第80話 建国祭の出会い
皆様、こんにちは!私ことロザリンド=ローゼンベルクは建国祭に来ています。建国祭はこの国最大のお祭りです。他国からも観光客で賑わい、特に王都は賑やかで露店がならんでおります。王族のパレードなんかもあり、限定品も数多く、見所満載です。
私は子供達と兄とゲータ、ラビーシャちゃんでお祭り見学に来ました。ディルクは警備のお仕事でデートできず。残念です。お小遣いを子供達に持たせ、迷子にならないよう言い聞かせてお出かけしました。
そして、迷子になった私。
迷子=私。ロザリンド=ローゼンベルク7歳。まさかの迷子。はぐれました。しかも道に迷いました。完全に迷子です。
「どーしよっかな」
しかも見渡す限り人、人、人。探し出せる気がしませんよ。仕方なく緊急時に備え持ってた通信魔具で私は私で見て回るからと兄に一方的に告げて切りました。人が多すぎて魔力が阻害されるため、それしか言えなかったのもあります。
せっかくのお祭りです。ボッチでも楽しむべし!
限定スイーツに普段は見ない異国のアクセサリー。お祭りはワクワクでいっぱいです。ま、まぁそれ見ててはぐれたんですけどね。
路地裏に身なりのいい獣人の少年がうずくまっているのを見ました。金色の毛並みにフサフサな耳と尻尾。
「気分でも悪いの?」
連れもいないようだし、声をかけました。人さらいにでも連れていかれたら、良心が痛みますしね。
「は!?お前私が見え…いや、大丈夫だ。具合は悪くない」
「ふむ。お忍びですか?」
「…そんな所だ」
少年は偉そうだし、かなり高位の他国貴族と思われる。
「そんな身なりのいい服じゃ目立ちますよ。お忍びならまず格好から」
「は?」
立ってみると少年は私より背が高い。13ぐらいかな?
「行きましょう」
私は笑顔で少年の手を取った。
「ま、待て!引っ張るな!」
慌てながらも少年は素直について来た。適当に歩くと、見知った大通りに出られた。馴染みの洋品店に入る。
「おや、珍しいお客様だね。ロザリンドちゃんのお友達かい?」
「お忍びみたいだから、一式平民に見えるように見繕ってくれる?」
「あいよ」
気のいい店主さんは服と靴、帽子に大きめの鞄も持ってきた。この店は獣人御用達で服はほぼ獣人用なのである。伸縮性がよく獣化に耐えるものや、魔法で完全獣化に対応したものもある。ジェンドや子供達の服は大体ここで購入している。
「お祭りだし、取っといて」
相場より多めに渡しておく。
「じゃ、好きな色選んで」
「金は私が…」
「そんな金貨、ここじゃ使えないよ。私もくずすほど持ち合わせてないし…これ、どこの金貨?」
「ウルファネアだな。見たことがある」
店主さんが金貨を眺めてそう言った。獣人向け洋品店だから交流があるのかもしれない。
「ふうん。まぁいっか。じゃ、行くね」
「はいよ」
私は店主さんに手を振り、少年の手を取った。
「どこから行く?」
「ま、待て!お前は一緒に行く気か!?」
「うん。洋服代がわりに付き合ってよ。連れとはぐれちゃったんだよね。ダメかな?」
少年はため息をついた。瞳は綺麗な青だった。
「別に行くあても無かった。構わない。私は…ジェスだ」
「私はロザリンドだよ。じゃ、れっつごー!」
少年…ジェスは偽名っぽかったけど気にしない。限定ランチに食べ歩き。私は少し食べ、残りはジェスが食べてくれました。さすが獣人。よく食べます。
「ウルファネアとは味付けが違うな」
串焼きを頬張りつつ、ジェスがそう言った。
「へえ、ウルファネアのって、どんな味付けなの?」
「キツイ匂いやスパイスを嫌う種族がいるからな。塩なんかでアッサリしていることが多い」
「…勝手なイメージなんだけど、味付けが面倒とかいうオチは?」
ジェスは目を逸らした。
「…多分それもある」
あるんかい!正直だなー、ジェス。
「ふは、大味なんだね」
「そうとも言う」
ジェスも私につられたのか、薄く微笑んだ。なんかジェスは誰かに似ているんだけど、思い出せない。
夕方になり、お互い帰ろうと別れかけた所で、違和感を感じた。ジェスが私の手をとり人気のない方向に連れていく。角を曲がり、人がいないのを確認して、私を持ち上げた。
このパターンは嫌な予感しかしない。
案の定、ジェスはものすごいスピードで走り出した。悲鳴をあげたいが、多分ジェスは追っ手を撒きたいのだろうから我慢した。
「…死ぬかと思った」
王都を囲う塀も飛び越して、今は森の中。王都の壁、獣人なら越えられるじゃないか。要検討案件だな。
しかしホッとしたのもつかの間。殺気を感じた。私がターゲットではないようだ。先程の奴らとも気配が違う。数は…5人か。
「ロザリンド、下がれ」
ジェスの身体が膨れ上がる。みるみるうちに巨大なもふもふに変わり、5人の刺客を木ごとぶっ飛ばした。勝てないと判断したのか、刺客の気配はアッサリ消えた。
残ったのは、巨大な金色羽つきわんこである。背中には鳥の羽。身体はゴールデンレトリバー的なわんこ。
「き…きゃぁぁぁぁ!」
私の悲鳴にジェスは悲しげな瞳をして飛び立とうとした。私は前足にしがみついた。おおう、幸せなモフ心地。
「……………は?」
「素敵なもふもふ!ジェス!モフらせて!」
「………モフる?」
ジェスは首を傾げた。おう、つぶらな瞳がかわゆいな。
「うん。抱きしめて撫でて、ふかふかした毛の感触を楽しむ!」
「…怖くないのか?」
「何が?」
「私が」
「別に?4つに頭から裂けて臓物撒き散らしながら触手とか出てきたら怖いかも」
「どんな化け物だ、それは!」
顔が犬なのにドン引きされたと表情でわかる。リン存命時に知り合いがくれたホラー映画の化け物ですよ。怖い通り過ぎてトラウマもんでした。
「えー、見たいなら幻覚魔法使う?」
「いらん!見たくない!!」
全力で拒否られました。賢明な判断ですね。見ない方がいいよ。
「で、もふもふしていい?」
何故だろう。残念なモノを見る目で見られたような気がする。
「…………本気か」
「本気」
「好きにしろ」
「やったー!」
素晴らしい巨大もふもふ!もふり権ゲットです!ナデナデしたり、巨大な肉球プニプニしたり、堪能させていただきました。
「楽しいか。変な奴だな。皆この姿を見れば恐れて逃げ出すのに」
「それはちゃんとジェスを見てないからでしょ。ジェスは私に怯えられるのも承知で私を助けようとするぐらいいい奴なんだから、ジェスをちゃんと知ってれば怖いとかないよ」
「…そうか。そうだな。親しい者は逃げないな」
「でしょ」
得意げな私にジェスは苦笑した。おや、お耳が王都方面を向いた。
「時間切れだ。なかなか楽しかった。王都まで送るか?」
「大丈夫。問題ないよ」
金色の翼をはためかせ、わんこは飛んでいった。あんなデカイ奴、王都が騒ぎにならないかなと思ったが、よく見たら光の屈折操作魔法を使っているようだ。私は耳飾り効果で効かなかったのだろう。多分路地裏にいる時も使ってたんだね。
振り返らず飛んでいく金色羽つきわんこを見送り、私も帰宅した。
帰宅すると待ち構えていた大魔神・兄からお説教された上に、子供達から今度からおててつなごうねと追い打ちをかけられました。
見事私だけ迷子になった手前、私は何も言えませんでした。
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