第91話 お昼ご飯とモフ欲

 後半、モフ欲が暴発します。




 我慢はよくないですよね。




 



 さて、お昼ご飯です。ドーベルさんは愛妻弁当があるらしくお断りされましたが、他は全員参加で昼ご飯になりました。騎士団本部付近の日当たりがいい場所にいつもより大きなピクニックシートをしいて、お弁当を並べます。本日は力作ですよ。しかし、ドーベルさんが参加と思ったので量が多いかな?




「…見たことがない料理が多数あるな」




 不思議そうに料理を見るロスワイデ候爵子息。




「ロザリンドのご飯はすごく美味しいよ」




「…公爵家のシェフではなくか?」




「私が作りました」




「「……」」




 沈黙が私への信頼の無さを語りますね。ふんだ。嫌なら食べなきゃいいんですよ。ロスワイデ候爵子息は一応バーベキューとスープ食べたことあるし、アデイルさんは私手製のお菓子食べたくせに。




「いらないならカーティス辺りにあげます」




「マジ?食べる食べる!」




「え?」




 まさかのカーティス登場です。ヒューさんも居ます。




「ロザリンド、俺も食べたい!」




 ご飯ちょうだいと私を見る柴犬の画像とカーティスが重なった。お腹を空かせたわんこに勝てる気がしない。




「…たんとお食べ」




「やったー!」




 いそいそとピクニックシートに靴を脱いであがるカーティス。




「ちゃんといただきますしなさい」




「いただきます!」




 カーティスは素直にいただきますをして、から揚げを食べた。




「うんめー!」




「カーティス、ずるい!俺もいただきます!」




 ディルクも負けじと食べはじめた。




「美味しい…久しぶりのあったかいロザリンドのご飯…」




 最近お弁当一緒じゃなかったからなぁ…特殊鞄、ディルクのお弁当用作るかな。やっぱり出来立てが美味しいよね。ディルクが幸せそうでなによりです。頑張って作ったかいがあります。




「むぐむぐむぐむぐ」


「はむはむはむはむ」




 聖獣様と闇様も黙々と食べてます。美味しいですか。そうですか。




「俺もいいかな?」




「どうぞ」




 ヒューさんも食べたいらしく、参加しました。彼の昼ご飯に買ってきたらしい大量のサンドイッチを出しました。




「アデイル、嫌ならこれ食えば?サンドイッチ好きだろ?俺がお前の分まで食ってやるよ」




「嫌とは言ってないわよ!」




「……なんだ、これ」




「…超うめぇ」




 びっくりした様子のヒューさん。食べたのはコロッケ。


 そしてまたしてもキャラを忘れてるアデイルさん。食べたのは本日の特選素材で作成したしぐれ煮。




「アデイルさん、それ一億万バッファローのしぐれ煮です」




「…は?」




「…超高級食材だな」




 何故か渋い顔のロスワイデ候爵子息。




「そうなんですか?口にあったようでなによりです。昨日狩ってきたかいがありました」




「かなり高価なはずだぞ?毎回こんなに豪勢な弁当なのか?」




「え?狩ってきたのでタダですよ?しいて言うなら、かかったのは私の労力だけですが」




「……」




「……」




 おかしい。ナニカがズレている。買ってと狩って…かな?なら高価云々も頷ける。私が説明しようとしたら、ロスワイデ候爵子息も食い違いを理解したらしくキレた。




「どこの世界にSランクモンスターを気軽に狩って弁当のおかずにする令嬢がいるんだ!非常識も大概にしろ!!」




「ここに居ます!少しでも美味しいものを未来の旦那様に食べさせたいというウザすぎる愛情と、私のせいで楽しくない書類仕事に出されるであろう憐れな騎士様への労る心の結果です!」




「心がけは素晴らしいが行動がおかしい!」




「…ロザリンドだし、しょーがなくね?」




「……………そうだな」




 カーティスの一言に納得してしまったロスワイデ候爵子息。


 待て、どういう意味だカーティス。


 そこで納得するな、ロスワイデ候爵子息。


 睨む私に気がついたらしく、ごまかすようにカーティスはうまいから食えって!とロスワイデ候爵子息の口におかずをほうり込んだ。それ、一億万バッファローのローストビーフ。我ながらかなり上手く出来ましたよ。




「…美味いな」




 結局ロスワイデ候爵子息も食べ始めました。口にあったようで上品ながら黙々と食べます。














「…ところで、何故ロザリンド嬢はディルクの膝に乗っているんだ?」




「「あ」」




 いつものクセでナチュラルに座ってました。




「え?いつも昼メシん時はこうだぞ?」




「…そうか」




 諦めの境地に至った様子なロスワイデ候爵子息。




「一応人目は気にしとけ?」




 ですよね!すっかりエセオネエを忘れたアデイルさんに指摘され、そそくさとディルクの膝からおりて隣に移動する私。ちょっと!ディルクってば寂しげな表情しないで!お膝に戻らなきゃいけない気分になるじゃないか!




「…アデイル、いつもと雰囲気違うね」




「あ」




 ディルクに指摘されて固まるアデイルさん。頭を乱暴にガシガシ掻いた。




「…こっちが素だ」




「ふうん。そっちの方がいいんじゃない?」




「そうだな。普段アデイルはヒューとカーティス以外とは距離がある気がするが、今のアデイルは自然に見える」




 ディルクに同意するロスワイデ候爵子息。意外に鋭いな。




「…そうかもな」




 否定しないアデイルさん。ディルクやロスワイデ候爵子息とも仲がいいのかも。




「そうしてると普通にカッコイイですよね」




「…え?」




 いや、軽い気持ちだったんです。私、ゲームでアデイルさん結構お気に入りでしたし。うっかり本音が…!あわわわわ!ディルクが悲しげに!




「…ふーん、ならオレと付き合う?」




「無理。私はディルクのモノです」




 脊髄反射で返事がでました。ディルクは明らかにホッとしています。




「ふは、だろうな。でもお熱いのはいいが、首の痕と背中の傷は消した方がいいんじゃないか?ハジメテ記念だとしても」




 ニヤニヤしたアデイルさん。ハジメテ?




「…?…!!消そう!してないけど跡形もなく消そう!!」




 アデイルさんの発言はつまり、昨夜はお楽しみでしたね的な意味だ!確かに首のキスマークといい、誤解されても仕方ない!




「え?嫌だ!」




「それ、最後までしたと誤解されるから!せめて首だけでも!」




「…最後?」




 キョトンとしたディルク。しかし意味に気がついたらしく、あっという間に赤面した。




「…つか、してないのに恋人から背中に傷ってナニしてたんだ?」




 デリカシーなにそれおいしいの?なカーティスが爆弾を投下した。




「それは「恥ずか死ぬからやめて!土下座でもなんでもするから言われたくない!言ったらディルクとしばらく口きかない!」




「…必死だな」




 驚いた様子のロスワイデ候爵子息。私は涙目である。




「…で、なんで」




 そして空気を読めるけど気にしない男・カーティスが追いうちをかける。




「それ次に聞いたら、もう二度とおやつはやらん」




「わかった。聞かない」




 私の本気を感じ取り、アッサリと引くカーティス。




「「すっかり餌付けされてんな」」




 呆れた様子の双子。そこは否定できないな。カーティスはやたらおやつねだるし。














 さて今日のデザートも食べ終わり、私はディルクの手を取った。




「ディルク、お話があります。すいません、休憩終了前には戻りますね」




「ああ」




「…ほどほどにな」




 疑問に思いつつ返事をするロスワイデ候爵子息。理由がよくわかってらっしゃる聖獣様。他メンバーも理由は解ってない様子。




「…内緒話?」




 ディルクは首を傾げつつ聞いてきた。




「昨日私は耐えました。聖獣様の素敵なモフモフにも耐えました。今日も耐えました。私のモフ欲を満たしてください!禁断症状が出そうです!」




「待って!モフ欲って何!?ロザリンドはモフモフが無いと禁断症状が出るの!?」




「出ます!人間には三大欲求というものがありまして、食欲・睡眠欲・モフ欲です!!そしてモフ欲とは、モフモフを愛するあまりモフモフを愛でたくてたまらない欲求です!」




「いや…性欲だろ」




 呆れた様子でツッコミを入れるアデイルさん。いや、私は性欲よりモフ欲です。




「…わかった」




 悲壮感を漂わせつつも了承するディルク。




「…がんばれ?」




 事情を知っているカーティスが一応の気遣いを…




「戻らなかったらディルクが性欲に負けたと思って片付けとくから楽しんどけ?」




 したまではよかったが、方向がおかしかった。




「負けないから!」




 ディルクは涙目である。私は苦笑してディルクの手をひいた。




「一応は手加減しますから。一応」




「全く安心要素がないよ…」




 しかし私の手は離さないディルク。離れた位置まできて、結界をはりディルクに抱きつく。




「ディルク、獣化」




「うん」




 すぐ獣の姿になるディルク。はう…モフモフ。ボタンをプチプチ外していく。




「え!?待って!」




「上半身だけだから」




「ちょ…にゃあ!そこは…にゃあん!」




 ふはは、我がゴールデンフィンガーに翻弄されるがよい。ディルクの気持ちいいポイントは熟知しています。にゃあにゃあ言わせてやりますよ!




「にゃあ…ふにゃあ…」




 すっかり私のテクニックでとろけたディルク。私に完全に身を委ね、甘える声がたまらない。そしてなによりこのモフ心地!




「はう…モフモフ…」




「にゃあ…スリスリくすぐったいよ…にゃあん…気持ちいい…」




 私はディルクのお腹に寝転がってモフモフを堪能しつつ撫でてます。顎か?顎がいいのか?




「ふみゅう…ゴロゴロ」




 喉がゴロゴロいってます。蕩けきってるし、そろそろいいかな?




「みゃあ!?そ、そこは…」




「気持ちよくしてあげる」




 私はディルクの尻尾をいじりだした。尻尾は今までもあまりいじってないから、どこが気持ちいいのかな?




「あ…ダメ…にゃあん!ふあ…や…」




 なんか、声が甘ったるい声からセクシー寄りに…




「ロザリンド…これ以上は…」




「んー、もう少し…」




 はむりと耳を甘噛みしたら、ディルクが痙攣した。




「にゃあん!本当にダメだから!着替えが必要になるから!」




 着替え?とりあえず考えてみて、理解した。そっちの気持ちいいになっちゃうってことかな?普段ならやめる私ですが、今日は違いました。




「…解りました。尻尾以外で」




「そ…それなら…にゃあ…んん…」




「モフモフ…幸せ…」




 ひたすらディルクをモフりまくる私。今日のゴールデンフィンガーは大活躍です。




「にゃあ…ふみゅう…みゅう…」




 もはや人間の言葉も出せないディルク見て、私は正気に戻りました。




「…やりすぎた」




 確実にやりすぎました。ディルクはくったり…そして恍惚とした表情です。




「みゅうう…」




 触ってないのにうっとりした猫の鳴き声なディルク。




「ディルク?」




 ゆさゆさと揺さぶり、しばらくしてからディルクも帰ってきました。




「…手加減してくれるって言ったのに!」




 ディルクに泣かれました。いや、そのごめんなさい。抑圧してたモフ欲がね?














 なんとかディルクを宥めて、ぎりぎり休憩終了前に戻ると


既にお弁当とピクニックシートは片付けられていました。




「片付け、ありがとうございます」




「…それはいいが、ディルクはどうした」




「…天国と地獄をみた…」




 ディルクは泣き腫らした目でそれだけを告げました。聖獣様が残念なモノを見る目で…いや、ディルク以外ほぼ全員が私に呆れた視線を向けています。冷たい視線が私を苛む!




「…抑圧していたモフ欲が暴発しまして」




「お前、どんだけモフ欲とやらが強いんだよ!?暴発ってなんだ!?」




「…幸せのモフ心地に我を忘れ、本気を出しました」




「長く生きる我ですら喉がゴロゴロ言ってしまう技術の持ち主の本気か…しかも若い獣人が愛するつがいに撫で回される…正に天国と地獄であろうな。ディルク、ロザリンドのモフモフ禁止は解禁したらどうだ?」




「嫌です…ロザリンドが俺以外にあんなことするのは許せない…耐えます。我慢します」




「あの…さすがに今回ディルクにやらかしたレベルはいまだかつて誰にもしてませんよ?」




「してたら泣く!」




「いや、してないしディルクにしかしないので泣かないで」




「つーか、レベルがあるんだ?」




「…ついつい反応を見ながら弄んだといいますか…普段は撫でるとかぎゅーぐらいなんですが…」




「ディルクが我慢できなくなって暴発したら確実に泣くのはロザリンドだぞ?加減したほうが多分いいぞ」




「…慎みを持て」




「こまめに発散したらどーよ」




「モフ欲とかロザリンドちゃんマジ面白いな!つーかアデイルがマジでアドバイスとかウケる!」




「…我はよくわからぬが、我慢するのはよくないぞ」




「だからほどほどにと言ったであろう」




 カーティス、ロスワイデ候爵子息、アデイルさんとアデイルさんにげんこつをくらったヒューさん、闇様と聖獣様からそれぞれコメントをいただきました。




 とりあえず、結論。




「…モフ欲を暴発させるとディルクが大変なので、こまめに発散することにします」




 時間もなくなり、お昼休憩は終了。また午後からお仕事となりました。


 ディルクが真っ直ぐ歩けなかったことに、ロスワイデ候爵子息とアデイルさんがドン引きしていました。聖獣様、呆れないで!わかってます。だからやり過ぎたんだよ!!

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