第81話 浮気とお買い物デート

 建国祭翌日、ディルクがお休みとのことでデートすることになりました。




 私服のディルクカッコイイ!と浮かれる私。ここまではいつも通りだったのですが…




「ロザリンド」




「はい」




「他の男の匂いがする」




「…はい?」




 私はすぐに思いつかず、しばらくしてジェスの事に思い当たりました。




「…も、もふりました」




「……相手は誰?」




「建国祭で迷子になった時に一緒に遊んだ獣人のジェスって子」




「…子供?匂いは多分成人…」




「見た目13ぐらい…多分」




 ディルクがにっこり微笑みました。目が全く笑っていません。私は抱きかかえられ、自室にリターンさせられました。さりげなく鍵かけられた!




 ベッドに押し倒され、こないだのモフモフもぐらさん事件を思い出しました。なんて学習しない私でしょうか!




「ロザリンドは、さぁ」




「うん?」




「獣人を撫でたりするのが好きなのは知ってる。でも俺が同じことしたらどう?」




「同じ…こと」




 想像してみました。ラビーシャちゃんあたりを撫で撫でもふるディルク。




「…浮気ですね。そして、私の今回も浮気ですね。ごめんなさい」




「今回は撫でたりしたぐらいなのは解る。それでも嫌なんだ。いくらでも獣化するから、ロザリンドが可愛がるのは俺だけにして。多少は仕方ないかもしれないけど…本当なら聖獣様も触って欲しくない」




 ディルクは怒っておらず悲しんでいた。私は本当に酷いことをしたのだと、心から反省した。こないだは舐めまわされた衝撃で反省するどころじゃなかったけど、こんなにもディルクを悲しませる行為はすべきではない。




「…どんなに可愛くてモフモフだろうとも、今後はディルクだけにします。我慢します。モフモフ中毒になったら充電させてくださいね」




「…本当に?」




 ディルクは驚いたようで目を見開いていた。




「ディルクを悲しませるぐらいなら我慢します。私も考えなしでした」




「ロザリンド…!」




 嬉しそうに私に擦り寄るディルクを抱きしめる。私の足に絡む尻尾を撫でると、ディルクがビクッとした。




「ひぁ!?」






「今回は私が悪いんでしませんけど、私が他をモフろうと思わないぐらい触らせてくれるんですよね?」




「う、うん…」




 恥じらうディルクは乙女のようです。




「尻尾も、全部だよね?」




「う…え!?し、尻尾は…」




「ダメ?」




「が…頑張ります。だから、他は触らないで」




 ちゃっかり言質を取ったものの、なんだか悪い男になったような気分です。


 今回は私が悪いんだよなぁ。そこに全くつけこまない辺り、私は本当に善良な恋人を見つけたと思う。




「ディルク、お仕置きは?」




「は?」




「悪いこには罰を与えないと」




「…へ?だって、ロザリンドは反省してるし、もうしないって約束したし」




 発想が明らかに健全である。前回怒らせた見返りに告白映像をゲットした私とは大違いだ。




「私にしたいこと、して欲しいこと、無いの?今ならなんでも言うこと聞くよ?」




 ディルクは私の意図を察したらしい。真っ赤になってあわあわしだした。何を想像したのだろうか。




「ひ…」




「ひ?」




「膝枕して」




「はい。生足ですか?スカートはそのまま?」




「そのままで!」




 私はベッドに座り、ディルクを手招きする。




「どうぞ」




 ディルクは膝に頭をのっけるが、居心地が悪いのかそわそわしている。耳も尻尾もピーンとしていて緊張している様子。頭を優しく撫でると尻尾が擦り寄る。尻尾は撫でると逃げたがまた寄ってきた。




「ディルク…」




「ん…?」




「これ、なんてご褒美?可愛い…幸せ…」




 うっとりする私にディルクは苦笑した。起き上がると、私にキスをする。




「せっかくのデートだからそろそろ行こうか」




 私の髪を整え、私をベッドから連れ出す。




「急げばまだ間に合うね」




 時計で時間を確認し、ディルクは私を抱きかかえると窓から飛び出した。




















 ディルクに抱えられた私は貴族御用達の高級洋品店に到着した。




「すいません、予約していたんですが」




「お待ちしておりました、バートン様。お嬢様はこちらにどうぞ」




「へ?え?」




 挨拶をした店主さんらしき人が上品な女性達に合図すると私は取り囲まれて奥に連れて行かれた。




 2着の可愛いワンピースが部屋にある。片方は白いレースを基調に繊細な青い花…リッカの花が裾に刺繍され、清楚で可愛らしい印象だ。


 もう片方はワインローズを基調にシンプルかつ大人っぽい。鈴蘭が刺繍され、上品な印象だ。




「どちらもお似合いですわね…」




 店員のお姉さん達がため息をつく。私そっちのけでどちらを先にするかでもめだし、店主さんに一喝されてようやく沈静した。




「お嬢様はどちらが好みですか?」




「…彼が好ましいと思うものがいいです」




 つい照れてしまったが、お姉さん達はキャーっと盛り上がりディルクを連れてきた。




「どうしたの?気に入らない?」




「気に入ったけど、着るのはディルクがいいと思った服がいい…」




 ディルク、壁が割れる。壁をドンドン殴ったら壊れるよ。壁壊したら大変だよ。




「白い方で。アクセサリーと靴は私が用意した物を使ってくれ。足りないものがあれば金額は気にせず追加を」




「え、ちょ…」




「…お仕置きだから、俺が好きにしていいんだよね?」




 まさかのここでお仕置き権行使!?ディルクはまた部屋から出て行き、私は着替えさせられ髪を直されてディルクの所に連れていかれました。




「いかがですか?」




 鏡で見たらなかなかだと思ったがどうだろうか?服に合わせた白いレースで清楚に編みこまれた髪。靴も白だがリッカの花がついていて、まるであつらえたような…まさかあつらえたのか!?これ既製品じゃない気がする!




「すごくいいね。このまま着て行くから、着ていた服も包んで。もう1着も貰うよ」




「ありがとうございます」




「さ、行こうか」




 さりげなくエスコートをされる。




「え、お金…」




「甘やかすって言ったし、ロザリンドはこういうの苦手なの知ってる。今日はロザリンドを好きにしていいんだよね?だから当然返すとか言わないよね?俺が選んだ可愛い服でデートしてくれるんだよね?」




 見事に私を言い負かすディルク。彼は確実に私の扱いが上達したようです。




「あの…ありがとう。に、似合う?」




「うん。想像以上に可愛い。普段も可愛いけど、俺が選んだものだと思うと…なんか満足感もあるかな」




「ディルクはこういうのが好きなの?」




 片方はどちらかと言えば私好みのデザインだった。今着ているようなものは、可愛いとは思うが自分では選択しないだろう。




「店で見かけて、ロザリンドに似合いそうと思ったんだ。好みといえばそうなのかな?普段の服だってよく似合ってるよ」




「…今度、一緒に服を選んでくれる?」




「喜んで」




「お礼に私もディルクの服選びたいな」




「うん?」




「ダメ?」




「いいけど…」




 というわけで獣人御用達の洋品店でディルクの服を選ぶことになったわけですが…




「ディルク素敵!」




 ウルファネアの衣装を見つけてしまい、着てもらったら…素晴らしい!ほどよい筋肉が解る、ピッタリしたチャイナ服みたいなウルファネアの衣装はディルクによく似合った。




「記念…記念に映像撮りたい!家宝にするのでダメ!?」




「…駄目。本人に見とれてください。これ着て出たらさすがに目立つな。ロザリンド、今度また着てあげるから別の選んで」




 ちょん、と私の鼻をつつくと優しく微笑むディルク。か、かっこよすぎる!!誰だ、上手くかっこつけられないとか言ったの!ディルクか!




「ディルクがかっこ良すぎて萌え死ぬ…本気で惚れなおしました!結婚してください!!」




「ええ?あ、ありがとう?」




 私の奇行に戸惑いつつもディルクは嬉しそうに笑っていた。




 結局ディルクの服はシンプルなもので落ち着きました。私と合わせ、白いシャツにブルーグレーのズボン。ダークブルーのコート。衿にワンポイントでピンを付けました。もとがいいので服がシンプルだと更に良さが引き立ちます。


 支払いは私がやる!私もディルクにプレゼントしたい!じゃなきゃ帰る!譲れない!と主張した私が粘り、勝ちました。




「ロザリンド?」




「ディルク素敵…」




 うっとりしてディルクに見とれる私。何時間でも眺めたい!




「あ、ありがとう」




「ディルクかっこよすぎる…ただでさえ美形なディルクがシンプルな装いにより更にイケメンに!記録を禁止された今、記憶に焼き付けるしかない!」




「い、いけめ?」




 ディルクにイケメンについて説明しつつ、私達はデートを楽しみました。次はまたディルクが選んだ洋服でデートしたいと思います。


 またディルクに似合う服も探したい。今日は色々あったけど、幸せな一日でした。

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