ロザリンド7歳・騎士団でお仕事編

第84話 騎士団と私

 今日は受ける授業が無いので学校から騎士団に行くことになりました。王立魔法学校の転移の間から騎士団・魔法院・商業ギルドに転移できるそうで、転移魔法陣は移動する生徒が集まっています。


私も列に並び、騎士団に転移しました。




 無事騎士団に到着。なんかやけにジロジロ見られてる気がしましたが、気にしません。魔法学校の腕章と見習い騎士の服を渡され着替えるように言われました。さすがにこれだけ異性がいる前で着替えられないので指導担当らしき騎士さんに声をかけました。




「すいません…」




 騎士さんはキョトンとしましたが、すぐに返事をしてくれました。




「あれ、ロザリンドさん。今日はどうしたんですか?」






「学校の派遣できました。よろしくお願いします」




 ペこりと頭を下げる私。げ、他の生徒着替え始めてる。乙女の前でやめてよ。慌てて別室で着替えたいと伝えようとしたら、囲まれた。




「お、ロザリンドちゃん元気か?」




「でかくなったなー」




 差し入れ効果か顔見知りの騎士達に囲まれ、周囲に変な目で見られるてる私。挨拶するのはいいが着替えたい。どうしたものか。




「うるさいよー」




 騎士さん達をかきわけ私を騎士の囲いから出したのは…確かヒューさん。カーティスと仲がよく、チャラい騎士さんである。確か攻略対象だったかな。好みじゃなかったから…多分である。チャラ騎士と呼ばれていたが、攻略すると意外に真面目で女性関係を一気に清算しちゃうなど、決めれば一途なギャップを持つキャラだった…はず。チャラいとこしか見てないからイマイチ自信がない。サラサラの茶髪に青い瞳。とにかくチャラいが助かった。




「おやおやぁ、こんなむさ苦しい所に可憐な花が…」






「助かりました。ありがとうございます。ついでに着替えたいので他に部屋ありませんか」




「その前に少し語ら「着替えたいので他に部屋ありませんか」




「……」




「……」




 お互い笑顔で沈黙した。彼との会話のコツは、会話をぶった切ることと決して引かない強い意思である。




「案内したら「お礼にこのクッキーを進呈します」




 言わせないよ?そっとクッキーを渡しました。




「…なぜにお菓子持参?」




「婚約者がお腹を空かせた時に出せるように常備しています」




 プルプルしながらもヒューさんは案内してくれた。笑いの沸点が相変わらず低い。何がツボだったのだろう。かすかにいまだに腹ペコイメージ…と呟くのが聞こえた。




「基本昼食を一緒に食べてましたから、会う時あのとんでもないお腹の雄叫びを聞いてますんで…まあいまだに腹ペコイメージですね」




「やめて、腹筋崩壊する…」




 残念なチャラ騎士に案内されて無事着替えを終わりました。髪はポニーテールにしました。






 他の生徒と合流し、簡単な説明を受けました。今日は簡単な訓練をして、実力を見るために先輩騎士と対戦をするそうです。




 まずは訓練をすることに。




「…あれ?」




 生徒は30人ぐらいいたのですが、皆さんばててますね。私も多少疲れたけど、まだいけます。健康な身体って素晴らしいですよね。




「15分休憩!」




 せっかくなのでディルクを休憩中に探すことに。他の騎士様も休憩してます。魔法で幻覚を使い、匂いと音を消し、ディルクの背後をとりました。幻覚だけ解除して座るディルクに後ろから抱きついてだーれだってしようとしたら…




「ロザリンド…」




 え?ばれてた??やるな、ディルク!あ、カーティスもいたのか。ニヤッと笑うと、カーティスも呆れた顔で笑い返しました。




「カーティス、ロザリンドに会いたい…」




「……?」




 あれ?たまたま私の名前を言っただけで、ばれてない?カーティスがジェスチャーで面白いから黙ってろ!と言っている。




「はいはい。ロザリンド、ロザリンドって会いに行けばいいじゃん」




「しつこくして嫌われたら嫌だ。でもロザリンドに会いたい。ロザリンドを抱きしめて、匂いを嗅いで…撫でられたいし撫でたい…ロザリンドが足りない」




「じゃあ会いに来てもらえば?」




「それは…そんなこと頼めない。今は学校に行きはじめたばっかりだから彼女も忙しいだろうし」




「じゃ、仕方ないな」




「うう…でも会いたい。抱きしめられたい」




「…される方なのか?普通逆じゃね?」




「…他のもふもふは触らないって約束する代わりに俺を好きにしていいことになってるから、多分される側かな」




「…身体張ったな」




「うん…尻尾触られて我慢出来るかな…」




「尻尾?」




「尻尾は性感帯なんだよね。好きな子に抱きつかれて身体を撫でまわされたあげくの尻尾…不安しかない。しかもされたい気がする自分に不安しかない。理性が飛んで彼女に襲いかからないか不安で仕方ない」




「…そう本人に言えば?」






「だいぶオブラートに包んで言ったら、好きにしていいって言われた」




「じゃあ好きにしたら?」




「出来るか!しかも既にやらかしてるし」




 ディルクはカーティスをシバいて顔を隠した。




「え?ついに?」




「こないだ酒に酔って…」




「…あーあれ。でもロザリンドの口ぶりだと最後まではいってないだろ?」




「いってないけど完全にアウトだったんだよ!俺の妄想かと思ったら全部現実だったんだよ!」




「…どこまでしたんだよ」




「あ…えっと」




「さすがに言ったら駄目」




 魔法を解除して話しかけた私にぎぎぎ…とディルクが振り向いた。




「…ロザリンド、いつから?」




「だーれだってしようとしたら名前呼ばれてびっくりしました。さらにカーティスが面白いから黙ってろとジェスチャーしたのでお話聞いてました」




「どこから聞いてたの」




「ロザリンドに会いたい辺りから」




「ほとんど最初じゃないか!」




 顔を赤くして涙目なディルクは今日も安定の可愛らしさです。




「で、抱きしめて匂い嗅いで撫でるんですよね?存分にどうぞ」




 両手をひろげて誘う。あら?今日は来てくれない。




「あ、あうううう」




 固まってますな。ピルピルしたお耳がまたぷりちー。ぜひモフりたい。




「私、ディルクに色々妄想されてたんですね。知りませんでした」




「ご、ごめんなさい…」




「私は気にしてません。私に性的な魅力があるとディルクに言われたようなものです。一生を添い遂げる相手に女として見れないと言われたらさすがの私も泣きます」




「ロザリンドは警戒心がなさすぎる!もっと恥じらいを持ってください!誘惑しない!」




「えー?ディルク以外は許さないよ?あと、誘惑は多分してない。ディルクは本気で私が止めればやめると思ってるから、信頼の結果かな」




「…その信頼が辛い」




 ディルクが体育座りで顔を伏せました。尻尾とお耳もションボリとしています。




「警戒したら、ぎゅーとかしないよ?私、ディルクに抱きしめられるのも抱きしめるのも好きなんですが」




「…誘惑に全く勝てる気がしない!あああもう!」




 ちょっと乱暴に抱き寄せられて抱っこされました。ちゃっかりお耳をモフる私。




「はう…もふもふ」




 ふかふかで素晴らしいモフ心地です。幸せです。そんな私に苦笑しつつ、カーティスが聞いてきました。




「つか、いまさらだけどなんでロザリンドは見習い騎士服着てんの?」




「ああ、学校で飛び級制度利用したら学ぶ事が無いことが判明しまして、派遣制度を利用して暫く騎士団で訓練参加することにしました」




 カーティスとディルクが微妙そうな表情をしました。仕方ないじゃないか。




「…団長それ知ってる?」




「言ってません。ちなみにディルクには意図的に言いませんでした。今日は思わぬ収穫に満足しています」




「ロザリンド…俺をからかって満足ですか?」




「はい。とても。自分の魅力に自信が持てそうです。これからはさらに頑張って誘惑しますから覚悟してね」




「これ以上はもたないからぁぁ!」




 涙目で叫ぶディルクと爆笑するカーティス。




「お前らマジ面白いわ。俺、団長にロザリンドのこと言ってくるわー」




 カーティスが騎士団の建物に行きました。私はディルクと集合場所に戻りました。




「あの、お昼…」




「時間合えば久々に一緒に食べましょうか。それから、私も会いたいのでいつでも会いに来てくださいね。お待ちしています」




「うん!」




 嬉しそうなディルクに私も自然と笑顔になる。ディルクと別れてお互い訓練を頑張ったのでした。








 さて、後半の模擬戦のお相手は…




「ロスワイデ候爵子息?」




「この間は負けたが、今回は負けん!」




「…気合い充分ですね。あの、なんで私だけ特別仕様なんですか?普通にさっきまでやってた騎士さんでよかったんですけど」




「カーティスが言いに来たら、たまたまこいつも居てな。再戦したいって言ってたからちょうどいいかと思ってな」




 気にすんな、と笑うルドルフさん。まあグダグダ言っても仕方ない、と武器を構える。模擬戦闘用の双剣だ。対するロスワイデ候爵子息はスタンダードなロングソード。




「始め!」




 火花が散る。やはり強い!しかし最近よく脳筋英雄と手合わせして負け越している私である。英雄に比べれば、速度も威力もやり合える程度だ。




「はぁっ!」




 多分加速を警戒してるな。守り重視の剣術。カウンター狙いかな?


 ロザリアさん嬉しそう。最近英雄に負け続きだったからね。ロスワイデ候爵子息とは剣だけならほぼ互角かな。




 私はふと気がついてしまった。そういや、重りしたまま…だな。うっかりしてた。ディルクはよく普通に抱っこしてたなぁ。


 ロザリアさんもすっかり忘れてたでしょ、うん。いちにのさん、で魔法解除して軽くするよ。外したいけどそんな余裕無いし、後でまた重さ調整面倒だけど仕方ないよね。いくよ




「いち」




『にの』




『さん!!」




 神経が研ぎ澄まされる。ロスワイデ候爵子息の動きが今までになくハッキリと認識できた。彼はロングソードで私の剣を受けようとしているが…遅い!




 ロングソードを叩き落とし、吸い込まれるような自然な動きでロスワイデ候爵子息の喉元に双剣を当てた。




「まいった」




 息を吐く。今までになく、視界がクリアになるような感覚だった。2人で同じ事を考えたからかも。




 私に剣を弾かれた衝撃で倒れたロスワイデ候爵子息に手を伸ばそうとした所で、拍手がおこった。




 ん?拍手?






「すっげぇぇ!」




「カッコイイ!」




「強いな、お前」




 口々に賞賛する上級生に囲まれる私。やめて、キラキラした瞳で見ないでください。なんかいたたまれない。


 今さらだが勝つべきではなかったかも…え?久しぶりに全力だしたかったから仕方ない?ロザリアが言うなら仕方ないね。




「完敗だな。先程のかけ声はなんだ?魔法か?」




「…魔法といえば魔法です」




 叱られる未来しか予測できず目を逸らす私。




「なんの魔法だ?」




「…これを解除する魔法です」




 百聞は一見にしかず。ロスワイデ候爵子息の手にリストバンド型魔具を発動させて落とした。




「ぬぁ!?」




 魔具を受け取るが重さでバランスを崩して前のめりになるロスワイデ候爵子息。よく落とさなかったね。でもプルプルしてますね。




「落としていいですよ?これ解除すると後で調整が面倒なんですけど、さすがに外す余裕は無かったので」




 ロスワイデ候爵子息が素直に魔具を落とすと魔具は地面にめりこんだ。




「つまり私はハンデのある君に負けたのか?」




 えらくショックを受けたご様子のロスワイデ候爵子息。ついうっかり本当の事を言ってしまった。




「いえ、貴方は強いです。うっかり魔具外すの忘れてただけです。貴方につけたまま挑もうとは思いませんよ」




「……」




 いい笑顔で頭をつかまれた。ヤバい!嫌な予感しかしない!




「馬鹿者ぉぉぉ!次からは最初から万全の体制で臨め!!」




「あいたたたた!すいません、すいません、許してくださいぃ!」




 ロスワイデ候爵子息の雷が落ちました。ハンドクローがマジで痛い!!一応女子なので加減して!




 数分後に事態に気がついたディルクにより救助されました。しかし救助したディルクが言いました。




「…フィズがこんなに怒るなんてなにやらかしたの?」






 やらかした前提で聞いてくる辺り、私の信頼度の低さな気がしました。説明したら、ディルクはなんともいえない表情でしたが納得した様子でロスワイデ候爵子息に一緒に謝罪してくれました。


 わざとじゃないんだよ!うっかりしてたんだよ!と必死で訴えたのもよかったのか、大人なロスワイデ候爵子息は正気にかえったらしく、すまないと言ってくれました。




 こうして、私の騎士団派遣1日目は過ぎていきました。


 あ、お昼は久しぶりにディルクと食べましたが、カーティスとヒューさんが乱入してきてやたら賑やかでした。

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