第89話 騎士団と書類
騎士団派遣にも慣れた頃。スケジュールを確認したら、私は別だとルドルフさんに案内されました。
案内されたお部屋には、庶務課のプレート。部屋に入るとうずたかく積まれた書類の山。机の向こうにいるはずの人が見えません。そして私には超直感はありませんが、嫌な予感しかしません。
「いや、悪いんだが書類整理を頼みたいんだ」
「…なんでこんなに溜めたんですか」
「まあ、騎士は書類が苦手で逃げる奴も多くてな…」
「では、一筆書いてください。私は団長命令で仕事しており、従わなければ武力行使も許可すると」
「…仕方あるまい」
「…あの…お願いします」
いつの間にか書類の山から出てきたらしい人は、チワワ的なもふも…獣頭の獣人さんだった。気の弱そうな彼はドーベルさん。チワワな見た目でドーベル。なんというギャップ。
「よろしくお願いします。まずは期限近いものを整理して…
」
私はさっさと仕事を始めました。
2時間後。ルドルフさんが来ました。
「…嬢ちゃん」
「なんですか?」
目線は書類のまま、ひたすら家から持参のソロバンを弾く私。
「…一応騎士団は部外者が来るとまずいんだが」
「大丈夫。全員精霊さんです」
「…は?」
「私の加護精霊さんと、加護予定精霊さんです」
スイ、ハル、ハク、コウ、闇様、聖獣様が現在お手伝い中です。アリサはお昼寝中。
スイは書類作成とサボテンさん達の統括。ハル・ハク・コウは字が読めるので書類仕分け。闇様と聖獣様も計算と書類作成をしています。
「…全員か?」
「全員です」
「…そうか」
ルドルフさんは何かを諦めたような表情になりました。
闇様と聖獣様はダメもとだったのですが、意外にも超有能です。
「ロザリンド、出来たぞ」
「おお、さすがは偉大なる闇の精霊様。素晴らしい」
「そうだろう、そうだろう」
結構以前から思っていたが、闇様はチョロ過ぎやしないだろうか。悪い女の子に騙されないか心配です。私?私は…毎回お礼におやつをあげてます。こき使ってなんか…多分ないです。多分。
「ロザリンド、我はどうだ」
「素晴らしい出来です。これならお城でも働けるのでは?」
「…何代か前の王に働かざるもの食うべからずと言われ、実際働いたことはある」
あるんだ。長く生きてれば、書類仕事を手伝わされることもあるのですね。
「ちなみにその愉快な王は後に賢王と呼ばれていた。そいつ以外で我を働かせたのはロザリンドぐらいだ」
「……」
目を逸らす私。
「嬢ちゃん…」
呆れた気配のルドルフさん。
「仕方ないんです!だって聖獣様、この部屋で昼寝しだすんですよ?踏んだら大変だし、もふりたいしもふりたいしもふりたいのに!」
「…我は構わんが?」
「ディルク以外モフモフ禁止令が出ています!できないんです!」
そして苦肉の策が獣人姿ならまだマシ→せっかく獣人姿だからお仕事しませんかと誘った→まさかのOK→現在に至る。
闇様は私から賛辞を受ける聖獣様に嫉妬して、我もそのぐらい出来る!と自主的に手伝いに来ました。相変わらずのストーカー予備軍です。
「終わりが…終わりが見えてきました!皆さんありがとうございます!やっと妻や子供とご飯が食べれるかもしれません!」
泣き出すドーベルさん。うちの父並のハードワークでしたもんね。ジト目でルドルフさんを見る私。
「この仕事量は人数に見合ってません。唯一職場を理解しているドーベルさんを潰したくないなら、職員を新たに雇用するか計算・書類ができる騎士を早・急・に!連れてきてください。さすがにドーベルさんが倒れたら、私はまだ仕事を把握しきれてないから、どうなるか解りません」
「わかった」
「最低でも明日にはよろしくお願いします」
「…希望する奴はいるか?」
「ディルクとロスワイデ候爵子息とアデイルさんレベルの使える人が欲しいです」
「なるほど。わかった」
ルドルフさんは出ていきました。お仕事はサクサク進んでいきます。ドーベルさんはこのとんでもない仕事量をこなしていただけの事はあり、私より有能です。
それから数時間、私の我慢の限界が来ました。
「…読めない字は字ではない!ドーベルさん!読めない書類よこした奴らをシメてきます!正しい字を教えてやる!」
「助かります。いってらっしゃい」
疲れているからか、いい加減きちんと仕事しない同僚にキレているのか、元からいい性格してるのかは知らないが、ドーベルさんはにこやかに私を送り出した。
サボテン軍団を引き連れて、私は騎士団各部署の字が酷い人や書類内容があまりにも酷い人を指導してまわり、ついでに書類の不備を指摘して突き返した。後に断罪の魔女王の行進として、騎士団できちんと仕事しないと来るぞ的に言われたとかなんとか。ネーミングは厨二病だが、要はナマハゲですね。
「おかえりなさい。サボテン君達、まだらに赤いのが増えたのを僕は見ないフリするべき?一応責任者として確認するべき?」
「見ないフリで。逆らった愚か者の末路です。大丈夫、返り血ですよ。キッチリ書き方について指導してきました」
「…拳で?」
「…まぁ、一部は拳で語らってきました」
とりあえず見た目おとなしそうですが、ドーベルさんは相当イイ性格をしているようです。
もともとあと4人居るらしいのですが、適当な理由をつけて見回りや別の仕事をしているらしい。当然捕獲してキッチリとシメました。
「じゃあ、後よろしく」
終わらないだの無理だのほざく4人に、サボテン軍団がチクチクとトゲを刺す。サボっていたやつらの分はキッチリさせることにしました。ドーベルさん、忙しいから捕獲しなかっただけで、わざと彼らの仕事は残していたらしい。
「大丈夫、1日24時間使えばいけるよ。サボテンさん達、監視よろしくね」
サボテンさん達は全員ビシッと敬礼した。
「いつもいつもお手伝いありがとう」
サボテンさん達の頭にピンクの花が花冠みたいに咲きました。何事!?ビビる私にスイが説明した。
「ほめられて嬉しいみたい」
新発見。砂漠名物走るサボテンさん達は喜ぶと花が咲く!
「せっかくだからご褒美あげたら?」
「ご褒美?」
「ロザリンドの魔力はこの子達にとってご馳走だよ。魔物よりマグチェリアみたいな魔法植物に近い子達だからね」
「じゃあどーぞ」
私は学習しない女です。つい最近もスイに促され魔法植物…ユグドラシルさんに魔力を注ぎました。
魔力をあげたら、サボテン達はマッチョサボテンになった。サイズもでかくなった。なんてこった。スイが呆れた目をして私に言った。
「…ロザリンド、魔力あげすぎ。進化しちゃったじゃん」
「やっぱり私のせいか!!」
後悔しつつもサボテン達は喜んでるし、まぁいっか!と開き直る私でした。
そんな感じで騎士団庶務課での1日は過ぎていきました。
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