第88話 ディルクと傷と胸

安定のいちゃいちゃが続きます。




 優しく髪を撫でられている。まどろみの中、暖かい手に擦り寄る。気持ちいい。




「ん…もっと」




 撫でてほしい。手は私の意思を理解したのか、優しく撫でるのを再開する。大好きな匂いがする。太ももがくすぐったい。




「ん…くすぐったい」




「え…ちょっ、ダメ!見える!尻尾外すから捲らないで!」




「…ふにゃ?」




 焦ったディルクの声で目が醒めた。私の現状を確認する。


 あぐらをかいたディルクの膝にお姫様抱っこ的に抱かれている私。そして、意識を失う前の状況を思いだし、慌ててディルクの膝から逃げようと試みたが…ロザリアさん!邪魔しな…え?面白がらないでぇぇ!恥ずか死ぬ!恥ずか死ぬから!!いくら弱ってたとはいえ号泣からの寝落ちですよ!?ディルクの顔が見れません!




「ロザリンド、おはよう。ごめんね、起こして…その、寝ぼけるロザリンドが可愛くて尻尾がつい…」




「尻尾…」




 太ももをくすぐってたのは尻尾でしたか。寝ぼけてスカート捲って外そうとしたから、見えるは下着のことでしたか。




「…ディルクは私の寝顔を観察してたんですか?」




「うん」




「すいません、立て直したい。恥ずか死ぬ。人は恥ずかしさで死ねる生き物だったようです。爆発します。あれです。寄るな触るな弾けて飛ぶぞ」




「よく解らないけど落ち着いて!」




 逃げようともがく私を捕獲するディルク。力では敵わず、あっさり捕獲されました。むしろ密着して確実に状況は悪化しました。




「はなしてぇぇ!恥ずか死ぬ!恥ずか死ぬから!むしろ落ち着けない!泣きますよ!」




「泣いちゃうの?俺がロザリンドを抱きしめたいんだ…駄目?」




 至近距離で、首を傾げるディルク。更に駄目?とかあざと可愛い!


 少しショボンとした表情が不憫可愛い!


 しかし言葉とは裏腹に私を捕獲する手は力強くて男らしい。




「ディルクの卑怯者」




 ディルクの首にしがみつき、顔が見えないようにした。




「ふふ…痛っ」




 腹いせに首筋へキスマークをつけてやりました。ぺろり、と痕を舐める。




「…ディルク、寒くないの?」




 ディルクはまだ上半身裸でした。




「ロザリンドがしがみついてたから着れなかったし、俺が離したくなかったし…ロザリンドが暖かいから大丈夫だよ。それに寒ければ獣化すればいいだけだ」




 ディルクの両手に触れる。暖かい。冷えてないのは本当のようだ。手、大きいなぁ。ごつごつしてて、皮は固い。剣を使う人の手だ。




「…落ち着いた?」




「いえ。全く落ち着けない。いきなり泣き出してすいません」




 ディルクの顔を見ずに告げる。今間違いなく顔が真っ赤だ。頬が熱くて、お見せできない。ディルクはそんな私の態度を気にしていないのか、尻尾がご機嫌な時の揺れかたをしている。




「…何が嬉しいの?」




「ロザリンドに甘えてもらえたから。我慢しないで、隠さないで辛いって泣いてくれたから。俺、ロザリンドの隣に立てるようになりたい…少しは近づけたのかな」




 こつん、と彼の額に自分の額を軽くぶつけた。彼の笑顔は優しい。




「きっと、ディルクが思う以上に私は…貴方を頼ってる。私はとっくにディルクが隣にいると思ってた」




「えへへ」




 彼は上機嫌で私にキスをする。嬉しいらしく尻尾も揺れている。気恥ずかしいのでディルクから視線を外すと、自分の両手に血がついているのに気がついた。




「え?」




 記憶をたどり、縋りついた時に引っ掻いたことを思い出す。




「ディルク、ごめん!背中の傷痛いよね!?今すぐ治すから!」




 焦る私にディルクは困った表情をした。




「背中…治したくないな」




「ディルクに被虐嗜好があったなんて知りませんでした」




「違うから!大した傷じゃないし、ロザリンドが甘えてくれた証拠だから、自然に治るまででも残しときたいだけ!」




「…よし、治す」




「ええ!?」




「私が甘えた証拠なんて隠滅してやる!跡形もなく消してくれるわぁぁ!」




「ちょっと!こら!だから消さないでったら!」




 ディルクは慌てて、私が魔法を発動出来ないようにくすぐりだした。




「ひゃははは!やめ…あはははは!」




 以前魔法は集中がキモなので、集中させなければ使えないという話を覚えていたようです。解放されたものの、ディルクに退く気はない模様。




「うー」




 涙目で睨みつけるが、ディルクはニコニコしている。正面から行っても返り討ちにあう気配しかしないので、搦手で行くことにしました。




「そういえば、この間身体測定がありまして」




「うん?」




「胸が少し成長しました」




「そんな報告いらないから!内緒にしといて!そこは隠して!いつも思うけど、ロザリンドは恥ずかしがる所がだいぶおかしいから!!」




 ディルクは顔を真っ赤にして言った。




「そうですか?わざとな時もあります。あと、堂々とした方が恥ずかしくないです」




「俺で遊ばない!そしてもっと恥じらってください!!」




「胸が成長したのはマッサージのおかげだと思うのです。してくれたら傷は消しません。どうかな?」




 ディルクはしばらく考えて、返事をした。




「わかった」




「へ?ちょっと…」




 ディルクの傷への執着を甘くみておりました。作戦失敗なうえ、がっつりマッサージされるという反撃をくらいました。




「あ、あうう…」




「少しは懲りてください」




 ディルクは顔を赤くしていたものの、かなり容赦なかったです。ディルクを本気にさせてはならないという、いい教訓になりました。




 こうして、私とディルクの休日は過ぎていきました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る