第109話 体育祭・後編

 後半戦、第1競技は借り物競争。




 スタート位置につき、掛け声とともに走る。途中の封筒を手にとり、中身を確認。


 しまう。私はいいけど、他の人はすごく困るんじゃね?という内容でした。




「カツラどこですかー、誰か持ってませんかぁぁ!」




「第2用具室のカギ!?職員室か!?」




「青のパンツを誰か、誰か貸してくださぁぁい!」




 カギはともかく、カツラとかパンツとか地味にハードル高くない?と思いつつ、私はディルクを呼んだ。




「ディルク!来て!」




「俺?」




「借りられてください!」




「え?うん」




 見事1位でゴールしました。




「借り物のカードをください。はたして、内容は…『恋人』…え?このお兄さん、恋人なんですか?」




 困惑する係の人。歳が離れてるから仕方ないかなぁ。




「はい」




 しかし、事実なので肯定する。ディルクがひょいと私を抱き上げ、私の唇にナニカが触れた。










 は?












 きゃあああああ!と歓声があがる。は?え?




「もっと?」




 ちゅ、ちゅと軽いリップ音。私、公衆の面前でキスされてますか?




「ディルク、だめ」




 いや、キスはいいけど今は駄目だ。恥ずかしい!登校拒否レベルだよ!




「だめ?可愛いなぁ…」




「あ、後でならいくらでも…」




「ふふ、うん。ね、まだ足りない?恋人に見えないかな?」




 不幸にも真っ赤になった係の人は涙目で叫びました。




「借り物として認めます!」




「…もう少しキスしたかったかなぁ」




 ディルクもたまに恥ずかしがるとこがおかしいと思います。しかし後で、私に悪い虫が来ないようにラブラブを見せつけようという意図があったらしく、説明されました。早く言ってよ。


 青いパンツは係の仕込みだったらしく、多分係の人がハーフパンツの上からはいていた。問題はカツラだ。




 勇者がいた。




「カツラ、貸してください」




 学園長は確かにカツラっぽいが、まさか真っ向から借りに行くとか勇者だ。




「…どうぞ」




 貸した!学園長涙目だけど、貸したよ!輝く頭皮!学園長…貴方は教育者の鑑です。そして、借りた奴!度胸がありすぎです。叱られても仕方ないと思います。借り物競争の係が顔面蒼白になってます。かなり悪ノリした結果が跳ね返ってきたんだね。








 生徒席でまったりしていたら、アルディン様が来ました。




「ロザリンド、借りられてくれ!」




「私?」




 アルディン様に連れていかれました。




「お題は…強い人!文句なしのOKです!」




「アルディン様や」




「いてててて、抓るな!暴力反対!」




「ディルクとか、他に対象が居ましたよね?」




「肉体的にも精神的にも強い=ロザリンドだと思った。言われてみれば確かに他にも居たな」




 アルディン様に悪気は無かったご様子。最近悪気がある奴らとばかり接してたからなぁ。




「女性は強いと言われても嬉しくないかもな。すまなかった」




 アルディン様は今日も驚きの白さでした。いや、私こそすいません。












「アルディン、借りられてくれ!」




「あ、兄上!?」




 真っ黒様…アルフィージ様がアルディン様を借りて行った。敵チームだが仕方ない。




「お題は…可愛いもの!」




 またか。私とアルディン様の心は、今多分ひとつになった。そして兄馬鹿によるアルディン様の可愛いアピール。可愛いけどアルディン様かわいそう。




「お、OKです!」




 係の人、ドン引きしてる。アルディン様は涙目でフラフラと戻って来ました。




「お疲れ様です」




「…ああ」




 ぐったりしているアルディン様。そっとしておくことにしました。








「ロザリンド、借りられてくれ!」




 また私?嫌な予感しかしない。警戒して兄にたずねた。




「…お題は?」




「可愛いものではないよ」




「…ならいい…かな」




 兄に手を引かれてゴールした。




「お題は…面白いものです!」




 おいこら、兄!




「午前中の競技でも見せた、奇想天外な発想と行動は非常に面白いと思います。さらに…」




 兄は私の珍プレーを暴露した。係の人プルプルしてる。笑いたきゃ笑え!




「兄様やめてえぇ!」




 私の悲痛な叫びが響き渡った。当然OKでした。












 しょんぼりして席に戻ると、復活したアルディン様に慰められました。私達は同志です。










「ロザリィ、借りられてくださいませ!」




「はい!」




 ミルフィなら安心してついて行ける。彼女は私の嫌がることはしないだろう。他も借りられた選手がゴールしようとしている。せっかくだ、ミルフィに1番を取らせてあげたい。




「ミルフィ、行きますよ!」




「きゃあ!?」




 私はミルフィをお姫様抱っこしてゴールしました。




「お題は、親友です!仲、良さそうですね。OKです!」




 な ん だ と




「係のお兄さん、お題をもう1回」




「お題は親友です」




 SI☆N☆YU☆U…だと?




「ミルフィ…私は貴女の親友なのですか?」




「わ、私に貴女以上に仲のよい友人は居ませんわ!不満ですの!?」




 ミルフィは涙目である。不満?そんなのありえない!




「いやっふぅぅぅ!!私もミルフィが大好きです!ミルフィは私の親友です!!」




「きゃあああああ!」




 私はミルフィに高い高いをしたあげく、抱きしめてぐるぐる回った。




「あの、他の人に迷惑なんで向こうに並んでください」




 係の人に注意されました。すいません。




















 騎馬戦は全クラスから代表2組が出て争います。私のクラスは私・アルディン様・ガーブ・ルフナチームとラビーシャちゃん・ポッチの獣人チーム。


 私とラビーシャちゃんが騎手で、他が馬役です。




「練習の成果を見せるぞ!」




 おー!!と声を揃える我々。気合い充分です。騎馬戦では鳥系獣人か魔法使いが有利です。魔法は直接攻撃は禁止ですが、威嚇などは可能。




「行きます!」




「おおっと、ロザリンド嬢…騎馬から飛び移り、次々に他の騎馬のハチマキを奪い、騎馬を崩していく!同じく1年3組、ラビーシャ嬢も次々とハチマキを奪う!まさか鳥獣人でもないのに、こんな作戦を実行するとは、誰が予想できたでしょうか?」




 実況の人上手いな。魔法使いは不意打ちに弱い。先手必勝です。あらかた地上が片付いたので、自分の騎馬に戻ります。うむ、皆ちゃんと着地時に衝撃緩和の魔力操作をしていますね。私の騎馬である3人は魔力操作が上手く…正直彼らしか私が本気出したら受け止められないんでこの編成になりました。




 次は空ですね。ラビーシャちゃんとアイコンタクト。彼女も頷く。




「行くよ!」




「はい!総員、衝撃準備!」




「おおっと、次は何を見せるのか1年3組チーム!ロザリンド嬢がラビーシャ嬢の騎馬に飛び移り…跳んだぁぁ!?」


 ラビーシャちゃんの手に乗り、私は空中に投げ飛ばされました。空中の鳥獣人はうちのオルドより鈍い。オルドに慣れた私に、鳥獣人の捕獲はたやすい。




「あ、ありえなーい!!次々と鳥獣人を仕留めていく!捕まえた鳥獣人を操り、近くまでいかせてどんどんハチマキを奪っていく!」




 背中にのってしまえば、鳥獣人は反撃できない。暴れればお互い落ちるから。さらに重心を動かせば、ある程度は操縦可能である。




「くそう、空で人間に負けるなんて」




「ごめんね?魔法でも飛べるけど、それじゃ勝てないからこんな手段なんだ」




 悔しそうな鳥獣人のハチマキを奪い、その背中から飛び降りた。魔法で飛べるがコントロールが甘く、こちらの方が確実だったのだ。念のため風で衝撃を緩和しつつ自分の騎馬に戻る。




「きゃあああ!?」




「ラビーシャちゃん!?」




 ラビーシャちゃんチームがやられた模様。相手は兄とアルフィージ…真っ黒様チームだ。気がつけば、私達と兄様達だけになっていた。意外にも、騎手は兄様でアルフィージ様は馬役。いや、身体能力を考えたら妥当ではあるか?




「おおっと!?ついに一騎打ち!勝負を制するのはどちらだ!?」




「負けないよ!行くよ、フィル!」




 兄とフィルの魔法でデカイウッドゴーレムが出現した。直接攻撃は駄目だが、ウッドゴーレムが歩くだけで振動がすごい。このままでは動けない。




「あ、あわわわ…スイ、あれコントロール奪えない?」




「任せてー」




 あっさりとウッドゴーレムのコントロールを奪うスイ。さすがです。




「う、嘘ぉぉ!?」




 フィルがショックを受けてます。精霊としてのレベルはフィルが上ですが、こういった小細工がスイは得意なんですよ!




「凍れ!」




 私達の隙をついてアルフィージ様が魔法を放つ。周囲の地面が凍りつき…




「き、きえたぁぁ!?1年3組チームが消えた!あ!」




「てりゃあ!」




「うわぁぁ!」




「1年3組チーム、唐突に3年2組チームの背後に現れ、体当たりで騎馬を押した!そして3年2組チーム、たまらず自らの氷で滑って転んだぁぁ!」




「とったどー」




「ロザリンド嬢、ちゃっかりハチマキも取った模様です!優勝は、1年3組です!!」




「勝ったぁぁ!」




 騎馬から降りて、互いにハイタッチする。




「さすがは姐御だぁぁ!」




 興奮したガーブとルフナが抱きついてきましたが、叩きました。




「私を触っていいのはディルクだけです」




「本当にぶれないよな、ロザリンド…」




「当然です。私はディルクのものですか…うぎゃ!?」




 背後から真っ黒様にのしかかられました。




「負けたかー。最後のは隙をついたつもりだったんだけどな」




「私達もあのウッドゴーレムを囮にしましたからね。アルディン様に光の屈折でめくらましをお願いして、私が作った幻影と途中入れ替わったんですよ。結構ギリギリでしたね」




「そうか…」




「それにしても、この氷…きゃあ!?」




 試しに足を踏み出すと、アッサリ滑って転んだ。




「何してるんだよ、ロザリンド」




 転んだ私に手を出すアルディン様。私はその手を引っ張った。




「うわ!?滑っ…だぁぁ!?」




 見事に滑るアルディン様。




「お見事です、アルフィージ様。私はこんな転倒に特化した氷見たことありません」




 氷は鏡のように磨き込まれ、更に絶妙に曲がっているので一歩踏み出せば確実に転ぶ。試しに踏み出したガーブとルフナも滑って転んだ。注意しててもこの威力。気がつかず踏み出せば、ひとたまりもない。






「まぁ、負けたけどね。次は負けないよ」




「「はい!望むところです!」」




 私達はアルフィージ様に返答した。兄も悔しそうだ。




「ウッドゴーレムは囮だって気がついてた?」




「直接攻撃は禁止ですからね。兄様がそんな単純ミスするとは思いませんでしたから」




「次はもっとすごいの考えよう…」




 兄の呟きに、次が怖いと思いました。




















 さて、最終競技は選抜リレーです。各クラス代表が出るわけですが、クラスごとに出場となります。本来は最終学年がアンカーになるわけですが、私達は他学年の代表達に呼び出されました。




「正直、僕らは勝ちたい。だから君達にアンカーを頼みたい」




 本来の走る順を変更し、我ら1年3組が最後に走ることになりました。最後4人は1周ずつですが、他は半周ずつとなります。




 練習でも予感はしてましたが、3組遅い…ついには周回遅れです。いやいや、練習したんだ。全力を出そう。


 1年3組はルフナ、ガーブ、アルディン様、最後が私の順に1周ずつ走ります。




 さて、結局1周遅れのまま、ガーブにバトンが渡ります。ガーブは魔力を足にこめ、異常なスピードで追い上げます。




 最後尾との差を半周は縮めたかな?周囲から歓声が上がる。




「ルフナ、セット!」




 私の声に、ルフナはクラウチングスタートの構えを取る。




「…3、2、1、GO!」




 ふり返らず、全力でスタートするルフナ。ガーブが追いつき、ノールックでバトンを受け渡した。タイミングばっちり!




「うおおおお!」




 ルフナも足を魔力操作で強化し、異常なスピードで走る。最後尾に追いついてきた!




「アルディン様、セット!」




 アルディン様もクラウチングスタートの構え取る。




「3、2、1、GO!」




 私の合図で駆け出すアルディン様。ノールックでのバトンパスが決まり、アルディン様も魔力で脚力を強化。更に風魔法で追い風をつくり追い上げる!どんどんアルディン様は追い抜いていき、残るはあと2人!




「任せた!」




「任されたぁ!」




 私も皆と同じくノールックでバトンパスをする。脚力を魔力で強化し、追い風を使い、爆発的な速度で追い上げる。




「頑張って、ロザリィ!」




「ロザリンド、行けー!」




「嬢ちゃん、勝てよー!」




「ロザリンドちゃん!ワシがついておるぞぉぉ!」




 歓声が聞こえる。あと1人。魔力強化が使えるのか、獣人としてのポテンシャルが高いのか知らないが、めちゃくちゃ速い!あと少し!間に合わない?




 嫌だ、負けたくない!ロザリアが思ってる。私も負けたくない!




『負けたくない!!』




 感覚が、重なった。気がつけば、更に加速してゴールテープを切っていた。




「やったな、ロザリンド!」




 勝った!すごく嬉しい!!




「はい!練習の成果、ばっちりでしたね!ガーブ、ルフナ、よくやった!」




 このリレー、実は練習が大変でした。魔力による身体部分強化は慣れないと非常に難しく、曲がれないわぶつかるわ…結局私がタイミングを計り受け渡しが1番タイムがよかったんで採用されましたが、責任重大でドキドキしました。


 余談ですが、ラビーシャちゃんは速いんですがバトンパスが上手くできず、やたらぶつかるんで確実性重視で今回の編成になりました。






 こうして、私達の体育祭の競技は全て終了しました。初めての体育祭は大満足な結果でした!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る