を聞いて少しの間面倒を見てやってほしい」
「……わかりました。他の職員にお任せしましょう。神官様方はあちらの女性についていってください」
女神官たちが頭を下げ、受付の奥にいた女性についていった。
「では、お二人はこちらへ」
「……?」
「人に聞かれたくないお話があるのでしょう? ここでは視線が気になりますからね。人目の無いところでお話を聞かせてください」
なぜわかった。
確かに話はあったし、人目も気にしていた……もしや、シーナさんは読心術が使えるのでは!?
「いつも言ってるでしょー。ジンは大体顔に出てるのよー」
「くっ……そう言えば、先生にも注意されてた。『お前は考えてることを顔に出し過ぎだ。常日頃から表情に気をつけろ』と……」
何たる失態。鍛錬不足か。
早朝の素振りの回数を少し増やすとしよう。寝る前の瞑想も少し……。
「ブツブツ言ってないで行くわよ。早く話してご飯にしましょ」
アカネに手を引かれ、シーナさんの後を追った。
◇◇◇
「聖王国からこちらへ来る途中の森で、魔物が集まっているのを見た、と? 種類や規模次第では大問題ですね。詳細は?」
「あの神官たちから聞いたんだ。逃げるのに必死で魔物が集まっていることしかわからなかったと。ただ、数が多くて大きく迂回する羽目になったとは言っていた」
「鬼隠森」は四つの国と隣接している。
北にとある国の公爵家が興隆したとされる大商公国。南に小さな国がいくつも集まり一つとなった連合王国。東にかつて俺がいた帝国、そして西に三女神教総本山である聖王国。
「鬼隠森」を中心として、東西南北に四つの国が並んでいる。
比較的強力な魔物の少ない外縁部を進めば、国を行き来できるほどの距離だ。
とは言え、「鬼隠森」は超大森林だ。外縁を徒歩で隣国まで行くのに早くても一週間はかかる。
その距離を、ボロボロになりながらも逃げてきたあの神官たちは意外と根性がある。
「数が多いですか……何にせよ、調査はしなければなりませんね。口が堅く調査が得意な冒険者パーティーに依頼を出します。万が一のことがあれば……この街の危機です。それは阻止しなければなりませんから。お二人はここ数日働き過ぎなので、しばらく英気を養ってくださいね」
ニコッと微笑。
シーナさんにそう言われては従わざるを得ない。
俺とアカネは、調査結果が出るまでしぶしぶ休暇を取ることにした。
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